サイエンス

どの血液型にも輸血できる万能血液製剤への新たな道を開く酵素が見つかる


医療現場で輸血する時に血液の相性が悪いと命に危険が及ぶため、人の血液は抗原に応じて4種類に大別されるABO式血液型で分類されています。この輸血の問題を解決できる「万能血液製剤」を作り出せる酵素を発見したと、デンマーク工科大学とルンド大学の研究チームが発表しました。

Akkermansia muciniphila exoglycosidases target extended blood group antigens to generate ABO-universal blood | Nature Microbiology
https://www.nature.com/articles/s41564-024-01663-4


Enzymes open new path to universal donor blood
https://www.dtu.dk/english/newsarchive/2024/04/enzymes-open-new-path-to-universal-donor-blood

ABO式血液型は、1900年にオーストリアの病理学者だったカール・ランとシュタイナーによって発見された血液分類法で、血中に存在する「抗原」と「抗体」で血液を4タイプに大別します。例えば、血液型がA型の人には「A型抗原」と「抗B抗体」が、血液型がB型の人には「B型抗原」と「抗A抗体」があります。もし、A型の人にB型の血液を輸血してしまうと、「A型の血液に含まれる抗B抗体」に「B型の血液に含まれるB型抗原」が反応してしまい、血球が凝集したり破壊されたりしてしまい、命にかかわります。


この抗原は、赤血球の表面にある糖鎖構造によって分類され、糖鎖の末端に結合する糖がN-アセチルガラクトサミンであればA型抗原、ガラクトースであればB型抗原、そしてどちらでもなく末端の糖が1つ少なければO型抗原になります。

デンマーク工科大学とルンド大学の研究者チームは、腸内細菌の一種であるAkkermansia muciniphilaから腸の粘膜表面を覆う粘液を分解する酵素に注目。この腸の粘膜表面を覆う粘液の糖構造が赤血球表面にある糖鎖構造と類似していたため、研究チームはこの酵素で抗原の糖鎖を分解できるのではないかと考えました。

そこで、研究チームはAkkermansia muciniphilaから得られた24種類の酵素と、数百のA型およびB型の血液サンプルを用いて実験を行いました。その結果、一部の酵素を組み合わせることでA型およびB型血液の糖鎖末端を効率的に除去できることが判明しました。さらに、この研究で発見された酵素の組み合わせは、従来認識されていなかったABO式血液型におさまらない血液についても、A型抗原やB型抗原を除去することに成功したとのこと。


この酵素を使うことで、血液型を気にせずに成分輸血を行える万能血液製剤を用意することが可能になり、輸血の安全性が向上し、ABO不適合輸血による事故を避けることができます。また、血液製剤の輸送と管理が簡素化されるとともに、廃棄される血液も減少すると期待されています。

研究チームによれば、記事作成時点だとB型血液からほぼ万能に近い血液製剤を作製できるそうですが、A型血液から作製するにはまだ課題が残っているとのこと。研究チームはこの新しい酵素と処理方法の特許を申請しており、今後3年半の共同プロジェクトでさらなる進展を目指しています。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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