サイエンス

子どもの頃に受けた「いじめ」による心身への悪影響は成人になっても続き社会経済的な面にも悪影響が及ぶ


学生時代にいじめを受けることで心身に及ぶ悪影響は一時的なものではなく、その後も長年にわたり悪影響を及ぼし続けることがわかっています。そんな学生時代のいじめがもたらす長期的な影響に関するさまざまな研究結果について、キングス・カレッジ・ロンドンの発達心理学教授であるLouise Arseneault氏がまとめています。

Annual Research Review: The persistent and pervasive impact of being bullied in childhood and adolescence: implications for policy and practice - Arseneault - 2018 - Journal of Child Psychology and Psychiatry - Wiley Online Library
https://doi.org/10.1111/jcpp.12841

◆いじめの定義とは?
Arseneault氏はいじめの定義について、「同じ年齢層の人々の間で、力の不均衡によって被害者が自らを守ることが難しい攻撃が繰り返されること」としています。この定義に当てはめると、親や教師による攻撃はいじめではなく虐待となり、同等の力を持つ2人がけんかすることもいじめではありません。加害者と被害者の間に人数や腕力、能力、知性、社会的影響力といった力の不均衡が存在している場合、攻撃がいじめと見なされる可能性が高くなるとのこと。

いじめは世界的に見て非常に一般的な現象です。WHOが世界40カ国で行った(PDFファイル)調査によると、11歳の子どもの約13%がいじめの被害を受けていると回答したほか、ヨーロッパ11カ国の若者を対象にした2009年の研究では、8歳~18歳の子どもや若者のうち20%がいじめを受けていると回答しています。

また、いじめの被害は長期間継続しやすいことも知られており、小学校でいじめを受けていた子どもは中学校に進学してもいじめられる可能性が高いという研究結果や、11歳の時点でいじめられていた子どもの43%が3年後もいじめの被害者だったという研究結果も報告されています。


◆いじめが子どもにもたらす精神的悪影響
いじめを受けた子どもは学校に適応することを困難に感じたり、社会的な疎外感を感じたりする傾向が強く、自傷行為や自殺念慮を抱くリスクが高いこともわかっています。これらの研究結果は、いじめが小児期および思春期のメンタルヘルスに深刻な悪影響を及ぼすことを示しています。

また、小児期や思春期にいじめを受けることが、不安障害やうつ病といった精神衛生上の問題に関連するという複数研究結果報告されています。これらの研究結果はいじめが始まる前に生じた精神衛生上の問題や、性別・親の社会経済的地位・IQといった潜在的な交絡因子も制御した堅固なものだとのこと。

いじめとメンタルヘルスの因果関係についての研究は、「いじめられるグループ」と「いじめられないグループ」に分けて実験するといったことができないため、観察研究に頼らざるを得ないという限界があります。それでも、遺伝的に同一の一卵性双生児を用いた複数研究により、いじめられた子どもはそうでない子どもと比較して、後にメンタルヘルスの問題を抱えやすいことがわかっています

一方、気分の調節や抑うつ症状に関連するセロトニン輸送体に変異がある子どもはいじめによる精神的問題を抱えるリスクが低いことや、協力的な家族に育てられた子どもはいじめを受けた後に生じる感情や行動上の問題が少ないなど、生物学的・社会的要因もいじめがもたらす悪影響に関わっているとのことです。


◆いじめが長期にわたりもたらす精神的な悪影響
いじめの被害者を成人期まで長期的に追跡した縦断研究はほとんどありませんが、フィンランドのコホート研究から得られた調査結果によると、子どもの頃にいじめの被害者だった女性は25歳までに自殺や自殺未遂を行う可能性が高いことが判明。また、子どもの頃にいじめられていた男性は18歳~23歳の間に不安障害を発症するリスクが高く、喫煙習慣を持つリスクも高いことがわかりました。

また、9歳~16歳のうちに複数回いじめられた経験がある人々を対象にした2013年の研究では、被害を受けてから10年以上が経過した20代まではうつ病・不安障害・パニック障害といった精神障害を患う可能性が高いことが明らかになりました。他にも、子どもの頃のいじめが長期にわたり精神に悪影響を及ぼすという複数研究結果報告されています。


◆いじめが身体や社会経済的な面に及ぼす悪影響
いじめが被害者に及ぼす長期的な影響は精神面にとどまらず、身体的な健康にも及ぶことが示されています。2015年の研究では、子どもの頃にいじめを受けていた人々はそうでない人々よりも炎症レベルが高く、いじめられていた女性は肥満になる可能性が高いことがわかりました。

また、いじめの被害に遭うことの影響は経済状況、社会的関係、成人期の生活の質にも及ぶとのこと。2008年の研究では、いじめの被害者は教育水準が低い傾向があることがわかっており、現代社会において学歴が社会経済的な達成と密接に関わっていることを考えると、これは大きな問題といえます。また、いじめの被害者は精神障害や家庭環境といった要因を制御した上で、成人期の経済状況が低いことを示す研究結果や、50歳の段階でパートナーや友人が少ない可能性が高いという研究結果も報告されています。


Arseneault氏はこれらの研究結果から、幼少期や思春期にいじめをうけることは一過性の苦痛だけでなく、長期にわたる悪影響を及ぼすと指摘。いじめを減らすための社会的努力や、被害者の回復に焦点を当てたサポートの必要性を訴えました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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