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Googleはいかにして莫大な利益を生み出し続けるオンライン広告を独占しているのか?

by FirmBee

Googleはさまざまなサービスを提供している企業ですが、その収益の多くをオンライン広告に頼っていることでも知られています。そんなGoogleの事業の柱であるオンライン広告が、いかにして市場を独占することとなっているのかをウォールストリートジャーナルが解説しています。

How Google Edged Out Rivals and Built the World’s Dominant Ad Machine: A
Visual Guide - WSJ

https://www.wsj.com/articles/how-google-edged-out-rivals-and-built-the-worlds-dominant-ad-machine-a-visual-guide-11573142071

197のテレビ局を傘下に置くアメリカ最大の放送局所有者・Nexstar Media Groupが、「Googleが提供する広告配信プラットフォームを利用せずにウェブサイト上に広告を掲載する」というテストを実行しました。その結果、同社の広告売上は急落したため、すぐさまGoogleの広告サービスの利用を再開したそうです。

このように、Googleはインターネット上の広告配信サービスにおいて強大な力を有しています。そのため、Googleおよび親会社のAlphabetに対しては、しばしば反トラスト法(独占禁止法)違反の疑いがかけられ、司法省などの司法機関から調査を受けることも少なくありません。

Googleの独占禁止法違反に関する捜査に50ものアメリカの州・準州などが参加 - GIGAZINE

by Carlos Luna

◆GoogleがDoubleClick for PublishersとAdXで形成する、オンライン広告取引の大まかな流れ
そもそもGoogleがインターネット広告配信プラットフォームとして強大な力を有している理由は、2008年に買収した企業・DoubleClickのテクノロジーによるところが大きな割合を占めます。このテクノロジーを用いてGoogleが構築した「アドエクスチェンジ(広告取引市場)」について、ウォールストリートジャーナルが解説しています。なお、ウォールストリートジャーナルは出版業社や広告企業の幹部へのインタビューの中で、多くの関係者がGoogleの構築するアドエクスチェンジに不満を抱いていることを確認していると指摘しています。

GoogleがDoubleClickのテクノロジーで作り出したアドエクスチェンジの仕組みは以下の通りです。

ステップ1:
オンライン広告では、読者(ユーザー)がウェブサイトに訪問するところからすべてがスタートします。

by Kobu Agency

ステップ2:
ウェブサイトを運営するユーザー(パブリッシャー)は、広告サーバーを用いてウェブサイト上の空きスペースを広告スペース(広告枠)として売りに出すことで収益を上げ、その対価としてサイト上に広告を表示します。


この時使用されるのが、Googleが開発した2つのツール。1つはウェブサイト上の広告枠に広告を配信するための広告配信サーバーである「DoubleClick for Publishers」。

もうひとつは、買い手(広告主)と売り手(パブリッシャー)の間でリアルタイムに広告を取引するためのオンライン取引所システムである「Ad Exchange(AdX)」です。

ステップ3:
パブリッシャーは、GoogleのDoubleClick for PublishersやAdXといったツールを用いる対価として、ウェブサイトを訪れるユーザーの年齢・収入・閲覧履歴・興味関心などの情報を提供します。

by Nathan Dumlao

ステップ4:
広告主側は、洗練された購入ツールを用いてAdXから広告枠に入札することが可能。広告主は広告を見せたい読者層の種類と入札金額を指定することで、「納得のいく金額でリーチしたい顧客層にピンポイントで広告を打つこと」が可能となります。


なお、ここでいう「洗練された購入ツール」というのが、Googleが提供する「ディスプレイ&ビデオ 360」というツールです。

ステップ5:
AdXが広告枠のオークションを行い、最高入札者が広告枠を獲得。そしてパブリッシャーの用意するウェブサイト上の広告枠に広告を配信できるようになります。


これがGoogleが作り出したアドエクスチェンジの大まかな流れです。このシステムについてはかねてから規制すべきという声も挙がっており、2020年アメリカ合衆国大統領選挙への出馬を表明しているエリザベス・ウォーレン上院議員からは、GoogleのDoubleClick買収を解消すべきという提案も出ています。

◆Googleのアドエクスチェンジと密接に交わる「Google 広告」
Googleは自社の構築するアドエクスチェンジおよび、それを用いた広告の売り手と買い手を連携させる方法について、「広告枠の売り手側は、我々のテクノロジーを用いることで700を超えるパートナー企業からの需要にアクセス可能となり、そのうちの1つはほかならぬGoogle自身です。そして、買い手側はAdXを用いることで80を超える広告枠を購入することが可能となります。広告技術分野全体の相互運用性により、広告の売り手と買い手のさまざまな需要を満たすことが可能です」と語っています。

そして、実際に大手パブリッシャーの90%以上がGoogleの用意している広告配信サーバーであるDoubleClick for Publishersを使用していることが明らかになっています。多くのパブリッシャーがあえてGoogleのサービスを利用する理由は、「GoogleのAdXに完全にアクセスするにはDoubleClick for Publishersを利用するしかないため」だそうです。AdXがオンライン広告の取引所として特別な地位を占めている理由は、Googleの広告出稿サービスである「Google 広告」(旧Google Adwords)の存在にあります。

ステップ1:
Google 広告はGoogleの検索ビジネスの中核部分を成しています。ウェブユーザーがGoogle上で何かしらのワードを検索すると……


ステップ2:
検索結果ページには、検索結果と共に広告が表示されます。ここに表示される広告は、Google 広告が実施するオークションに基づき決定されます。広告主は検索ワードに関連するキーワードで広告枠を入札できるため、例えば「住宅ローン」などの、ユーザーが興味関心を抱いている分野に対してピンポイントで広告を表示することが可能。そのため非常に人気の高い広告枠といえます。


ステップ3:
Google 広告では多くのウェブサイト上で表示されている広告と同じように、テキストベースの広告だけでなく、長方形型の広告など、さまざまな種類の広告枠を購入することが可能です。これはAdXで利用可能な広告枠をうまく利用した結果とのこと。


AdXは長らくGoogleが形成したアドエクスチェンジ市場にアクセスするための唯一の方法でした。そして、記事作成時点ではAdXのほかにGoogle 広告というプラットフォームを用意することで、AdXとの競合が図られています。しかし、Googleの広告製品に精通した人物によると、AdXは相変わらず広告需要の「大部分を引き受けている」とのこと。

大手パブリッシャーはGoogle 広告上で取り扱われる広告需要に依存しきっているため、大手の広告掲載媒体のある幹部はオンライン広告の配信構造を「欠陥」と表現しています。


長年Googleを批判し続けてきたウォールストリートジャーナルの親会社であるニューズ・コーポレーションは、傘下のメディアが用いる広告サービスをGoogleから競合相手であるAppNexusに切り替えることを検討しましたが、「最終的に、AppNexusではGoogleのオンライン広告ツールを用いて得られる広告需要の40~60%ほどしか満たせない」という結論に達し、利用を見送ったそうです。

同じようにGoogle以外の広告配信サービスの利用を検討しているメディアは多く、例えばオーストラリアの日刊紙であるSydney Morning Heraldは2016年にGoogleの広告サービスからAppNexusのサービスへの乗り換えを実行しています。しかし、翌年には再びGoogleの広告ツールを利用し始めており、成果が芳しくなかったことは明らか。また、ドイツの大手デジタル出版社であるAxel Springer SEもAppNexusのサービスへの乗り換えを行っていますが、同社の子会社であるBusiness Insiderは引き続きGoogleの広告サービスを利用し続けているとのことです。

Googleの広告サービスはFacebookやAmazonの同様サービスと共に、デジタル広告市場の覇権をめぐる争いを続けています。市場調査企業のeMarketerによると、Google・Facebook・Amazonの3社がアメリカにおけるデジタル広告シェアの7割程度を占めているそうです。なお、2018年度のGoogleの広告収入はなんと1160億ドル(約12兆6000億円)で、これは前年比で22%増という数字であり、Googleの総収入の約85%を占めています。

ウォールストリートジャーナルによると、Googleは自社ツールを併用する際にインセンティブを提供することでGoogleの広告ツールの利用を促しているそうです。実際、数年前にはAdXを通じて広告を販売した場合、DoubleClick for Publishersの特定の料金が免除されていたこともあるとのこと。

なお、GoogleはAdXとDoubleClick for Publishersという2つのツールを、「Google アド マネージャー」というひとつの広告管理プラットフォームに統合しています。

◆Googleのアドエクスチェンジにおける、広告枠のオークションバトルの流れ
ウェブサイトの運営者はサイトの空きスペースを広告枠として売りに出します。

Googleの広告サーバーであるDoubleClick for Publishersでは、あらかじめアドエクスチェンジをランク付けし、最もランクの高いアドエクスチェンジが広告枠を得るための入札権を得るというシステムを採用していました。この時、入札権利を得たアドエクスチェンジが提示した入札額がパブリッシャー側の求める最低額以下の場合、ランクが1つ下のアドエクスチェンジに広告枠の入札権が移行し、以下、広告枠の入札が決まるまでそれが繰り返されます。しかし、例えばランクの低いアドエクスチェンジが高額な入札額を準備していたとしても、それよりも上のランクのアドエクスチェンジが最低入札額以上で入札してしまえば、広告枠は確定してしまいます。

これは多くの見込み利益が失われてしまう構造となっていたため、Googleは広告枠を予約しておくことができる「ダイナミック アロケーション」という機能を開発。そして、複数のアドエクスチェンジによる広告枠の入札が起きる前に、AdXが最初に入札を行うという仕組みを作り上げます。さらに、Googleは自社の提供する複数の広告ツール間の相互運用を可能にすることで、AdX上でパブリッシャーが他のアドエクスチェンジで入力した最低入札額などをチェックできるように改造してしまいます。これにより、AdXは過去最高金額以上での広告枠の入札を望む広告主に対しては、過去最高金額+1ドル(約110円)で広告枠を用意することが可能となってしまったそうです。

このGoogleの入札方式に対抗するため、オンライン広告業界では「ヘッダー入札」という手法が編み出されます。この技術により、複数のアドエクスチェンジがリアルタイムオークションで広告枠を奪い合うこととなりますが、Googleはヘッダー入札にAdXを参加させることを拒否したため、ヘッダー入札はGoogleによる独占を完全になくすには至りませんでした。その代わりに、ヘッダー入札の勝者がAdXと対抗するという形式となった模様。しかし、ウォールストリートジャーナルは「Googleはトーナメント方式のバトルに参加しているように見えて、実際のところは初めから決勝に勝ち進んでいるような状態だ」と、その優位性に疑問を呈しています。

◆オンライン広告技術業界は墓場
Googleが長年にわたり市場を独占し続けてきたことで、パブリッシャーだけでなく広告技術会社も多くの損害を被っています。実際、OpenX、Facebook、VerizonなどがDoubleClick for Publishersの競合となる広告配信サーバー事業から撤退しています。オランダのティルベルグ大学の経済学教授であり、独占禁止法について研究を続けるダミアン・ジェラディン氏は、「広告技術業界は墓場のようなもの」と語っています。

また、Googleは2016年からはGoogleの広告ツールを用いてYouTubeの動画広告を購入するよう要求しており、Googleの独占はますます加速している気配すらあります。AppNexusの共同創業者であるBrian O’Kelley氏は、GoogleがYouTubeで配信する広告についても自社製広告ツールを利用して確保するように通知したことは、「多くの点で終わりの始まりだった」とコメント。広告入札サービスのBeeswaxを運営するAri Paparo氏も、「GoogleはYouTubeの広告を独占することで、広告ツールとしての規模を拡大しました」と語っています。

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in ネットサービス, Posted by logu_ii

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