350年以上の歴史がある大学の天文学部はいかにして閉鎖されることになったのか
スウェーデン・ルンド大学の天文学部は、1672年創設の歴史ある学部でした。しかし、2008年ごろから2人の教授によるハラスメントが行われていて、問題を解決することができなかったため、2023年12月、350年以上の歴史に幕を下ろしました。
How a bullying scandal closed a historic astronomy department
https://www.nature.com/articles/d41586-023-03953-z
2020年5月にルンド大学内の従業員を対象として行われた調査で、天文学部の回答者のうち70%が職場でのハラスメントやいじめを目撃したことがあると回答。その後、いじめを行っているのが天文学部のソフィア・フェルツィング教授とメルヴィン・デイヴィス教授であることが発覚しました。
その後の調査の結果、フェルツィング氏とデイヴィス氏は少なくとも2008年頃から、同僚に対する差別や不当な扱いなどを行っていることが(PDFファイル)明らかにになりました。
調査の直後から、OBや学生を含むさまざまなグループからの訴えがあり、ルンド大学理学部長のスヴェン・リディン氏の監督の下で天文学部の改革がスタート。2022年までに、天文学部の責任者として外部の管理者が2人招かれました。しかし、管理者と教授、労働組合を交えた話し合いでも問題解決には至りませんでした。
2022年8月にリディン氏は「現在の天文学部内に存在する閉塞(へいそく)感は、信頼性のある持続可能な方法で克服するにはあまりにも難しい」と改革の難しさを吐露。2022年11月、ルンド大学教授会により、天文学部の閉鎖が決まりました。
在籍している学者および学生は物理学部へ転属することになりましたが、天文学部閉鎖のきっかけになったフェルツィング氏は地質学部に、デイヴィス氏は数学科に転属させられています。
リディン氏は「今回の一連の組織再編により、一部のスタッフのキャリア選択に影響を与えた可能性があります。スタッフと学生の両方に適切なサポートを提供するために、我々は最善を尽くしましたが、我々にもっとできることがあったと感じる人もいることは理解しています」と述べています。
ルンド大学天文学部のメンバーの多くは「天文学部が閉鎖されることになった場合、物理学部が最も異動に適しています。しかし、組織の改革が約2年という長期間にわたったことにより、貴重な時間が失われ、教育や科学に大きな影響がありました」と語っています。
転属に伴い、天文学部棟に設置されていた望遠鏡などの展示物の運び出しが行われていますが、全アイテムの運び出しは困難で、天文学部の客員研究員であるコリン・カーライル氏は「今回の強制移籍は文化の破壊を意味します」と指摘しています。
教授の多くが天文学部から物理学部へ移動した一方で、一部の天文学者は別の大学に移籍することを決断しています。2016年から2020年までルンド大学天文学部に在籍したアンダース・ヨハンセン教授は「いつもこんな問題と向き合わなければならない人生にうんざりしました」と述べ、コペンハーゲン大学に籍を移しています。
また、2020年にフェルツィング氏とデイヴィス氏によるいじめ被害を訴えた天体物理学者のフローラン・ルノー氏は、フランスのストラスブール大学に移籍することを選びました。その際にルノー氏は「ルンド大学を離れると同僚に伝えたとき、人々は『移籍するのはいいいことだが、嫌がらせをする人は至る所にいるから気を付けろ』と忠告してくれました。それに対し私は『わかっている。しかしそれに対する管理の仕方や扱い方がルンド大学とは違うはずだ』と言いました」と語っています。
物理学部として新たなスタートを切った旧天文学部は、2023年12月から2024年初頭にかけて研究を再開するとのこと。大学に残った匿名の教授は「今回の組織再編によって、私たちは強い結束力を手にしました。しかし、天文学部の閉鎖を決定した学部長を抱きしめてありがとうと言う気にはなれません」と語りました。
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