経済制裁を受けるロシアが西側諸国の製品や技術を輸入して経済を維持する秘密の回避策とは?
2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻の開始以降、多くの国がロシアに対して経済制裁を科しています。しかし、ロシア企業は制裁を回避しつつ西側諸国からさまざまな製品や技術を手に入れて事業を維持しています。ロシア企業が西側諸国の技術を取り入れる方法について、海外メディアのThe New York Timesが解説しています。
Chinese Traders and Moroccan Ports: How Russia Flouts Global Tech Bans - The New York Times
https://www.nytimes.com/2023/12/19/technology/russia-flouts-global-tech-bans.html
2022年2月にウクライナへの侵攻を開始して以降、ロシアの通信会社Convexでは、国内の諜報機関にデータを送信するための機器が必要になりました。しかし、その機器はアメリカのネットワーク機器開発会社のCiscoが販売する製品であったため、経済制裁下でのロシアではすぐに入手することができませんでした。
そこで、Convexは「Nag」と呼ばれるロシアの通信販売サイトで、ロシアに対して経済制裁を科していない中国のサプライヤーを通じて必要なCisco製の機器を購入することに成功しました。その後、Convexはロシア連邦保安庁のオフィスを訪問し、データの分類と当局へのデータの送信に役立つ機器を設置しています。
このように、ロシアのサプライヤーは輸入規制や貿易の禁止措置下でも何らかの抜け穴を見つけ、回避策を模索してきました。The New York Timesによると、ロシアでの基本的な通信機器や監視機器、高度なコンピューティングや兵器システムに使用できるマイクロチップ、ドローンなどの入手難度はそれほど高くないとのこと。多くのロシア企業は中国の仲介業者を介して製品を輸入しているほか、モロッコやトルコなど、ロシアとウクライナの紛争において中立の立場を取っている国で、西側諸国のテクノロジー製品を秘密裏にロシア行きの船に積み込むという手法も行われています。
また、ロシアのサプライヤーと貿易当局は結託して、取引情報の共有を行っているとされています。こうした活動の結果、西側諸国による貿易制限の有効性や、テクノロジー企業による自社製品の卸先の管理などについて疑問が投げかけられることにことになりました。アメリカのピーターソン国際経済研究所のエコノミストを務めるエリナ・リバコワ氏は「西側諸国の政府や大手ハイテク企業は、たとえそれが終わりのないイタチごっこと知りながらも、ロシアへの製品や技術の流入を防ぐために、さらなる努力をしなければなりません」と指摘しています。
別の例では、モスクワに拠点を置く電子機器メーカーのProSoftが挙げられています。重工業や重要インフラ向けの生体認証監視機器装置や技術を販売するProSoftは、ウクライナ侵攻が始まるまで西側諸国からマイクロチップやセンサーなどを輸入していました。しかし、侵攻の開始に伴い、精密機器の輸入が困難になりました。そこでProSoftはモロッコに駐在するロシア政府の貿易担当チームに対して支援を求めるメールを送信。
その後、2022年4月に貿易担当チームはモロッコの国営港湾局長と連絡を取り、「ロシア船籍の船舶が入港した場合、他国の船舶と同様にメンテナンスを行っても良い」という約束を取り付けました。貿易担当チームは「我々の直接支援によって、モロッコが電子機器の積み替え拠点に変化した」と誇示。台湾や中国、その他の製造拠点からのテクノロジー製品は、モロッコの港で一度船から降ろされ、その後ロシアに向かう他の船に積み込まれます。
ロシアの貿易担当チームは「モロッコとロシアのパートナーシップは長期間維持される予定で、貿易総額は年間約1000万ドル(約14億円)に達する可能性があります」と述べています。こうした貿易チームの尽力の結果、ProSoftは貿易制限下でも、Intel製のチップやNVIDIA製のコンポーネント、Googleが設計したAI向けコンピューターチップなどを搭載した約300もの製品を販売することが可能になっています。また、これまでにロシアのミサイルやドローンなどからアメリカで製造されたチップが発見されていることも報告されています。
ウクライナ侵攻以降のロシアでは、中国からの技術提供やサプライチェーンに頼っていることも報告されており、ロシアの貿易ルートを研究する非営利団体のシルバラード・ポリシー・アクセラレーターによると、2022年3月から2023年9月までの間にロシアに輸入された半導体のうち、約85%が中国や香港のメーカーが製造したものだったとのこと。ウクライナ侵攻開始前は中国や香港メーカー製の半導体が輸入される割合は約27%だったことから、ロシアによる中国や香港への依存度合が高まっていることが明らかになっています。
2023年の間にロシアでは合計1億5000万ドル(約210億円)相当のハードウェアを中国から輸入しており、ロシアへの製品輸出が禁じられているはずの通信機器がさまざまなプラットフォーム上で容易に購入できることが問題視されています。
こうしたロシアによる貿易の現状を受けて通信機器メーカーのエリクソンやジュニパー、ノキア、IBMは「ロシアへの製品の輸出は当社の同意なしに行われたものだ」と主張。また、ロシアのサプライヤーであるOCS Distributionは「国際的な制裁や制限に違反した形での製品の販売は行っていません」と反論しています。
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