サイエンス

科学論文の「不正に操作された画像」を検出するAIツールはすでに人間を上回る精度だという研究結果


科学論文において画像やデータを不正に操作して結果を改ざんする行為は、科学全般への信頼を揺るがす深刻な問題であり、論文における不正を検出する取り組みは非常に重要です。そんな科学論文の不正に操作された画像を検出するためのAIツールは、すでに人間の目視によるチェックよりも高い精度を持っているという研究結果が、プレプリントサーバーのbioRxivに掲載された査読前論文で報告されました。

A Quantitative Study of Inappropriate Image Duplication in the Journal Toxicology Reports | bioRxiv
https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2023.09.03.556099v2


AI beats human sleuth at finding problematic images in research papers
https://www.nature.com/articles/d41586-023-02920-y

近年は科学論文における不正が大きな問題となっており、2022年11月にはスタンフォード大学のマーク・テシエラビーン学長(当時)が主執筆者を務めた複数の論文で、データ操作などの不正があった可能性があると報じられました。テシエラビーン氏は神経科学者であり、疑いがかけられた論文にはアルツハイマー病に関する非常に影響力の強い論文も含まれています。

なお、テシエラビーン氏個人が直接不正行為に関与したり、共同研究者の不正行為を認識したりしていた証拠はなかったそうですが、テシエラビーン氏は引責辞任という形で2023年8月に学長を退きました。

スタンフォード大学の学長が研究論文の不正で辞任、少なくとも3本の論文が撤回へ - GIGAZINE


このように、不正が行われた科学論文が査読を通過してしまうケースは決して珍しくありません。アメリカの微生物学者であるエリザベス・ビク氏は2016年の研究で、2万621件の論文をスクリーニングした結果782件の論文で「不適切な画像の重複」があったと報告しています。782件のうち3分の1は単なる画像の貼り間違えの可能性があるものの、半分は明らかに加工が施されたものだったとのこと。

肉眼で画像の再利用・加工を行う不正な論文を見抜くスペシャリストとは? - GIGAZINE


こうした科学論文の不正は科学研究全般への信頼性を揺るがせるため、論文の不正行為を見抜く試みが重要性を増しています。そこで、科学論文の不正な画像操作について調査している生物学者のショルト・デイヴィッド氏は、論文の画像操作を検出するAIツール「Imagetwin」の精度を確かめるテストを行いました。

まずデイヴィッド氏は、毒物学の学術誌であるToxicology Reportsに2014年~2023年にかけて掲載された、関連画像を含む715件の論文について自身の目で調査し、画像の操作が行われた可能性がある論文を特定しました。その後、Imagetwinを使用して同じ論文群を分析し、自身の調査結果とどのような違いがあるのかを調べたとのこと。

その結果、Imagetwinはデイヴィッド氏よりも2~3倍のスピードで調査を行っただけでなく、デイヴィッド氏がフラグを立てた63件の論文のほとんどと、デイヴィッド氏が見落とした41件の論文を発見できたことが確認されました。

デイヴィッド氏の論文はまだ査読を受けていませんが、Toxicology Reportsを出版する学術系出版社のエルゼビアの広報担当者は、「私たちはこの査読前論文を認識しており、社内調査を開始しました」というコメントしました。一方、Toxicology Reportsの編集長は、エルゼビアの声明に付け加えることは何もないと返答したそうです。


Imagetwinはオーストリアのウィーンに拠点を置く企業・ImageTwin AIによって開発されたAIツールであり、約200もの大学や出版社、科学団体などが使用しているとのこと。また、前述のビク氏も自身を補助するツールとしてImagetwinを使用しています。

開発者によると、Imagetwinは論文に含まれているすべての画像について「画像の指紋」ともいえるものを作成し、この指紋が重複する画像を論文全体で探すことで不正操作を検出するとのこと。また、他の論文に掲載された約2500万枚もの画像からなるデータベースとも照合し、過去の論文から盗用された画像がないかどうかもチェックする仕組みとなっています。これらのプロセスを実行するのにかかる時間はわずか5~10秒ほどで、人間よりも素早く膨大なデータをスキャン可能です。

欧州生化学協会連盟(FEBS)の出版プラットフォームであるFEBS Pressの画像整合性アナリストを務めるヤナ・クリストファー氏は、「重複していないものを検出してしまったり、ソフトウェアがフラグを立てられなかったりすることもあります」と述べ、ImagetwinなどのAIツールには長所と短所があると指摘。その上で、「第二の目としてソフトウェアがあることは本当に素晴らしいことです」と述べ、人間の目とAIツールを組み合わせる画像操作チェックを、論文のレビュープロセスに組み込むべきだと主張しました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
肉眼で画像の再利用・加工を行う不正な論文を見抜くスペシャリストとは? - GIGAZINE

AIが偽の研究を量産する「論文工場」との戦いが激化している - GIGAZINE

学術誌ScienceがChatGPTなどのAIを論文の著者として認めないポリシー改定を実施 - GIGAZINE

スタンフォード大学の学長が研究論文の不正で辞任、少なくとも3本の論文が撤回へ - GIGAZINE

医療研究であまりに不正や誤りが多いため「裏付けされるまでは信頼するべきではない」と専門家が警告 - GIGAZINE

科学研究における不正行為はどうすればなくなるのか? - GIGAZINE

AIの創造的な思考能力がついに人間の平均を上回ったとの研究結果が報告される - GIGAZINE

「AIが人間と同レベルの知性を獲得する日は来るのか?」という質問に5人の専門家が回答 - GIGAZINE

in ソフトウェア,   サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.