世界初の遺伝子治療で生まれつき聴覚障害がある子どもの耳が聞こえるようになる
1回治療液を耳に注入するだけで終わる画期的な遺伝子治療により、生まれつき耳が聞こえなかった子どもの聴力がほぼ正常になった事例を、イギリスのメディア・The Independentが取り上げました。
Deaf girl is cured in world first gene therapy trial | The Independent
https://www.independent.co.uk/news/health/deaf-cure-girl-gene-therapy-b2541735.html
イギリスのオックスフォードシャー州に住む、記事作成時点で生後18カ月のオパール・サンディちゃんは、内耳から脳に伝わる神経の信号が遮断されることを原因とする聴覚神経障害により、生まれつき完全に耳が聞こえませんでした。
オパールちゃんの聴覚神経障害は、耳の細胞が聴覚神経に音の信号を伝えるのに必要なタンパク質「オトフェリン」を作るOTOF遺伝子の欠陥によって引き起こされるものです。
この聴覚障害を改善させるため、オパールちゃんは2023年9月にバイオテクノロジー企業・Regeneronが開発した遺伝子治療を受け、手術で右耳に聴覚を機能させる遺伝子を含んだ治療液を投入されました。
手術は、全身麻酔をかけてから耳の中に治療液を行き届かせるための穴を通すというもので、従来から聴覚障害の改善のために行われるインプラント手術に非常に近いものだとのこと。
遺伝子治療の結果、オパールちゃんは4週間後に聴力が改善し、両親が手をたたくと振り向くようになりました。母親のジョー・サンディ氏は「この子が初めて振り向いた時、私はそれが信じられず、偶然何かが動いたのが見えたのかと思って何度か繰り返しました。そして、夫のジェームズにメールして『うまくいったみたいだよ』と伝えたんです」と話しました。
それから少しすると、両親の耳にさらにうれしい知らせが届きます。手術から約24週間が経過した2024年2月の検査で、オパールちゃんは大きな音だけでなくささやき声のような小さな音も聞くことができるという結果が得られました。
遺伝子治療を受けたオパールちゃん(中央)とその両親のサンディ夫妻。左は姉妹のノラちゃん。
オパールちゃんの治療を担当したアデンブルック病院の医師であるマノハー・バンス氏は「結果は大変素晴らしいもので、正常な聴覚の回復に極めて近いものでした。そのため、私たちはこれが新しい治療法になるのではないかと期待しています」と話しました。
検査によると、オパールちゃんの聴力は25~30デシベルの音に反応できるもので、正常な聴力の20デシベルに非常に近い結果とのこと。バンス氏は、そのうち完全に正常になるだろうと考えています。
オパールちゃんは、Regeneronの遺伝子治療により聴力を回復した世界初の事例であり、このような治療を受けた患者としても世界最年少とされています。この治療法は目下、イギリス、スペイン、アメリカで最大18人の子どもが参加する臨床試験が進められているほか、中国でも同じ遺伝子を標的にした治療が行われており、良好な結果が得られているとのこと。
聴覚障害に対する現行で標準の治療は、人工内耳を使用するものです。オパールちゃんも、右耳への遺伝子治療の手術の際に左耳に人工内耳を埋め込んでいます。
この治療の試験がさらに進み、安全性が確かめられれば、聴覚障害を持つ世界中の子どもが両耳の遺伝子治療を受けられるようになる見通しです。
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