サイエンス

移植用臓器を全ての血液型の患者に移植できる「ユニバーサル臓器」に変換する実験に成功


移植用に提供された肺をあらゆる血液型の患者に移植することが可能な「ユニバーサル臓器」に変換する概念実証実験に成功したことが発表されました。

Ex vivo enzymatic treatment converts blood type A donor lungs into universal blood type lungs
https://www.science.org/doi/10.1126/scitranslmed.abm7190

Creating 'universal' transplant organs: New study moves us one step closer. | Live Science
https://www.livescience.com/universal-blood-type-transplant-lungs-study

Altering the blood type of lungs raises potential for universal organs for transplants
https://www.statnews.com/2022/02/16/by-altering-the-blood-type-of-lungs-researchers-raise-the-possibility-of-universal-organs-for-transplants/

Researchers convert organ into universal blood type for transplant | CTV News
https://www.ctvnews.ca/health/researchers-find-potential-to-create-universal-type-o-blood-organs-for-transplants-1.5784021

科学誌のScience Translational Medicine上で、「(PDFファイル)体外肺潅流(EVLP)を用いたユニバーサル臓器に関する実験結果をまとめた論文」が公開されました。EVLPとは、脳死肺移植でドナーから摘出した肺を専用装置につなぎ、体外で弱った機能を回復させたり生存状態を維持して移植したりする技術を指します。この実験を主導したのはトロント大学のアジメラ移植センターで外科ディレクターを務めるマルセロ・サイペル博士です。

臓器提供者と臓器を移植される患者のペアを決定する際にチェックされるのは、「臓器のサイズ」と「血液型」の2つです。同研究によると、血液型や臓器のサイズにより一部の臓器は不足しており、特にO型の肺は深刻なドナー不足に陥っているとのこと。研究チームによると、O型の肺移植待ち患者は、他の血液型の移植待ち患者よりも臓器提供者が見つからず死亡してしまうリスクが20%も高くなっているとのこと。

サイペル博士は「臓器移植でネックとなるこれらの要素を取り除くことができれば、臓器移植を待つ患者をいち早く助けることが可能となり、移植を待つ間に死亡してしまうリスクを低減することが可能となります」と語っています。


人間の血液型は、赤血球の表面や体内の血管の表面に抗原と呼ばれる特定の糖分子があるかないかで判別します。A型の場合はA抗原のみを、B型の場合はB抗原のみを保有しており、AB型の場合はAとBの両方の抗原を持っていますが、O型の場合はどちらの抗原も持っていません。

赤血球と血管はこれらの抗原を運びますが、血しょうには特定の血液抗原に反応する抗体が含まれています。例えば、A型の血液は血しょう中に抗B抗体を持っているため、A型の人がB型の血液を輸血されると、免疫系が血液を異物とみなし攻撃を開始します。

これに対して、O型の血液を持つ人は血しょう中に抗A抗体と抗B抗体の両方を持っているため、A抗原もB抗原も持たないO型の血液および臓器しか移植することができません。また、O型の血液はあらゆる抗原を含まないため、O型以外のすべての血液型の患者に臓器を移植することも可能です。そのため、O型用の移植臓器が圧倒的に不足しているというわけ。


この問題に対処するため、研究チームは臓器中の赤血球からあらゆる抗原を取り除き、O型の臓器のようにあらゆる血液型に移植できるようにする研究をスタート。2018年には腸内の酵素を使って血中の抗原を取り除くことに成功しています。

血液型を変換して誰にでも輸血可能な「ユニバーサル血液」を作り出すという試み - GIGAZINE


研究チームはEVLP中の移植待ちの肺に、「FpGalNAc deacetylase」と「FpGalactosaminidase」という2つの酵素を加えて4時間待つことで、肺の中からA抗原を97%除去することに成功しています。サイペル博士によると、EVLPを使用する場合、デバイス内に臓器を約4~5時間放置するそうです。そのため、サイペル博士は「臨床的に適用可能です」と語っています。

研究チームはA型ドナーから提供された3つの肺を使用して抗原除去テストを実施し、酵素を加えることで超急性拒絶などが起きないかを調査。サイペル博士は「酵素で治療された肺では、肺は完全に良好に機能したことがわかりました。一方、治療されなかった肺では迅速に超急性拒絶の兆候が見られました」と語っています。

研究チームはさっそく酵素処理された肺を臨床試験するための準備に取り組んでいるとのこと。移植後のどこかのタイミングで移植された臓器が新しい細胞を生成するために再び血液抗原を生成する可能性が高いと研究チームは推測していますが、「免疫順応」により「免疫系が移植された臓器を攻撃することはないでしょう」とも語っています。


そのため、研究チームは移植後数日で超急性拒絶が起きなければユニバーサル臓器の移植が可能になると考えています。移植を行うには、血液抗原を取り除くために使用される酵素が患者の体に害を及ぼさないことを実証する必要がありますが、研究チームは「大きな問題にはならないでしょう」と記しています。

なお、研究チームによると酵素処理は肺だけでなく輸血に使用される血液、その他の移植臓器でも利用できるようになる可能性があるそうです。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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