Single-site iron-anchored amyloid hydrogels as catalytic platforms for alcohol detoxification | Nature Nanotechnology
https://www.nature.com/articles/s41565-024-01657-7
New gel breaks down alcohol in the body | ETH Zurich
https://ethz.ch/en/news-and-events/eth-news/news/2024/05/press-release-new-gel-breaks-down-alcohol-in-the-body.html
アルコールが持つリラックス効果により、飲酒は広く楽しまれていますが、缶ビール半分程度のアルコールでも脳に重大な影響を及ぼすなど、わずかなアルコールでも健康被害につながることを示す研究結果が次々と報告されています。以前から、アルコールの有害な影響を緩和する中和剤の研究が重ねられてきましたが、その多くは作用が複雑で効果が薄く、アルコールの代謝により発生する有害物質であるアセトアルデヒドの蓄積が避けられないといった課題がありました。
スイスにあるチューリッヒ工科大学のラファエレ・メッツェンガ教授らの研究チームは、2024年5月13日に学術雑誌・Nature Nanotechnologyに掲載された論文で、経口摂取することで胃腸内のアルコールを分解するタンパク質ゲルを発表しました。
このゲルの主成分は、一般的なプロテインなどに使われている乳清タンパク質に、鉄分と金の粒子を加えたもの。乳清タンパク質を長時間加熱して塩と水を加えるとゲル化して消化されにくくなりますが、さらに触媒として鉄分を加えるとアルコールと鉄が反応し、酢酸に変換されるとのこと。この反応は非常に遅いため非効率的とされてきましたが、研究チームは鉄のナノ粒子ではなくタンパク質のフィブリル(繊維)に鉄の原子を結合させる方式を採用することで、効率的なアルコールの分解を実現させました。
また、この反応には微量の過酸化水素が必要ですが、消化されない貴金属である金を加えることで、グルコースと金のナノ粒子が反応して過酸化水素が発生するようにしました。
研究チームがマウスでゲルの効果を確認したところ、アルコールを飲んでから30分後のマウスの血中アルコール濃度が40%減少し、5時間後には対照群のマウスに比べてアルコール濃度が56%も低いとの結果が得られました。特に重要なことに、ゲルを与えられたマウスでは有害物質のアセトアルデヒドの蓄積が抑制され、血液検査でも肝臓のストレス反応の大幅な減少が示されたとのこと。また、10日間毎日アルコールとゲルを与える実験では、肝臓だけでなく腸や脾臓(ひぞう)などのダメージも少なかったことから、継続的な治療効果も実証されました。
以下は、ゲルの作用の概略図です。お酒とゲルを同時に摂取すると胃腸の中でアルコールが直接酢酸に変換されますが、血管へと吸収されてしまったアルコールが肝臓で分解されると二日酔いの原因であるアセトアルデヒドが発生します。
メッツェンガ氏は、「お酒は一切飲まないほうが健康的ですが、完全な断酒はしたくないけど体に負担はかけたくないという人や、積極的にアルコールの効果を求めているわけではない人にとって、このゲルは特に興味深いかもしれません」と話しました。
研究チームは、既にこのゲルの特許を申請しています。ゲルの人間への使用が許可されるまでには、まだいくつかの臨床試験を突破する必要がありますが、ゲルの主成分である乳清タンパク質のフィブリルは既に食品として認められているため、研究チームは時間の問題だと確信しているとのことです。
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