従来の最大50倍の効率でチップを直接液体で冷却可能なオンチップ水冷システムが開発される
電子機器で発生する熱は、特にサイズを小さくし、同一チップ内にできるだけ多くのトランジスタを詰め込むためには大きな問題となります。通常、チップの設計と、チップを冷却するシステムは、独立して別々に行われます。しかし今回、スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)の研究者たちは、これら2つの設計ステップを1つに組み合わせて、液冷システムをチップに内蔵させて直接冷やすシステムを開発したと発表しました。
Co-designing electronics with microfluidics for more sustainable cooling | Nature
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2666-1
Transistor-integrated cooling for a more powerful chip
https://techxplore.com/news/2020-09-transistor-integrated-cooling-powerful-chip.html
Self-cooling microchip provides a tiny solution to a giant problem
https://www.inverse.com/innovation/self-cooling-microchip-moores-law
アメリカ合衆国エネルギー省の報告書によると、アメリカのデータセンターは2020年に730億キロワット時ものエネルギーを消費すると予想されています。そして、1キロワット時のエネルギーを消費するたびに2ガロン(約7.6リットル)の水が冷却として必要になるそうです。
EPFLの研究者が開発したのが、以下のムービーで示される冷却システムです。
POWERlab Matioli - YouTube
複数のダイが載ったチップ本体
チップを裏返すと、こんな感じ。
チップ土台の最底部を取り外すと、チップの基板内部に冷却機構となるマイクロ流体チャネルが内蔵されているのが見えます。
マイクロ流体チャネルには複雑な溝が彫り込まれています。
この溝の間に冷却液を流すことでチップを適切に冷却し、デバイス全体に熱が伝わらないようにしています。研究者によれば、従来のモデルの最大50倍の冷却効率が実現できたそうです。なお、冷却液には電気を通さない脱イオン水が使われました。
以下の画像のうち左が実際の冷却システム。シリコンのダイに貼り付けて直接冷却します。
ただし、冷却システムを固定するための接着剤や基板表面に使われる材料の追求が不十分とのことで、研究チームは今後の研究課題に挙げています。また研究チームは、冷却剤をチップに極めて近い場所に流すことへの懸念から、長期的な安定性も求められると述べています。
研究チームの一員であるEPFL工学部のエリソン・マティオリ教授は「この冷却技術によって、電子機器をさらにコンパクトにすることができ、世界中のエネルギー消費を大幅に削減できる可能性があります。私たちは大きな外部冷却装置の必要をなくし、シングルチップで超コンパクトなパワーコンバーターが作成可能であることを示しました」と語りました。
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