サイエンス

抗生物質が効かない「スーパーバグ」を生み出さない新たな抗生物質の開発に前進

by phoenixwil

1928年にペニシリンが発見されたことによって開発が始まった抗生物質は、現代医学を大きく進歩させたといわれています。しかし、近年では抗生物質に耐性を持つ「スーパーバグ」が誕生し、多くの医学研究者らがスーパーバグに対抗する方法を模索している状況です。そんな中、レンヌ第1大学の研究チームは多くの抗生物質に耐性を持つ細菌に有効で、かつ細菌が新たに耐性を獲得できない新しい化合物を開発したことを発表しました。

Novel antibiotics effective against gram-positive and -negative multi-resistant bacteria with limited resistance
https://journals.plos.org/plosbiology/article?id=10.1371/journal.pbio.3000337

New Antibiotics Developed by Inserm and Université de Rennes 1 | Newsroom | Inserm
https://presse.inserm.fr/en/new-antibiotics-developed-by-inserm-and-universite-de-rennes-1/35666/

抗生物質に耐性を持つスーパーバグの登場は人間にとって大きな危機であり、多くの研究者らがスーパーバグへの対抗策を模索中です。中には複数の抗生物質を混ぜ合わせることで効き目を上げるといった方法も考案されています。

抗生物質が効かない「スーパーバグ」に対抗すべく「抗生物質のカクテル」で効き目を上げる方法8000通りを研究者が発見 - GIGAZINE


市場に出回っているいくつかの新しい抗生物質も、実のところ既存の抗生物質から派生したものであるため、細菌が耐性を獲得するのは時間の問題です。そのため、新たなタイプの抗生物質開発は非常に重要だとのこと。レンヌ第1大学の研究チームは2011年、食中毒や肺炎といった感染症を引き起こす黄色ブドウ球菌が生産する毒素が、他の細菌を殺す働きを持っていることを発見しました。さらに黄色ブドウ球菌の働きについて研究を進めた研究チームは、毒性と抗生物質的役割という2種類の性質を持つ分子を特定したそうです。

研究チームのブライス・フェルデン氏は、「私たちは黄色ブドウ球菌の生産する分子が持つ毒性と抗生物質的特性を分離することで、毒性を持たない新たな抗生物質を作り出せると考えました。そして私たちはこの課題に挑戦したのです」と述べています。

研究チームは化学者のミシェル・バディ・フロック氏が率いるチームと共同で研究を行い、バクテリアが持つ天然のペプチドを模倣して抗生物質の特性は残しつつ毒性を除去した、およそ20種類もの合成化合物を作り出しました。マウスを用いた実験の結果、20種類の化合物のうち2種類が抗生物質に耐性を持つ黄色ブドウ球菌や緑膿菌に対して有効であることが証明されたとのこと。また、新たに開発された2種類の化合物は動物や人間の細胞に対する毒性が観察されず、必要量の10倍~50倍もの量を投与しても毒性はみられなかったそうです。

by NIAID

注目すべき点として、動物の体内で数日間にわたって今回開発された化合物にさらされ続けた細菌においても、化合物への耐性を獲得する兆候が見られなかったことが挙げられます。試験管内や生体内で耐性獲得に有利な環境を作り出しても、細菌が化合物への耐性を得ることはなかったとのこと。今回の研究では実験期間が最長で15日間であり、比較的短い期間であった点については留意する必要があるものの、新たな化合物はスーパーバグを生み出さないタイプの抗生物質を生み出す有力な候補であると研究チームは述べています。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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