サイエンス

食事や健康、栄養の研究は企業のマーケティングによって根本的にねじ曲げられているという指摘


世界的にヘルスケアへの注目が高まっており、オーガニック食品プロバイオティクスなど健康によいとされるさまざまな食品が登場しています。しかし、医学研究が製薬会社の出資を受けているように、このような栄養素の研究も食品メーカーの出資を受けているケースが多く、研究にはバイアスが発生していることをメルボルン大学の食品政策研究者であるGyorgy Scrinis氏が「超加工食品」を例に挙げて解説しています。

Ultra-processed foods and the corporate capture of nutrition—an essay by Gyorgy Scrinis | The BMJ
https://www.bmj.com/content/371/bmj.m4601

2015年、コカ・コーラが非営利の肥満研究団体グローバル・エナジー・バランス・ネットワーク(GEBN)に資金提供していることをニューヨーク・タイムズが明らかにしました。GEBNの目的は「砂糖入りの飲料が肥満レベルの上昇の原因ではない」と研究で示すことであり、コカ・コーラの宣伝活動のための組織だったと考えられています。コカ・コーラが大きな非難を受けてGEBNへの資金提供をやめると、GEBNは閉鎖されたことから、「GEBNがコカ・コーラの宣伝のために設立された」ということを示していると指摘されています。


「企業の科学活動」の多くはコカ・コーラが行っていたものと同様だとScrinis氏は述べています。食品を開発・販売する企業には研究活動の実施、学術誌への論文掲載、専門家会議の後援、研究機関への出資、栄養教育プログラムの提供といった「科学的活動」を行っているところも少なくありませんが、その目的は自社製品の評価・販売促進・正当化などに科学的知見を利用することです。

「超加工食品」と呼ばれる食品を開発する企業もまた、同様の活動を行っています。そもそも超加工食品とは、油・脂肪・糖・デンプン・タンパク質などの混合物で構成される工業的に製造された食べ物を指し、人工香味料や着色料、乳化剤、防腐剤といった添加物を含み、近年では肥満との関連や死亡率を上昇させる可能性などの健康上の問題が疑われています。このような疑いを拭い去り、自社製品を販売促進するために企業が「科学活動」を利用しているとScrinis氏は指摘しています。

たとえばコカ・コーラは砂糖の無害性を説明する時に、科学者が体重増減の説明にしばしば用いるエネルギー・バランスモデルを利用しましたが、これと同様に超加工食品の開発企業もまた、既存の主流栄養学のロジックを利用して自社製品の無害さをアピールしようとしているとのこと。

超加工食品の開発企業も栄養研究に対して出資活動を行っていますが、そこには「企業の利益になる研究結果」が求められるため、研究にバイアスが生じます。また企業は自社製品が悪く評価される可能性のある研究を出資対象にしないため、特定の研究が無視されるという事態も発生します。さらに、企業が自社製品のためになる研究結果を欲しがることで、特定の食べ物や栄養素にだけ焦点が当てられることになり、「人がどのように食品を摂取しているのか」といった行動パターンも無視されがち。これにより、長い間、人の健康に社会的・商業的・生態学的要因がどのように関係しているのかという点が明らかにされないまま放置されてきたことも、大きな問題です。


超加工食品の問題として指摘されている内容は、これまでのところ、塩分・糖分・脂肪分・飽和脂肪酸・トランス脂肪酸といった特定の物質が多すぎるといった「栄養素」という枠内で議論されてきました。しかし、栄養素の枠内で議論が行われる以上、その解決策は栄養素の枠を出ることができません。つまり、「多すぎる特定栄養素を減らす」という方向の解決策になります。もちろん、このような解決策が意味のないものとはいえませんが、一方でこの議論は、製品の製造過程でどれほどの化学物質が添加物として使われているかといった点から視線をそらしてしまいます。

実際のところ、超加工食品に大量の塩・砂糖・油・添加物などが加えられるのは、製造の過程で劣化した食品の風味や食感を補うためであり、これらを含有量を減らすのは非常に難しいとされています。ゆえに企業は問題とされている砂糖・塩・油・添加物を減らす代わりに合成甘味料や香料、テクスチャー剤を加えます。コカ・コーラは長年砂糖の無害性を訴えようとしてきましたが、近年の多くの企業はこのようなアプローチを取らず、正直に砂糖・塩などの含有量を減らすという方策をとっています。この背景には、政府が製品の品質の大幅な改善を要求する規制を作り出すことを避けたいという思いがあるとのこと。

そして製薬会社と異なり、食品会社はパッケージに明確な疾病予防や健康上の利点を表示することができません。その代わりにタンパク質・食物繊維・オメガ3脂肪酸抗酸化物質といった栄養素を、「暗黙の健康強調表示」として利用することになります。食品パッケージに各栄養素を表示することで、消費者は特定の栄養素と健康的利点をリンクし「健康の利点」を想像します。栄養マーケティングとは本質的に消費者の想像をかき立てて「健康によさそうな雰囲気」を作り出すことが目的だとScrinis氏は述べました。


この点、多くの国において、超加工食品は食品全体の栄養価に関わらず、含まれる栄養素の利点をパッケージに表示させることが可能である点も、問題を複雑にしています。

栄養マーケティングを行うため、食品会社はマイクロバイオームや機能性食品など、科学研究によって効果が期待されている多くの栄養素を商品化しようと試みています。ネスレは一部の熱処理されて「死んだ」プロバイオティクスが生きている菌よりも腸の健康に役立つという研究結果を発表しましたが、これも同様の目的を持つものです。

このような企業による栄養学研究への影響を取り除くため、Scrinis氏はまず科学者・研究資金・学術誌・専門家委員会などの透明性と独立性を高める必要があると提言しています。学術誌や意志決定委員会の利害関係を明らかにし、科学者が食品産業からの後援を拒否し、政府の食事ガイドラインの制定において業界が資金提供した研究を除くことも方法として挙げられています。また栄養素だけにフォーカスを当てるのではなく、健康が社会的・商業的・生態学的要因とどう関係しているのかを説明する、より大きな「枠組み」を作ることが、超加工食品のあり方を見直すことにつながるとScrinis氏は述べました。

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in サイエンス,   , Posted by darkhorse_log

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