入院患者は病院内で少し運動するだけで身体機能が改善されて再入院リスクを軽減できることが研究で確かめられる
病気やケガなどで入院した際には、できるだけベッドから動かず安静にしていた方がいいと考えている人もいるはず。ところが、19の臨床研究をレビューした新たな研究では、「入院中に1日25分歩くだけでも高齢者の回復が大幅に早まり、退院後の再入院リスクも下がる」という結果が示されました。
Optimal dose and type of physical activity to improve functional capacity and minimise adverse events in acutely hospitalised older adults: a systematic review with dose-response network meta-analysis of randomised controlled trials | British Journal of Sports Medicine
http://dx.doi.org/10.1136/bjsports-2022-106409
Exercising during a hospital stay linked with faster recovery – new research
https://theconversation.com/exercising-during-a-hospital-stay-linked-with-faster-recovery-new-research-210755
入院中に身体活動を行わないことの悪影響は1940年代の時点で指摘されており、2005年の研究では体を安静状態にしてからわずか数時間で筋肉や骨が減少し始めることが示されています。また、長時間寝たきりであることは血流や肺活量を低下させて深部静脈血栓症のリスクを高め、褥瘡(じょくそう:床ずれ)や便秘、失禁などにつながる可能性もあるとのこと。
そこでスペインやイギリス、オーストラリア、ベルギーなどの国際研究チームは、病院に入院している間も運動し続けることが身体機能に及ぼす影響を調べるため、19の臨床試験で収集されたデータを分析しました。
19の臨床研究の被験者は、急性疾患や手術のために集中治療室や一般病棟で7~42日間入院した55~78歳の高齢者約3000人でした。データには、ベッド脇での簡単なストレッチやウォーキング、筋力トレーニングや有酸素運動など、さまざまな種類や量の身体活動についてのデータが含まれていました。
分析の結果、入院中にウォーキングなどの軽い身体運動を行った被験者は退院までに身体機能が向上し、退院後30日以内に再入院するリスクが10%低いことが明らかになりました。身体機能の向上や再入院リスクの軽減にとって最適な運動量は、中程度(わずかに息切れする程度)の負荷で1日約40分のウォーキングでしたが、1日に25分のウォーキング程度でも効果がみられたとのこと。
重要なことに、病院で体を動かしていた高齢者はそうでない高齢者と比較して、退院後に転倒・障害・死亡などを軽減する可能性が10%低かったそうです。この結果は、軽い運動が入院中に安静にしていることの有害な影響から保護してくれる可能性があることを示しています。
論文の共著者であるグラスゴー・カレドニアン大学のセバスチャン・チャスティン教授らは、「私たちの最新の研究は、身体活動が安静の影響を打ち消すのに役立つかもしれないことを示しています。入院中に1日わずか25分歩くだけでも、高齢者の回復を大幅に早めることができ、将来の新しい入院を妨げる可能性があることがわかりました」と述べました。
運動することのメリットは単に物理的なものに限らず、入院中の退屈を和らげて気分を改善することもメリットのひとつです。病院内での運動は患者がスタッフや介護者などと関わる機会を生み、メンタルヘルスの改善につながる可能性もあるとのこと。
さらに、入院しているうちから体を動かす習慣を身につけることは、退院後の日常生活でも活動的であり続けるのに役立ちます。この点が、入院中に運動していた人の再入院率が低い理由かもしれないとチャスティン氏らは考えています。
チャスティン氏らは今回の研究結果から、入院する際はウォーキング用のシューズも持っていった方がいいかもしれないとアドバイスしています。もちろん、自分の体調や体の状態に見合った運動をすることが必要であるため、最初はゆっくりした運動で体を慣らし、徐々に負荷を高めていくのがいいとのこと。
チャスティン氏らは、「ベッドから出て近くの椅子まで移動して休んだり、トイレやカフェテリアまで散歩したりといった、小さなことでも良いスタートになります。どこから始めればいいかわからない場合は、かかりつけ医や看護師、理学療法士といった最適なルーチンを提案できる人々に必ず相談してください」と述べました。
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