イーロン・マスクが「デラウェア州に会社を設立するな」とX(旧Twitter)で愚痴をこぼす、テスラの8兆円超の報酬が高すぎると無効にされたため

by Daniel Oberhaus

イーロン・マスク氏がテスラのCEOとして受け取る予定だった総額560億ドル(約8兆2000億円)もの報酬パッケージについて、アメリカ・デラウェア州の裁判所が「報酬があまりにも高すぎる」として報酬パッケージを無効とする判決を下しました。これに対しマスク氏はX(旧Twitter)で、「絶対にデラウェア州に会社を設立するな」と愚痴をこぼしています。

Tesla: Judge voids Elon Musk compensation in lawsuit
https://www.cnbc.com/2024/01/30/tesla-shares-slide-after-judge-voids-elon-musks-56-billion-compensation.html

Musk pay package: Judge voids Tesla CEO’s $56 billion compensation
https://www.axios.com/2024/01/30/elon-musk-pay-package-tesla-judge-voids

Musk's threat to re-incorporate Tesla boosts Texas' challenge to Delaware
https://www.axios.com/2024/01/31/elon-musk-tesla-delaware-court-texas-law

テスラは2018年に、マスク氏が今後10年間にわたりCEOまたは会長兼最高製品責任者を務めた上でテスラの時価総額が基準を満たした場合、総額560億ドルの報酬パッケージを与えることを発表しました。これに対し、テスラの株主であるリチャード・トルネッタ氏は「報酬パッケージはあまりにも高額すぎであり、取締役会は受託者責任に違反した」と主張して、マスク氏とテスラを相手取って報酬パッケージの無効化を求める訴訟を起こしました。

この裁判を担当したデラウェア州衡平法裁判所のキャサリン・マコーミック判事は2024年1月30日、総額560億ドルの報酬パッケージを無効化する判決を下しました。マコーミック氏は、テスラの取締役会が報酬パッケージの正当性について証明できず、マスク氏と十分に交渉したという証拠を示さなかったと指摘しています。

マコーミック氏は、原告であるトルネッタ氏は「マスク氏がテスラを支配していた」ことを証明し、取締役会がマスク氏への報酬を承認するプロセスには重大な欠陥があると裁定しています。マスク氏は取締役会のメンバーや報酬パッケージについて交渉した人々とつながりを持っており、その中にはマスク氏に恩義を感じていた人物も含まれていたとのこと。

判決の中でマコーミック氏は、「報酬パッケージの付与に至ったプロセスにおける取締役会の姿勢をみれば、マスク氏が取引において支配的だったことは明らかです。端的にいえば、報酬委員会も取締役会も、マスク氏の報酬パッケージの交渉時に、会社にとって最善の利益のために行動したわけではありません。実際、交渉が行われた形跡はほとんどありません。報酬委員会は第三者的にマスク氏にとって不利な交渉をしたのではなく、ほとんどマスク氏の諮問機関として共に仕事を遂行しました」と述べました。

トルネッタ氏の弁護人であるグレッグ・ヴァラロ氏は声明で、「テスラの取締役会がマスク氏に付与したバカバカしいほど高額な報酬パッケージを撤回させるという、徹底的かつ極めて理路整然とした裁判所の判断にとても感謝しています。法廷の懸命な努力はテスラの投資家の利益に直接還元されます。投資家は、巨額な報酬パッケージによる利益の希薄化が帳消しになるのを見るでしょう」と述べました。

記事作成時点でマスク氏は世界1位の大富豪ですが、報酬パッケージの返還が求められれば資産額が減少し、世界3位に転落する可能性があるとのこと。なお、マスク氏は今回の判決が不服だと感じた場合、デラウェア州最高裁判所に上訴することができます。

今回の訴訟がデラウェア州で行われたのは、テスラが法人登録をしている場所がデラウェア州だったためです。デラウェア州はアメリカで2番目に小さい州ですが、企業の法人税などを優遇する法人関連法が制定されており、Googleの親会社であるAlphabet、Apple、Amazonなど名だたる大企業が法人登記を行っている州でもあります。

なぜAppleやGoogleなど名だたる企業は「デラウェア州」を選ぶのか？ - GIGAZINE

マスク氏は今回の判決を受けて、X(旧Twitter)上で「絶対にデラウェア州に会社を設立しないでください」と愚痴をこぼしています。

さらにマスク氏は、「テスラは法人を設立する州を、物理的な本社のあるテキサス州に移すべきでしょうか？」というアンケートも実施。記事作成時点では110万件以上の投票が行われ、85％以上が「Yes(移転するべき)」と回答していました。

テキサス州知事のグレッグ・アボット氏はこのアンケートを引用し、「イーロンさん、もう終わりです。選挙事務局はテキサス州の圧勝を宣言しています」と述べました。しかし、海外メディア・Axiosのフェリックス・サーモン氏は、実際にテスラがテキサス州で再法人化に乗り出す可能性はかなり低いと指摘しています。