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マーケティング担当者が知っておくべき「プログラマティック広告」のポイントとは?


デジタルマーケティングについて洞察と傾向を調査するeMarketerによると、2022年のデジタルディスプレイ広告のうち90%以上がプログラマティック広告(運用型広告)となっています。プログラマティック広告はユーザーの反応や売上目標などを見ながら改善・運用し続けていく広告のことで、買い切り型の広告では実現できない効果を得ることができます。そんなプログラマティック広告について知っておくべきポイントを、ジャーナリストでマーケティングとテクノロジーについて扱うメディアであるMarTechの編集長を務めるコンスタンティン・フォン・ホフマン氏が解説しています。

What every marketer needs to know about programmatic advertising
https://martech.org/what-you-need-to-know-about-programmatic-advertising/


・プログラマティック広告とはそもそもどのようなものか?
ホフマン氏はまず、プログラマティック広告の基本的な概念について説明しています。プログラマティック広告はリアルタイムにオークションを行って広告を売買する形式で、サイトやサービスの訪問者がページを読み込むと広告が「購入」されます。最初に枠を購入するテレビCMなどの広告や、タイアップ料を費やして宣伝する広告とは異なり、プログラマティック広告はいつでも予算や広告の内容、配信料や配信先のターゲティングなどを調整することができます。

ホフマン氏はプログラマティック広告について「簡単に言えば、デジタル広告スペースの自動売買です」と表現しており、「アルゴリズムとAIを使用して自動化されたデジタル形式の広告利用」だと説明しています。


・プログラマティック広告はどのように機能するのか?
プログラマティック広告が表示される際には「1:ユーザーがサイトをクリックしたら広告スペースをオークションにかけるようにして、広告売買プラットフォームのAd-Exchangeに通知」「2:広告主の入札額や適切なターゲット視聴者などさまざまな要因を考慮して判別」「3:落札者の広告がサイトに掲載」という3段階が行われています。これら3段階は全てAIとアルゴリズムによって処理され、かかる時間は100分の1秒ほどとなっています。

ウェブサイトとは異なり、街頭ビジョンなどの屋外広告でプログラマティック広告を用いる場合、「特定のターゲットに向けて広告を出す」ということはできませんが、代わりに「スープ会社の広告が気温によって表示される」「花粉レベルが上昇したときにアレルギー薬の広告が表示される」といった条件が設定されることがあります。

・プログラマティック広告の種類
プログラマティック広告を自動購入する方法は、プロセス全体の速度が速い「リアルタイム入札(RTB)」と呼ばれる方法が圧倒的多数ですが、他の方法もあります。「プログラマティックダイレクト」という方法では、特定のサイトまたはサイトの運営者から保証された数のインプレッション(広告表示回数)を購入します。RTBとは異なり、広告の表示回数が確保される一方で、視聴者のターゲティングに関してはあまり優れたものにはなりません。多くの場合、プログラマティックダイレクトではオークションではなく固定価格契約が行われます。

その他、「プライベートマーケットプレイス」と呼ばれる招待制のマーケットもあります。パブリッシャーが特定の広告主に入札するよう招待する形になるため、広告主はAd-Exchangeを使う必要がなく、直接パブリッシャーとやりとりすることができます。近い形に、パブリッシャーが用意したプレミアムな枠を厳選した広告主に販売する「優先取引」というものもあります。優先取引の場合は、決められた価格以上のリアルタイム入札で価格が決定します。


・プログラマティック広告の市場規模は?
データ収集と視覚化に特化したドイツのオンラインプラットフォームであるStatistaによると、2021年にアメリカで購入されただけでも、プログラマティック広告に1670億ドル(約24兆円)が費やされたとのこと。また、ロンドンに本社を置く市場調査会社のTechnavioは、「プログラマティック広告への世界的な支出は、2026年までに3140億ドル(約45兆円)に達する」と予測しています。

以下の画像は、「デジタルディスプレイに限ったプログラマティック広告に費やされた費用と、広告全体の割合」をeMarketerがグラフにしたもので、2016年から2021年で大きく成長していることがよく分かります。eMarketerは2022年のプログラマティック広告がアメリカではデジタルディスプレイ広告市場の90.2%を占めると試算しており、eMarketerとBusiness Insider Intelligenceという2つの調査会社が提携したInsiderIntelligenceは、2023年にはプログラマティック動画広告の支出が2020年の倍以上になり、アメリカのデジタル広告支出全体の91%をプログラマティック広告が占めると予測しています。


・プログラマティック広告の利点とは?
従来のメディアから広告枠を購入する形式は、提案依頼から交渉、注文後の広告を手動で挿入するなど、あらゆる作業を必要とする「労働の手間と時間がかかるプロセス」だとホフマン氏は述べています。一方でプログラマティック広告はほとんどのプロセスが自動化されており、かなり効率的になっています。

その他の利点として、利用可能な広告在庫をプログラムで購入するため広告主とパブリッシャーともに「顧客のスケールが上がる」という点や、詳細なレポートやアナリティクスによりキャンペーンを最適にするための洞察を得やすい点、効率化により収益性や広告効果の上昇を見込める点をホフマン氏は挙げています。また、広告の購入と販売がシンプルなプロセスになったことで、単純に使いやすくなったことも大きな利点です。


・プログラマティック広告の費用はどれくらい?
プログラマティック広告は多くの場合、インプレッション1000件あたりの費用を示すCPM(Cost per mille)と呼ばれる数値によって決定されます。広告を表示したいジャンルや対象のデバイス、広告のフォーマット、ページ上の配置位置などのターゲティングが具体的であればあるほどコストが高くなります。

平均的な傾向として、プログラマティック広告のCPMはソーシャルメディア広告よりも安価になる傾向があり、オフライン広告よりも大幅に優れた価値を提供してくれるとホフマン氏は述べています。


・「小売メディアネットワーク」とは?
小売メディアネットワークは特定の小売業者が所有するネットワークで、ブランドが自社のウェブサイト、アプリ、店舗内を含むデジタル上のプログラマティック広告在庫を購入できるネットワークです。

小売業者はメディアと提携して詳細な買い物客データを使用してブランドのリーチを拡大できる他、広告売上のマージンが70%から90%ほどとかなり高いため、リサーチ・コンサルティング会社のForresterによると、小売業者の4分の1が小売メディアネットワークから1億ドル(約140億円)以上の収益を上げているとのこと。またマーケティング資料を提供するMediaRadarによると、2021年5月から2022年1月までの8カ月間で、2万3500社以上がメディアネットワークの広告を購入しており、14%は毎月継続して広告を購入していたそうです。

・プログラマティック広告にある問題は?
プログラマティック広告には利点も多くありますが、現実的な問題もいくつかあるとホフマン氏は指摘しています。まず、プログラマティック広告のターゲティングのベースとなるデータの多くは、サードパーティのCookieを介して収集されています。しかし、EUではCookieに対して厳しい制限があったり、AppleデバイスではCookieの使用を承認する手順が必須となっていたりと、Cookieを利用し続けられる状態がいつまで続くか不明となっています。ホフマン氏は「GoogleがCookieの使用制限を決定した場合、死の前兆が訪れると言えます。実際にCookieが規制された場合の回避策はたくさんありますが、データやデータに依存する広告のコストが高くなることが予想されます」と述べています。

また、オンラインでのリアルタイム入札という特徴を悪用されるケースもあります。テキサス州のケン・パクストン司法長官らが率いる司法長官らの連合が、「Googleは独占禁止法に違反してMetaと共謀している」として訴訟を起こしました。その他、Googleは複数の独占禁止法問題に関して司法省の捜査を受けており、デジタル広告を販売する側による悪用の危険性が示唆されています。

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by Ben Nuttall

その他、プログラマティック広告の普及を悪用した詐欺も広まっています。詐欺の中には、自動化・ボットを用いてウェブトラフィックを不当に上昇させるものや、偽のソースからクリックを誘導するケースが横行していたり、広告パブリッシャーがプラットフォームの価値を高めるためにボットネット所有者から「1000クリックごとに5ドル(約720円)」を購入するシステムがあったりと、さまざまな問題が浮上しています。


広告詐欺の問題について、サイバーセキュリティおよび広告詐欺対策コンサルタントのオーガスティン・フォウ氏は、「お金を払っている広告主は、何千億もの広告インプレッションを買いたいのです。しかし、ほとんどの人間は決まった少量のサイトを繰り返し訪問するため、それほど多くの広告インプレッションを集めることができないサイトが多いです。これを解決する唯一の方法がボットであり、結果として仲介業者、すべてのAd-Exchange、すべてのパブリッシャーが、より多くの不正行為を行うインセンティブを持っています。広告詐欺が大きな問題なのに解決されていかないのは、広告主や仲介業者さえも現状でお金を稼いでいるから、誰もが継続を望んでおり、誰も解決しようとしないからです」と語っています。

・プログラマティック広告を成功させる5つのポイント
ホフマン氏は最後に、プログラマティック広告を成功させるために重要な5つのポイントを挙げています。

まず、プログラマティック広告は適切なタイミングで適切な人にメッセージを届けられるように設計されています。ただし、そのタイミングと適切なターゲットは、自分で判断して選択する必要があります。そのため、プログラマティック広告キャンペーンを成功させるには、強力な視聴者ターゲティングが最も重要となります。

2つ目に、プログラマティック広告は広告を配信する対象者を明確に指定できるという利点があるため、広告をそれらの対象者向けに特別にデザインする必要があります。適切な画像や動画と適切なメッセージを組みあわせることで、最も理想的な結果を得ることができます。


3点目として、注意すべき重要な指標をホフマン氏は挙げています。「クリック単価(CPC)」は広告サプライヤーを探す際に重要な指標となり、また良好な「クリックスルー率(CTR)」を実現しているサイトを優先することで、「表示回数のわりにクリック率が低すぎる」というようなケースを避けることができます。その他、動画広告では目的となる再生時間まで広告が再生された時の価格である「完了ビューあたりのコスト(CPCV)」も注目する必要があります。

4点目に、プログラマティック広告はさまざまなデバイスやさまざまな形式で掲載されるため、それぞれのプラットフォームで最大のパフォーマンスを発揮するように、どのキャンペーンがどのようにうまくいって、どれがうまくいっていないのか、とマルチチャンネルの中で評価していく仕組みを構築することが望ましいです。

最後に、「フリークエンシーキャップ」の設定についてホフマン氏は指摘しています。フリークエンシーキャップとは、ディスプレイ広告や動画広告が同じユーザーに表示される回数を制限するもので、設定時に「1日1回」「1週間に10回まで」というように指定することができます。同じ広告が何度も表示されると優れた広告でもうっとうしく感じられ、また多くの人に表示されないと効果が薄くなります。サイトをまたいでユーザーを特定する仕組みも用いることで、「どこを見ても同じ広告が表示されすぎる」といったケースを避けて、より多くのターゲットユーザーに広告を届けることができます。

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in ネットサービス, Posted by log1e_dh

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