精神的健康を意識してSNSの利用を控える「SNSデトックス」は逆に健康によくない可能性がある
ソーシャルメディア(SNS)の使用は、更新や返信などが気になりすぎて仕事・勉強に支障をきたしたり、顔の見えないやりとりによって人間関係に問題が起きたり、誹謗(ひぼう)中傷や見ていてつらい投稿などで精神的健康を害したりと、問題を引き起こすこともあります。そのため、SNSの使用を控えて「SNSデトックス」をすべきと考える人もいますが、イギリスのダラム大学心理学部のチームが実施した研究によると、SNSの使用を控えることでかえって精神的健康を害する可能性があるそうです。
Restricting social networking site use for one week produces varied effects on mood but does not increase explicit or implicit desires to use SNSs: Findings from an ecological momentary assessment study | PLOS ONE
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0293467
Why a social media detox may not be as good for you as you think – new research
https://theconversation.com/why-a-social-media-detox-may-not-be-as-good-for-you-as-you-think-new-research-217484
ダラム大学心理学部のニクラス・イーセン氏とマイケル・ワズリー氏は、「SNSデトックス」の影響を調べるため、被験者となった学生にSNSを1週間使わないよう指示しました。
2023年に調査会社・DataReportalが実施したSNSに関する調査によると、16歳から64歳のインターネットユーザーは、1日に平均して2時間半以上をSNSに費やしているとのことでしたが、今回の研究に参加したダラム大学在学中の学生は、1日に平均して3時間~4時間ほどSNSを使用していました。
以下の画像は、日ごとにSNSの使用時間がどれだけ変化したかを示したグラフ。縦軸が時間で、100分ずつ線で区切られています。横軸は日数で、研究が始まって数日はSNS使用時間の調査期間であり、参加者は「4日目」にSNSの使用を控えるよう指示されています。緑色のグラフはスマホを使用しているトータルのスクリーンタイムで、青色のグラフはSNSを使用している時間。グラフによると、指示があってからSNSの利用は200分近く減り、スクリーンタイムもそれに伴って100分程度減少しています。また、SNS使用を解禁した11日目以降も、元の時間よりはSNS使用時間が減っていることがわかります。
研究では、SNSの使用を控えている間に毎日のアンケート調査をしたほか、期間終了後にラボセッションを実施しました。結果として、SNSの使用を控えるSNSデトックスをしたにもかかわらず、参加者の健康状態に改善は見られませんでした。それどころか、SNS使用禁止の期間中に参加者はポジティブな感情が減少したことが確認されています。
以下のグラフは、期間中の心理的な変化を示したもの。青の棒グラフが元の数値、緑色がSNSデトックス期間、赤色がデトックス終了後の期間の調査結果です。グラフによると、一番左の「Positive Affect(ポジティブな感情)」がSNSデトックスにより減少していることがわかります。「Negative Affect(ネガティブな感情)」もSNSデトックスにより減少しており、さらにデトックスを解除すると増加しているため、「SNSデトックスはネガティブな感情を抑えるが、同時にポジティブな感情も減少させてしまう」ということがわかります。また、「Boredom(退屈)」「Loneliness(孤独)」「Cravings(渇望)」でもわずかに期間ごとの数値の変化は見られますが、論文では有意な差ではないとしています。
SNSデトックスによってポジティブな感情が減少した理由として、研究者は「SNSは、他人や友人からの反応、フォロワーの獲得などを通じて、強力で定量化可能な社会的報酬を提供します。短時間の娯楽や楽しみもSNSは提供しますが、2022年に私たちが実施した調査によると、SNSを強迫的にチェックする原因は、多くの場合こうした社会的報酬であることがわかっています。SNSは社会的動物である人間がつながりという報酬を求める体験であり、この報酬は失望や嫉妬など不快な体験に変わりやすいものですが、失われると喪失感があるものだと考えられます」と述べています。
さらに、「Cravings(渇望)」という数値に有意な変化がなかったことから、「SNSの使用を控えても、薬物使用をやめるときに見られるような、『禁断症状』は引き起こされないようです」と研究者は結論付けました。SNSにこだわる人はしばしば「SNS依存」と呼ばれることがありますが、ここで「依存症」という言葉を用いることは、通常の行動を必要以上に病理化してテクノロジーを悪者に表現するリスクがあるため、厳密な意味では注意すべきであると研究者は指摘しています。
結果として、SNSには良い面と悪い面の両方があり、SNSデトックスを実施するとしたら、ただ使用を完全に控えるのではなく悪い面を取り除くよう行動する必要があります。デトックスとは「detoxification(解毒)」を短縮した言葉で、「体内の毒素や老廃物を体から取り除く」という意味があります。しかし、健康やダイエットのために必要以上に体内の物質を取り除くと、エネルギー不足に陥ってしまいます。同じように、SNSデトックスでも自分の限界を知り、ポジティブな報酬を理解しながら、不必要だと思うアカウントのフォローを解除したり好ましくないアプリやブックマークを削除したり、個別的に対処する必要があると研究者は語っています。
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