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テスラの従業員が「完全自動運転(FSD)」による初の死亡事故の犠牲者になった可能性


2022年5月16日、アメリカコロラド州デンバー郊外で、テスラ車が道路脇の木に衝突して炎上する事故が発生しました。この事故で死亡したのはテスラでエンジニアの採用を担当する従業員でしたが、この従業員がベータ版の「Full Self-Driving(FSD:完全自動運転)」を使用していた可能性があると日刊紙のワシントン・ポストが報じています。

Tesla employee in fiery crash may be first ‘Full Self-Driving’ death - Washington Post
https://www.washingtonpost.com/technology/interactive/2024/tesla-full-self-driving-fatal-crash/


エンジニアの採用担当としてテスラに勤務していたハンス・フォン・オハイン氏は2022年5月16日、友人のエリック・ロシター氏とゴルフに出かけました。フォン・オイハン氏はプライベートでもテスラ車に乗っており、従業員特典で無料入手した運転支援ソフトウェアのFSDを使用していたとのこと。ところが、FSDはゴルフ場へ向かう山道をうまく走ることができなかったようで、フォン・オイハン氏はたびたび車道を外れそうになった車をハンドルで操作していたそうです。

テスラ車に同乗していたロシター氏は当時を回想し、「初めてそれ(テスラ車がFSDで道を外れようとする現象)が起きた時、私は『これが普通なのだろうか?』と思いました。そうすると彼は、『ああ、そういうこともあるよ』と言っていました」と述べています。


2人は一緒にゴルフをプレイし、その途中で何杯かのお酒を飲んだとのこと。その帰り道に、フォン・オイハン氏のテスラ車は道路脇の木に衝突して炎上しました。ロシター氏はなんとか脱出して緊急通報を行いましたが、ドライバーだったフォン・オイハン氏は死亡が確認されました。

以下の実際に事故を起こしたテスラ車の写真を見ると、衝突と炎上のせいでボロボロになっていることがわかります。現場に駆けつけたコロラド州警察のロバート・マッデン巡査部長は、フォン・オイハン氏が死亡した事故はこれまで見た中で最も激しい車両火災のひとつだったと証言しています。火災が激しくなった原因は電気自動車のリチウムイオンバッテリーであり、フォン・オイハン氏は煙の吸入と熱傷により死亡したと事故調査報告書には記されています。


検視の結果、フォン・オイハン氏の血中アルコール濃度は法定限度の3倍に達しており、酒に酔っていたことがわかりました。しかし、ロシター氏は救急隊員に「テスラの自動運転機能を使っており、車が道路からまっすぐ外れた」と語ったほか、ワシントン・ポストの取材にも当時のフォン・オイハン氏がFSDを使っていたと思うと証言しており、フォン・オイハン氏の死にはテスラのFSDが関与していた可能性が示唆されています。ワシントン・ポストは、「もしこれが本当なら、彼の死はテスラの最先端の運転支援技術(FSD)が関与した最初の死亡事故となります」と述べています。

マッデン氏によると、フォン・オイハン氏の事故現場ではブレーキが踏まれた痕跡はなく、テスラ車が木に衝突した後も車輪に動力を供給し続けた形跡があったとのこと。マッデン氏は、「衝突時の挙動と車両が急操作の証拠なしに道路を外れたという形跡は、運転支援機能が使われていたという考えに合致します」と述べています。

テスラ車のオーナーはたびたび車両の運転支援システムが危険な挙動を示すことを報告しており、アメリカの規制当局が運転支援システムに関する事故の報告を義務づけた2021年以降、テスラ車に関する事故が900件以上報告されているとのこと。テスラは約40万人のユーザーにFSDを展開していますが、いまだにFSDは開発中のベータ版であり、対向車がいる狭い道路や曲がりくねった道路など、FSDがうまく機能しない可能性がある場面のリストをユーザーマニュアルに記載しています。また、ドライバーはFSDを有効にしている場合でも自分の車をコントロールする必要があり、脇見運転や飲酒運転についての責任を負わないと主張しています。

2023年には、FSDのベータ版が一時停止標識を無視して交差点に進入したり、黄色信号の点灯時に十分な注意なしに交差点に進んだりするなど、道路交通上危険な挙動がみられるとしてリコールが発表されました。

約36万台のテスラ車の完全自動運転ベータ版に危険性が見つかったためリコールが発表される - GIGAZINE


フォン・オイハン氏の事故について、テスラはアメリカ合衆国運輸省国家幹線道路交通安全局(NHTSA)に報告しています。しかし、衝突の少なくとも30秒前に運転支援機能が使用されていたことは確認できたものの、火災があまりに激しかったためそれがFSDだったのか、交通状況に応じて車両の速度や車線内のハンドル操作をアシストするオートパイロットだったのかは確認できませんでした。

フォン・オイハン氏の妻であるノラ・バス氏によると、退役軍人であるフォン・オイハン氏は、電気自動車や自動運転車を大衆に届けるテスラの使命とマスク氏に心引かれてテスラに入社したとのこと。高度なテクノロジーに取り組む会社の一員として、フォン・オイハン氏は普段から車に乗るたびにFSDを使用しており、実際の走行データを生成することでテスラに貢献していたそうです。

バス氏は、「ハンスがどれほど酔っ払っていたのかはともかく、イーロン・マスク氏はこの車が自分で運転でき、本質的に人間よりも優れていると主張しています。私たちは誤った安心感を売りつけられたのです」とワシントン・ポストに語り、テスラは夫の死についてある程度の責任を負うべきだと主張しています。

ジョージタウン大学で自動運転車の法律について講義しているエド・ウォルターズ氏は、アルコールは人間の反応時間を劇的に遅くするため、フォン・オイハン氏が酔っていたことも事故に影響したと考えています。ウォルターズ氏は、「このドライバーは通常ならば車を道路に戻し、テスラの問題を安全に修正できました。どのような車を運転するにせよ、どのようなソフトウェアを使うにせよ、注意を払う必要があると人々は理解するべきです。しらふでなくてはいけませんし、注意深くある必要もあります」とコメントしています。

一方、アリゾナ州立大学の先端技術研究者であるアンドリュー・メイナード教授は、テスラ車がたびたび危険な挙動を起こすという報告は、FSDをユーザーに展開するテスラの決定に疑問を投げかけていると指摘。「FSDはまだ広く使われる準備が整っていません」とメイナード氏は述べ、公道でFSDをテストすることの価値と、その能力を過大評価するドライバーに展開することのリスクを比較検討するべきだと主張しました。

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in ソフトウェア,   乗り物, Posted by log1h_ik

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