ハードウェア

CPUパフォーマンスを約33%向上させる「パッシブ塩水冷却」とは?


発熱の問題がつきまとうCPUを冷却する方法としては、一般的な空冷の他に水冷油冷などがあります。香港城市大学の研究チームが、精密機器には御法度なはずの「塩水」でCPUを冷却するシステムを発表しました。

Membrane-encapsulated, moisture-desorptive passive cooling for high-performance, ultra-low-cost, and long-duration electronics thermal management - ScienceDirect
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2666998623001801

Passive Salt Water Cooling Boosts CPU Performance by Almost 33% | Tom's Hardware
https://www.tomshardware.com/pc-components/cooling/passive-salt-water-cooling-boosts-cpu-performance-by-almost-33

Cheap salty solution cools computers and boosts performance by a third | New Scientist
https://www.newscientist.com/article/2400457-cheap-salty-solution-cools-computers-and-boosts-performance-by-a-third/

Salt solution cools computers, boosts performance
https://techxplore.com/news/2023-11-salt-solution-cools-boosts.html

今回、香港城市大学エネルギー環境学部のウェイ・ウー氏らが開発した冷却システムの正式名称は「吸湿性塩含有膜封入ヒートシンク(HSMHS)」で、吸湿性のある臭化リチウム塩の溶液から水分が蒸発するプロセスでCPUを冷却するという仕組みです。


臭化リチウム塩を水蒸気しか通過させない多孔質の膜に閉じ込め、それをプレートではさむことで塩分が電子機器に接触しないようになっているほか、金属製のヒートシンクで効率的に熱が逃げられるように設計されています。


HSMHSのパッシブ冷却システムは「離脱冷却プロセス」と「吸収再生プロセス」という2段階で機能します。まず、離脱冷却プロセスでは溶液から水分を蒸発させて熱を除去します。そして、冷却が終わると吸収再生プロセスに移行し、高濃度になった塩溶液が周囲の空気から水分を吸収して、自動的に冷却能力を回復します。


ウー氏は「このデバイスは、哺乳類が水分補給して再び汗をかく準備をするのと同じように、非稼働時に空気中の水蒸気を吸収することで、自発的かつ迅速に冷却能力を回復できます」と話しました。

コンピューターのプロセッサー、特にデータセンターなど大規模な設備では冷却コストが大きな課題となります。ファンのような可動部がなく、水冷ポンプのように電力も必要としないパッシブ冷却システムは魅力的ですが、従来のパッシブ冷却システムはすぐに熱飽和してしまい、サーマルスロットリングの発生などによりパフォーマンスが大きく低下するという問題があります。

一方、研究チームがHSMHSを使って実施したテストでは、普通のヒートシンクを使った場合に比べてデバイスの性能を32.65%向上させるのに成功しました。


HSMHSの大きな特徴の1つは、有効冷却時間が長いという点です。前述のテストで、HSMHSはプロセッサーを64度以下で約400分間冷却することができましたが、これは最先端の素材である金属有機構造体(MOF)に比べて10倍も優れているとのこと。また、臭化リチウム塩は安価なのでコストパフォーマンスも高く、クロムをベースとしたMOFと比較するとコスト効率は約1000倍にも達します。

ウー氏はHSMHSについて「この冷却戦略は費用対効果が高く、拡張性にも優れるため技術的障壁が少なく、さまざまな冷却用途に使うことができます」と話しました。

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in ハードウェア, Posted by log1l_ks

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