「子どもには危険を伴う遊びが必要なので親は過保護を避けるべき」と発達心理学者が主張する理由とは?
子どもを持っている親は「危険な遊びで子どもにケガをさせたくない」と考え、安全な公園や運動場以外で遊ぶことを禁止したり、親が見ている場所でしか遊びを許可しなかったりすることもあります。しかし、カナダのブリティッシュコロンビア大学の発達心理学者であるマリアナ・ブルッソーニ教授は、「子どもにはある程度の危険や恐怖を伴う遊びをさせた方がいい」と主張しています。
Why Children Need Risk, Fear, and Excitement in Play
https://www.afterbabel.com/p/why-children-need-risk-fear-and-excitement
ブルッソーニ氏は20年以上にわたり、子どもの発達やケガの予防、屋外での危険を伴う遊びについての研究を行ってきた人物です。1990年代以前の欧米諸国では、子どもたちが家の近所や地元の公園、廃虚などで他の子どもたちと一緒に過ごし、屋内では許されない方法で遊び回るのが当たり前でしたが、次第に子どもたちの遊び方が変わってきたとブルッソーニ氏は指摘します。
以下のグラフは、イギリスの子どもたちが「スクリーンを眺める活動(赤色)」「宿題(薄いオレンジ色)」「スポーツ(濃いオレンジ色)」「家の外での社会的活動(濃い緑色)」「屋外での遊び(薄い緑色)」のそれぞれに費やした時間を、1975年・2000年・2015年で比較したもの。1975年から2015年の間に、屋外で遊ぶ時間は29.4%も減少し、代わりにスクリーンを眺める活動や宿題、スポーツなどに費やす時間が増えていることがわかります。
ブルッソーニ氏は、「若い人(1990年以降に生まれた人)に、子どもの頃にやった遊びについて聞いてみてください。そして、彼らの両親に同じ質問をしてみれば、遊び方の世代交代がどのように展開したのかがわかるでしょう。両親は友達と近所を冒険した話をしてくれるでしょうが、子どもは大人の監視下にあったスポーツなどの構造化された活動について話す可能性が高いです」と述べ、子どもたちの遊びが時間と共に大人によって管理されたものに移り変わっていると指摘しました。
大人が管理する遊びと子どもたちが自由に発明する遊びには、スリルやリスクといった点で大きな違いがあります。自由に遊ばせた子どもたちはより高い木に登ったり、放置された廃材やブロックを利用して秘密基地を作ったり、自転車でレースをしたりと、リスクのある遊びを始めます。ブルッソーニ氏によると、子どもたちが身体的リスクを冒し、より興奮できて好奇心が満たせるような遊びを始めるのは必然的なものだとのこと。
危険な遊びに挑む子どもたちは自分の限界を超え、どうなるのか予測が付かない状態に自分を追い込むので、結果としてスリルと恐怖を同時に味わうこととなります。こうした遊びは当然ながら座ってゲームをするよりもケガのリスクが高く、子どもを守ろうとした親は「危ない遊びはしてはダメ」「保護者が見ている場所でしか遊んではダメ」と警告し、子どもを危険な遊びから遠ざけようとしがちです。
しかし、ブルッソーニ氏はより長い目で見ると、危険な遊びは子どもたちにメリットをもたらすと主張しています。危険な遊びは直面した課題を克服するための身体的・認知的スキルを発達させる低コストの機会となり、危険な遊びをすることが進化的に有利であるという学説があるほか、批判的思考のスキルを構築して困難な状況に対処するのに慣れる上で危険な遊びが役立つという学説も提唱されています。
さらに、危険な遊びは不安障害や認知のゆがみを克服する上でも役に立ち、危険な遊びをする子どもは不安障害に特徴的な内面化の問題を抱える割合が低いという研究結果も報告されています。これらの研究結果を受けて、カナダ小児科学会の研究チームは2024年2月に、子どもを持つ親に対してある程度の危険な遊びを許容するよう呼びかけました。
子どもは屋外での危険な遊びを通して成長する、適切に大人がサポートして怪我の予防と遊びのバランスをうまく取るのがポイント - GIGAZINE
そもそも親が危険な遊びを排除するようになったのは、1980年代に子育てへ多くの時間や労力を費やすことがブームとなり、子どもの生活を細かく管理することが奨励されるようになったためです。こうした子育てのアプローチでは、子どもをスポーツや習い事といった構造化された活動に取り組ませ、子どもがどのような経験をするのかまで親が管理することとなります。結果として危険な屋外での遊びは「教育上の必要がなくケガをする危険を増やすだけ」と判断され、子どもの生活から排除されました。
しかし、ブルッソーニ氏はこうした集中的な子育てはわずかな利益しかもたらさないと指摘しています。実際に、構造化された活動に従事することが子どもの発達に与える影響を調べた研究では、構造化された活動が発達に良い影響を与えることは確認されませんでした。それどころか、子どもが危険な遊びによって受け取るメリットを奪っているとも考えられるため、いくつかのスキルの発達に悪影響を及ぼす可能性もあるとのこと。
ブルッソーニ氏は、1973年から2010年の間に不慮のケガによる死亡は男の子で73%、女の子で85%減少しており、現代の子どもたちはかつてないほど安全な世界に生きていると指摘。「私たち親はパラドックスに陥っています。私たちは子どもの安全を守り、彼らの成功を確実にしたいと切に願っており、ケガや失敗をしないように全力を尽くします。しかし、恐怖をコントロールしようとする努力の多くが、逆説的に子どもたちの安全と成功の確率を低下させているのです」と、ブルッソーニ氏は述べました。
ブルッソーニ氏は、子どもたちには自分の好きなように遊べる時間が必要であり、その最大の障壁は子どもを危険から遠ざけようとする親だと主張しています。そして、子どもの心身の健康や認知的発達、情緒的能力をサポートするためには、「時間・空間・自由」の3つの要素が重要になると訴えています。
◆1:時間
そもそもスポーツや習い事で子どもたちのスケジュールが埋められている場合、子どもたちが自由に遊ぶことはできません。そのため、親があえて子どものスケジュールに「好きに遊んでいい時間」を組み込んだり、学校側が休み時間に屋外での遊びを許可したりすることで、子どもたちが自由に遊ぶ時間を確保できます。
◆2:空間
子どもたちは遊ぶ方法やルールが厳格に決められている空間ではなく、想像力を働かせてリスクを探求できる、柔軟で刺激的なスペースにアクセス可能な必要があります。現代社会ではこうした公園や管理されていないスペースが減りつつありますが、ニューヨークではPlay:groundNYCという非営利の遊び場が開放されるなど、一部の地域では子どもたちが自由に遊べるスペースを確保しようという動きが高まっています。
◆3:自由
最終的に子どもが危険な遊びに従事できるかどうかは、親がどれだけ子どもに自由を与えられるのかに左右されます。親にとって「子どもがケガをするかもしれない」という恐怖を乗り越えるのは大変ですが、ブルッソーニ氏は親や近隣住民がより密接な関係を築いて協力し合うことで、自信を持って子どもを遊びに送り出せるようになると主張しました。
・関連記事
子どもは屋外での危険な遊びを通して成長する、適切に大人がサポートして怪我の予防と遊びのバランスをうまく取るのがポイント - GIGAZINE
「外に出て自然と触れ合いなさい」と言われると自然環境に接するメリットが減るという研究結果 - GIGAZINE
あまりにも過保護な親に育てられた子どもは「燃え尽き症候群」になりやすい - GIGAZINE
子どもの前に立ちはだかる苦難をすべて解決しようとする「芝刈り機ペアレンツ」の問題点とは? - GIGAZINE
子どもをうつ病にしているのはSNSではなく親からの過剰な干渉という研究結果 - GIGAZINE
子どもへの体罰は発達リスクを増加させるだけで悪影響しかないと20年の研究を総括 - GIGAZINE
子どもの時間を塾や習い事でがんじがらめにするメンタルヘルス上の弊害について専門家が解説 - GIGAZINE
子どもの社会性を育むために親ができることとは? - GIGAZINE
自分の子どもに「良くない友だち」との縁を切らせる方法とは? - GIGAZINE
・関連コンテンツ