サイエンス

生まれる前や小児期に鉛を過剰摂取するとその後の人生で犯罪をする可能性が上がるという研究結果


金属の一種であるは融点が低く加工しやすいことから、古くから世界中のさまざまな地域で利用されてきましたが、生物の体内に蓄積して毒性を持つことから、近年では鉛の使用を取り締まる動きが進んでいます。新たにアメリカのジョージ・ワシントン大学の研究チームが、「出生前や小児期に鉛に暴露するとその後の人生で犯罪をする可能性が高くなる」という研究結果を発表しました。

The association between lead exposure and crime: A systematic review | PLOS Global Public Health
https://doi.org/10.1371/journal.pgph.0002177


Lead Exposure in Early Life Linked to Higher Risk of Criminal Behavior in Adulthood | GW Today | The George Washington University
https://gwtoday.gwu.edu/lead-exposure-early-life-linked-higher-risk-criminal-behavior-adulthood

Lead Exposure in Childhood Linked to Future Crimes, Study Finds : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/lead-exposure-in-childhood-linked-to-future-crimes-study-finds

Early lead exposure linked to adult criminal behavior • Earth.com
https://www.earth.com/news/early-lead-exposure-linked-to-adult-criminal-behavior/

鉛は有毒な重金属であり、鉛中毒になると生殖系や神経系、心血管系に深刻な損傷が生じるほか、血中鉛濃度が高い子どもは他の子どもと比較してIQが低いこともわかっています。また、小児期の鉛への暴露が非行や反社会的行動に関連していることも指摘されており、アメリカで1970年代後半~1980年代にかけて進められた有鉛ガソリンの廃止が、1990年代の暴力犯罪の大幅な低下の要因だとする研究結果もあります。

しかし、依然として鉛への暴露と犯罪行為との関連性について個人レベルで調べた研究データにはばらつきがあり、詳しくわかっていない点も多いとのこと。そこで、ジョージ・ワシントン大学の公衆衛生学部で博士課程に在籍するマリア・ホセ・タレイロ・スケッティーノ氏らの研究チームは、2022年8月以前に発表された鉛への暴露と犯罪・非行・暴力・攻撃性などの関連性について調べた論文をレビューしました。

鉛の暴露や暴力的行為の不適切な分類、研究のバイアスといった基準に基づいて正確性が不十分な論文を除外した結果、13件の研究結果に基づく17件の論文が残ったとのこと。これらの研究における鉛濃度の測定には血液や歯、骨などのサンプルが用いられており、アメリカ・イギリス・南アフリカ・ブラジル・イタリア・ニュージーランドなどで実施された長期にわたる追跡研究(コホート研究)が含まれていたそうです。また、鉛の暴露について測定した期間は「出生前」が2件、「幼児期(0~6歳)」が5件、「小児期後期(6歳~11歳)」が5件、「青年期および成人」が5件でした。


系統的レビューのバイアスを調査するツール「ROBINS-E」などを用いた分析の結果、鉛への暴露とその後の犯罪的傾向の関連は研究によってばらつきがあったものの、全体として鉛への暴露がその後の人生における犯罪行為や攻撃的な特性との関連があることが判明しました。

研究チームは、犯罪行為とされるものの幅が広すぎることや、個人レベルのデータに乏しいため、鉛への暴露と犯罪行為の関連性の強さについて調べるにはさらなる研究が必要だと指摘。その上で、「このような限界はあるものの、入手可能な生物学的証拠とあわせた今回のレビューは、個人が胎児の頃または小児期に鉛に暴露した場合、成人期に犯罪行動を起こすリスクが高いことを示しています」と述べています。


鉛への暴露はさまざまな健康問題を引き起こす可能性がある上に、成人より体が小さい子どもはより高い割合で鉛を吸収するため、小児への影響はより深刻なものになる可能性があるとのこと。鉛への暴露は必ずしも発展途上国だけの問題というわけではなく、先進国でも老朽化した水道管子ども向けのおもちゃなどが原因で発生しうるほか、バングラデシュではターメリックの添加物に鉛が含まれていた事例も報告されています。

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スケッティーノ氏は、「今回のデータは、すべての国が鉛曝露を防ぐための政策を実施する必要性を明確に示しています」「子どもにとって安全なレベルの鉛曝露はなく、各国は子供と妊婦を鉛汚染から保護するためのあらゆる努力を拡大する必要があります」とコメントしました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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