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Googleはどうやってプライバシーに厳しいドイツで10年越しにGoogleストリートビューを再開できたのか

by Sancho McCann

欧州連合(EU)では、「一般データ保護規則」(GDPR)と呼ばれる、個人データ保護を目的とした厳しい規制と要件が施行されています。そんなEUの中でもとりわけドイツはプライバシーを重視しており、Googleマップにおける「ストリートビュー」機能は、プライバシーに関する抗議や裁判に伴って、2011年以来画像が更新されていませんでした。しかし、2023年7月からGoogleはドイツでのストリートビュー画像の更新を再開しました。その要因について、海外メディアのPetaPixelが解説しています。

Germany vs Google: How Street View Won the Privacy Battle in Europe's Most Private Country | PetaPixel
https://petapixel.com/2024/03/08/germany-vs-google-how-street-view-won-the-privacy-battle-in-europes-most-private-country/


プライバシー保護に熱心なEU諸国の中でもドイツは特にプライバシーを重視しています。2015年のハーバード・ビジネス・レビューによる調査では、アメリカ、中国、インド、イギリス、ドイツに住む合計1000人に対し「公開されている自分のさまざまなデータについて、非公開にするためにいくらまで支払えるか」と尋ねました。この調査からドイツ人が「政府発行の身分証明書」「クレジットカード情報」「デジタル通信履歴」「ウェブ閲覧履歴」「健康履歴」などのデータを保護するために比較的高い金額を支払うことをいとわないことが明らかとなりました。また、一部のドイツ人回答者は「自身の病歴を隠すためなら184ドル(約2万7000円)を支払っても良い」とも答えたそうです。


PetaPixelによると、ドイツ人のプライバシー観に影響を与えたのは第二次世界大戦におけるアドルフ・ヒトラーの台頭が要因であるとのこと。ヒトラー政権下のドイツでは、新聞の発行の禁止が行われただけでなく、意見や表現の自由、団結権と集会兼、郵便、電信、電話通信におけるプライバシーの権利なども停止されました。

第二次世界大戦末期の1945年5月、ドイツは降伏。連合国による占領体制下で、ドイツは西側諸国が統治する西ドイツとソビエトが統治する東ドイツの2つに分断されることになり、ベルリンには「ベルリンの壁」と呼ばれる有刺鉄線やコンクリートで隔離された壁が建設されました。ソビエトの占領下に置かれた東ドイツでは、国家保安省(シュタージ)による徹底した監視や、国民生活の厳しい抑圧が行われたとのこと。

しかし、1989年にベルリンの壁が崩壊したことから東西分断の歴史が終結。1990年に東西ドイツの統一がなされ、今日まで続くドイツ連邦共和国が誕生しました。それでも、数十年にわたってドイツ人に植え付けられた「監視によってプライバシーが失われた」という考えは色濃く残り、その結果今日のドイツ人におけるプライバシー重視の姿勢が根付いたとされています。


2007年に登場したGoogleストリートビューは、わずか数年で世界中にサービスを広げましたが、ドイツを含む一部の国では、「ストリートビューの撮影車がWi-Fi経由で個人情報を取得していた」「個人情報保護の観点から問題を抱えている」との指摘があり、Googleストリートビューをめぐる裁判がたびたび行われてきました。

2011年には当時のドイツ消費者保護大臣であるイルゼ・アイグナー氏が「プライベートなものはプライベートなままでいなければならない」との主張から、「Googleがプライバシーに関する懸念を全て解決した場合にのみストリートビューサービスの再開を認めます」と述べています。さらにアイグナー氏は「Googleストリートビューは私的領域の100万倍の侵害」「世界中のどんな諜報機関もこれほど臆面もなく個人データを収集しない」と批判しました。また、ドイツ政府は「ストリートビューカメラで撮影された全ての人物から同意を得る」ことをGoogleに要求しました。

相次ぐ抗議活動や、ヨーロッパの規制当局からのサービスに対する反対を受けて、2011年にGoogleはドイツでのストリートビュー写真の更新を自主的に停止。一方でGoogleドイツ支局のレーナ・ワグナー広報担当は「私たちはプライバシー保護を重視しており、ストリートビューにおいて顔やナンバープレートの自動ぼかし機能などを開発しています。Googleストリートビューの画像は、一般人が通りを歩いている様子を撮影したものと何ら違いがありません」と主張しました。


それでもGoogleはドイツのデータ保護機関との議論を重ね、2023年6月22日からストリートビュー撮影車での撮影を再開しています。その際Googleは「歩行者や車のナンバープレートなどは自動的にぼかされるだけでなく、必要に応じてユーザーは家やマンションなどにぼかし処理を要求することが可能です」と報告しました。

その後Googleは2023年7月から新たに撮影したベルリンやハンブルグ、ミュンヘンなど、ドイツの20都市の通りや観光スポットのストリートビューを公開しています。

Googleストリートビューが約10年ぶりにドイツの写真を更新 - GIGAZINE


約10年の時を経てストリートビューが再開した要因についてPetaPixelは「時がたつにつれてナチス・ドイツやソビエトによる監視を経験した人々が少なくなり、監視を直接経験しておらず、ストリートビューによるプライバシーの侵害よりも利便性が勝ると述べる、若い世代が台頭したことが要因」と述べています。

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in ネットサービス, Posted by log1r_ut

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