結局「プラスチック製ストロー排除運動」に意味はあったのか?
コーヒーショップやファーストフード店で注文したドリンクに、プラスチックではなく紙のストローがついてきて飲みづらい思いをした経験がある人は少なくないはず。プラスチック製ストローの使い捨てが急に環境問題としてやり玉に挙がった経緯やその影響について、気候変動関連のニュースに特化した非営利の独立系メディア・Gristがまとめました。
Did plastic straw bans work? Yes, but not in the way you’d think. | Grist
https://grist.org/culture/plastic-straw-bans-single-use-plastic-pollution-impact/
Gristによると、プラスチック製ストローの使用禁止を呼びかける大きな運動のきっかけとなったのは、以下の動画だとのこと。
Sea Turtle with Straw up its Nostril - "NO" TO SINGLE-USE PLASTIC - YouTube
2015年8月10日に投稿されたこの動画には、海洋保護生物学者のクリスティン・フィグナー氏がコスタリカの近海で博士号取得のためのデータ収集を行っていた際に遭遇したウミガメが映っており、鼻には何かが詰まっているのが見えます。
ペンチでカメの鼻の穴に詰まった物体を引っ張ると、血が滴るのと同時に古いストローが顔を出しました。
コメンタリー付きの別の動画の中でフィグナー氏は、「私たちが日常的に使っているありふれたものが、カメの鼻の中に入っていたなんて信じられません。そして、この小さな物体がこれほどの苦しみを引き起こしていたことも」と語っています。
この動画は大反響を呼び、有名人らがフォロワーに呼びかけた「#stopsucking(吸うのをやめよう)」というソーシャルキャンペーンを通じて、「プラスチック製ストローを環境の第1の敵にしよう」という運動に発展していきました。
多くの飲食店が追従したことで、この運動は一気に広がり、政治を変えるまでになります。2018年にはシアトルがプラスチック製ストローを禁止したアメリカ初の大都市となり、カリフォルニア州、ニュージャージー州、フロリダ州などの主要な自治体がその後に続きました。さらに、スターバックスやアメリカン航空などの企業も反プラスチック製ストローの流れに乗り、スターバックスは2020年までに冷たいドリンク用の飲み口のついたフタ、通称「シッピーフタ」を導入し年間10億本のプラスチック製ストローを削減すると発表しました。
プラスチック製ストロー排除運動は、プラスチック汚染に対する怒りを巻き起こすことには成功しましたが、実効性には疑問が持たれています。例えば、National Geographicは「世界の海に投棄されている年間800万トンのプラスチックのうち、プラスチック製ストローは0.025%」との試算結果を報告しました。
プラスチック全体の問題に取り組んでいる人の中には、ストロー禁止運動を「スラックティビズム」と呼び、コミットメントや努力が伴わない自己満足のための運動だと非難する人もいます。そういった立場の人によると、プラスチック製ストロー禁止運動は、「プラスチック問題と戦うために自分たちが変化をもたらした」という誇張された感覚を得るためのものだったとのこと。
例えば、スターバックスが導入を決めた「シッピーフタ」はプラスチックの一種であるポリプロピレン製です。薄すぎてリサイクルが難しいプラスチック製ストローに比べればリサイクルしやすいため、スターバックスは「シッピーフタ」の導入を改善点と位置づけていますが、アメリカにおけるポリプロピレンのリサイクル率は3%しかありません。
また、障害者団体からもプラスチック製ストロー排除運動に反発する声が上がるようになりました。なぜなら、障害者の中には液体を飲むために柔軟なストローが必要な人もいて、すぐにぐちゃぐちゃになる紙製ストローや、曲げにくい金属製ストロー、洗浄が難しいシリコン製ストローはその代わりにならないからです。
使い捨てストローの提供を続けることを選択した企業の中には、竹や小麦など100%生分解性の天然素材から作られたストローを使うところもありましたが、コストがかさむため多くの企業がバイオプラスチック製のストローに注目しました。バイオプラスチックとは、トウモロコシやサトウキビなど非石油資源から作られた堆肥化可能なプラスチックです。しかし、紙容器メーカー・SOFi Paper Productsの共同設立者であるブランドン・リーズ氏によると、バイオプラスチックが効果的に分解されるためには所定の処理を行う必要があり、必ずしも適切な方法で廃棄されているとは言いがたいのが実情とのこと。
リーズ氏はGristに対し、「多くの企業が持続可能な方法を採用したいと望んでおり、バイオプラスチックのような代替品を見つけると『プラスチックを手放さずに環境に配慮できる』と誤解してしまうのでしょう。政府がより厳しく規制しない限り、企業はうわべだけ環境に配慮するグリーンウォッシュ戦略を使用できるので、本当に持続可能な選択肢とそうでないものを区別することは難しくなります」と話しました。
プラスチック製ストロー禁止運動は2023年に入っても活発で、多くの政府や自治体が次々と政策に採り入れているものの、すでに反プラスチック運動の目玉ではなくなっているとのこと。なぜなら、多くの人にとってプラスチック製ストローがないのが当たり前になっており、もう目新しい運動ではないからです。
その代わり、反プラスチック運動の支持者たちは、かつてプラスチック製ストローが刺激した怒りを新しい方法で利用しようとしていると、Gristは指摘しています。例えば、日本では2020年7月1日からレジ袋が有料化されていますが、アメリカでもカリフォルニア州、デラウェア州、ハワイ州、メイン州、ニューヨーク州、オレゴン州、バーモント州が何らかの形でビニールのレジ袋を禁止しています。また、スーパーマーケットや食料品店で買った商品の包装をその場で外し、出たゴミを店に押しつける「プラスチック攻撃」という活動も、香港、韓国、カナダ、ペルー、アメリカなど世界各地で行われています。
非営利団体・Plastic Pollution Coalitionで反プラスチック製ストロー運動を主導しているジャッキー・ヌニェス氏は、Gristに「この運動は多くの人々に光明をもたらし、私が『ゲートウェイ問題』と呼んでいるものになりました」と述べて、プラスチック製ストローを標的とした活動には人々の環境意識を高める効果があったと説明しました。
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