サイエンス

「栄養状態が改善されれば囚人の暴力が減る」と栄養学と心理学の専門家が語る


かつてヨーロッパ最大の女性刑務所だったホロウェイ刑務所で、セラピストとして勤務していた心理学者のキンバリー・ウィルソン氏は、栄養状態の改善がメンタルヘルスと脳機能の鍵だと主張しています。科学系メディアのLive Scienceが、ウィルソン氏に栄養と脳の関連についてインタビューした内容を公開しました。

'When you improve nutrition, you reduce violence': Psychologist Kimberley Wilson on working in Europe's largest women's prison | Live Science
https://www.livescience.com/health/mind/when-you-improve-nutrition-you-reduce-violence-psychologist-kimberley-wilson-on-working-in-europes-largest-womens-prison


ウィルソン氏はホロウェイ刑務所でセラピストとして働いたキャリアを通じて、食事とメンタルヘルス、行動の関連性について学んだと語っています。その後はロンドンでメンタルクリニックを開業しているほか、「How to Build a Healthy Brain:Reduce stress, anxiety and depression and future-proof your brain(健康な脳の作り方:ストレス、不安、憂うつを軽減して脳の未来を守る)」などの著作を出版しています。

Live Scienceとウィルソン氏のインタビューを抜粋し、わかりやすく編集したものが以下。Live Scienceのインタビュアーはサッシャ・パレ氏(以下・パレ氏)です。

パレ氏:
あなたが食べ物に注目したことにはどういった経緯があるのですか?

ウィルソン氏:
資格を取得して最初の仕事は、刑務所で囚人へのセラピーを提供する慈善団体で働くことでした。当時(2008~2013年)、女性がイギリスの囚人全体に占める割合は6%でしたが、刑務所全体で発生していた自傷行為の約50%を女性が占めていました。ちょうどその頃、囚人にビタミン・ミネラル・脂肪酸を含むサプリメントを投与して栄養状態を改善すると、暴力行為が対照群に比べて有意に低下するという研究結果が出てきたのです。これは私にとって特別な研究でした。刑務所で働く中で安全と危害について考えていましたが、安全でアクセスしやすく、低コスト、低リスクな介入が、囚人だけでなくスタッフの幸福も改善できることを実証した、質の高いゴールドスタンダードの研究があったのです。


パレ氏:
新しい情報について、仲間や同僚はどのように受け止めていましたか?刑務所で働いている間、栄養状態の改善を行ったのでしょうか?

ウィルソン氏:
私は管理者と医療責任者にこのことを伝え、小規模な試験を行うことができるか、あるいは最もリスクの高い女性にサプリメントを提供できるかを確認しようとしました。ですが、何の反応も得られませんでした。人々がこの問題に関わりたがらないのは本当に興味深いことです。その後、アメリカ・イギリス・オランダ・シンガポールの研究でも、栄養状態を改善すれば暴力が減るという同じ結果が示されています。

パレ氏:
あなたは同僚が納得しなくても、出てきたデータに納得したわけですね。それから数年後に刑務所の仕事を辞め、ロンドン中心部で開業しましたが、栄養学をセラピーに取り入れるようになったきっかけは何でしょう?

ウィルソン氏:
私は栄養学の修士課程で、脳の健康における栄養の役割について研究しており、健康な脳がメンタルヘルスをどのように改善するのかについて考えていました。そのため、クライアントや患者と共にこの問題について考えるようになったのです。


パレ氏:
近年はあなたが行っているような仕事、つまり生活習慣を統合したセラピーへの関心が高まっていると思いますか?

ウィルソン氏:
確かにそれについての会話が増える一方、それに伴って懐疑的な見方も増えています。脳は何らかの形で体と関連しているのでしょうか?そして、栄養の質や状態が神経学的症状や精神状態に関与しているのでしょうか?脳と身体との再統合は、メンタルヘルスの治療と研究の未来にとって、極めて重要だと思います。

パレ氏:
身体と脳の関連についてすぐに思い浮かぶのは「腸と脳」の軸ですが、栄養と脳の関連性を示す最近の研究はありますか?

ウィルソン氏:
母親の食事と子どもの脳の健康についての研究を見ると、確かに明確な関連性が認められます。たとえば、妊娠中のヨウ素欠乏症は子どもの予防可能な脳損傷の主な原因であり、これによって子どものIQが低下することが知られています。また、母親のオメガ3脂肪酸の摂取量が多いことが、赤ちゃんの脳の容積の増大と、ニューロンの接続性の向上に関連していることもわかっています。

より広範な食事という点では、糖分や塩分、脂質を多く含む加工済み食品の「超加工食品」は栄養素が低くなります。脳は体内で最も飢えた器官であるため、超加工食品の摂取量が多い人が脳を働かせる上で十分な栄養を得られるかが焦点となりますが、その答えは「ノー」です。超加工食品の摂取量が多い人はうつ病や不安症の発生率が高く、認知機能の低下が早くなります。

砂糖や脂肪がたっぷりの超加工食品は健康だけではなく学習や記憶にも影響を与える可能性 - GIGAZINE


パレ氏:
これらの情報をクライアントにどのように伝えていますか?

ウィルソン氏:
私はただ、エビデンスを提示しているだけです。「野菜や果物を少し多めに食べるだけで、気分が少し良くなることが証明されています。試してみたらどうでしょう?」といった風にです。栄養が気分に大きな影響を与える人もいれば、そうでない人もいますが、しばらく栄養をたくさん摂取しようと試みるのは悪いことではないでしょう。

皮肉なことに、人々はSNSで自分は何をすべきかの指示を求めますが、私は「ここに情報があるので、この情報をお好きに使って下さい」と言うだけです。人々が情報に触れるのは大切ですが、それは命令ではないのですから。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
科学者が「週に1回は絶対食べて」と勧める植物性食品4選、健康にいい理由や料理法も伝授 - GIGAZINE

食事や健康、栄養の研究は企業のマーケティングによって根本的にねじ曲げられているという指摘 - GIGAZINE

栄養バランスの悪い食事が「味の好み」を変える可能性が示される - GIGAZINE

「和食」を食べる女性は西洋型の食事をしている人より脳の衰えが少ないことが判明、なぜ女性だけなのか? - GIGAZINE

砂糖や脂肪がたっぷりの超加工食品は健康だけではなく学習や記憶にも影響を与える可能性 - GIGAZINE

自分へのご褒美として「不健康な食事」を取ると脳の認知機能に影響が出るとの研究結果 - GIGAZINE

「何を食べるか」が脳や気分にどのくらい影響を与えているのかをわかりやすく解説 - GIGAZINE

in サイエンス,   , Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.