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ヨーロッパはなぜ半導体産業で他国に後れを取ってしまったのか


コンピューターなどの電子機器に欠かせない「半導体」の生産において、ヨーロッパがなぜ他国との競争に負けてしまったのかについて、主にアジアに関する経済・歴史の動画を投稿するYouTubeチャンネル・asianometryが解説しました。

Why Europe Lost Semiconductors - YouTube


2019年時点での世界市場において、半導体の設計、製造、組立をヨーロッパ企業が担うことは珍しく、アメリカや中国、台湾といった業界の中心的存在とは比べものにならないほど、ヨーロッパ企業の存在感は薄いものです。


20世紀にさかのぼってみると、半導体で作られた「トランジスタ」の開発ではアメリカに続く形でヨーロッパも参入しており、特にフランスは同分野で先駆者ともいえる存在だったとのこと。しかし、すぐに日本や他の国も参入したことによりヨーロッパでの半導体産業が後れを取り、技術格差はその後数十年かけて開いていくことになりました。


1947年、アメリカのベル研究所は世界で最初のトランジスタを開発しましたが、その半年後にはパリに滞在していた2人のドイツ人科学者、ヘルベルト・マタレとハインリヒ・ウェルカーが増幅作用をもったトランジスタを開発することに成功しています。これは後に点接触型トランジスタと呼ばれることになる最初期のトランジスタでした。


2人はフランス電信局のユージーン・トーマスに自らの発明品を見せ、特許を取得できるよう依頼。これを受けたトーマスは1949年5月にトランジスタの発明を発表する記者会見を行い、当時優勢だった真空管に対するトランジスタの優位性を挙げて使用法をデモンストレーションしました。この事業はフランスから絶賛され、1951年と1952年にアメリカとフランスでそれぞれ特許の取得に成功しています。


しかし、フランス政府は原子力の開発に注力することを決め、通信事業は民間会社に委託されることになります。政府からの資金が通信ではなく原子力に寄せられることになり、通信業界におけるトランジスタの開発は停滞してしまいます。


一方、アメリカではベル研究所がトランジスタの詳細を明らかにする公開シンポジウムを開催し、制作と助成に関する知識を誰もが自由に活用できるようにしていました。こうした環境の違いが、アメリカの研究所によるヨーロッパ各国の研究者の引き抜きにつながったともいわれています。


さらにフランスは1957年から1958年にかけてアルジェリア戦争で連敗を喫し、当時の大蔵大臣であったアントワーヌ・ピネによる緊縮政策が実施されることになります。業界の90%が政府に依存していたトランジスタ産業は、この政策により当初のリードを大きく失うことになりました。


ヨーロッパが停滞している間に日本も半導体産業で大きくリードすることになります。日本はトランジスタラジオやカラーテレビの開発を進め、1950年から1960年にかけて半導体の製造数は急激に上昇。企業買収等により半導体に関する情報が集約され、大きく成長することに成功します。


こうした状況を改善すべく、1982年にはフランスのフランソワ・ミッテラン大統領が5カ年計画を発表してマイクロエレクトロニクス分野の発展を画策。半導体の研究開発に多額の資金を投資します。目標は海外産業が支配しつつある国内の半導体シェアを中小企業に取り戻させることにありました。西ドイツでは、1984年に政府が大規模な半導体研究開発プログラムを開始しています。


しかし、ヨーロッパの各国は倒産などの憂き目に遭い、中にはアメリカの企業からの合併を受け入れるところも。次第にヨーロッパの半導体産業は衰退し、同時期に参入してきた韓国などのアジア企業に道を譲ることになりました。


2021年には欧州連合が「戦略的自治」を構築する計画を発表。ハイエンドチップの生産シェアを拡大し、半導体におけるヨーロッパのシェアを倍増しようとしています。asianometryは「歴史が証明しているように、ヨーロッパは半導体産業を財政的に支援することに意欲的です。欧州連合の戦略が吉と出るか凶と出るか、どちらなのでしょうか」と締めくくりました。

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in ハードウェア,   動画, Posted by log1p_kr

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