Wikipediaでの有害コメントはWikipedia編集者の活動頻度減少を招くことが5700万件のコメントを分析した研究で判明
Wikipediaの各項目や利用者ページにはノートページが用意されており、ユーザーが意見を交わすことができます。このノートページには誹謗(ひぼう)中傷などを含む有害コメントが投稿されることもあるのですが、新たに有害コメントがWikipedia編集者の活動頻度を減少させてしまうことが複数言語のWikipediaを網羅的に分析した研究によって明らかになりました。
Toxic comments are associated with reduced activity of volunteer editors on Wikipedia | PNAS Nexus | Oxford Academic
https://academic.oup.com/pnasnexus/article/2/12/pgad385/7457939
Wikipediaの利用者は個別の利用者ページを作成可能で、利用者ページ内の「ノート」をクリックすることで各利用者のノートページにアクセスできます。
例えば、BOTユーザー「Anakabot」のノートページはこんな感じ。Anakabotの運用形態に関する質問や、Anakabotの動作に関する問合せが投稿されています。AnakabotはBotアカウントなので事務的な投稿が多いですが、人間が運用するアカウントには誹謗(ひぼう)中傷などの有害コメントが投稿されることもあります。
Wikipediaの編集者50人をランダムに選んで有害コメントを浴びせられた前後での活動頻度の違いを示した図が以下。横軸が各編集者の最初の活動からの経過日数を示し、青色の四角が活動、赤色の三角が有害コメントを浴びせられたタイミングを示しています。図を確認すると、有害コメントを浴びせられた編集者の中には活動頻度を減らしたり完全に活動を停止したりする人もいることが分かります。
研究チームは有害コメントがWikipedia編集者に与える影響を明らかにするべく、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ロシア語のWikipediaで活動する850万人の編集者のノートページに寄せられた5700万件のコメントを収集。さらにChatGPTの有害出力制限システムにも使われている有害性分析API「Perspective API」を用いて各コメントが有害か否かを判断し、有害コメントと編集者の活動状況の関連性を分析しました。
以下のグラフは横軸が英語版Wikipediaにおける「コメントをもらった日を0日目とした場合の経過日数」、縦軸が活動頻度を示しており、赤線は有害コメントをもらった場合の活動頻度推移、青線は有害でないコメントをもらった場合の活動頻度推移を示しています。有害であるか否かにかかわらず編集者の活動頻度はコメントをもらった日にピークに達してコメントをもらった日以降は活動頻度が下がっていますが、有害コメントをもらった場合の方が顕著に活動頻度が下がっていることが分かります。
上記のグラフの横軸を絶対値にそろえたグラフが以下。実線はコメントをもらって以降の活動頻度を示し、破線はコメントをもらう以前の活動頻度を示しています。有害でないコメントをもらった場合(青)は活動頻度の上昇具合と減少具合がほとんど一致していますが、有害コメントをもらった場合(赤)は活動頻度が上昇具合よりも急激な勢いで活動頻度が減少していることが分かります。つまり、英語版Wikipediaにおいては、有害コメントが編集者の活動頻度を大きく下げる効果を持っているというわけです。
ドイツ語、フランス語、スペイン語、イタリア語、ロシア語においても結果は同様で、有害コメントをもらった編集者の活動頻度が急激に減少することが確認されました。研究チームは分析結果を受けて「Wikipediaなどの共同プラットフォームを継続的に成功させるには、有害コメントを抑制することが重要である」と結論付けています。
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