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ゲームキューブとWiiのエミュレーターである「Dolphin Emulator」はなぜSteamでのリリースが中止となったのか?開発チームがその経緯を語る


オープンソースで開発されるゲームキューブとWiiのエミュレーター「Dolphin Emulator」は2023年3月にSteamで公開されることが明らかとなり、2023年第2四半期(4月~6月)中にリリースすることが目指されていました。しかし、2023年5月に突如Steamのストアページが削除されてしまい、Steamでのリリースは実質中止となりました。この件について、Dolphin Emulatorの開発チームが「任天堂ではなくSteamを運営するValveがストアページを削除した」ことを明らかにしました。

Dolphin Emulator - What Happened to Dolphin on Steam?
https://ja.dolphin-emu.org/blog/2023/07/20/what-happened-to-dolphin-on-steam/


ゲーム機のエミュレーターは海賊版のゲームソフトを遊べてしまうことから、著作権法的にグレーな存在です。Dolphin Emulatorの開発チームは、Steamのストアページが突然消えたのは「任天堂がデジタルミレニアム著作権法(DMCA)に基づいて削除を求めたから」だとValveから通知を受けたと公式ブログで説明しました。

任天堂がゲームキューブ&Wiiエミュレーター「Dolphin」Steam版の削除をValveに要求 - GIGAZINE


しかし、開発チームは2023年7月20日に公開されたブログの記事で、「まず最初に、任天堂はSteamのストアページに対してDMCAに基づく通知をValveまたはDolphin Emulator開発チームに送信していません。任天堂はDolphin EmulatorやValveに対していかなる法的措置も講じていません」と述べています。

開発チームによると、実際に起こったことは以下のような流れだったそうです。

1:Valveの法務部門が、Dolphin Emulatorのリリースが発表されたことについて任天堂に問い合わせた。
2:任天堂のアメリカ法人であるNintendo of Americaの代理人を務める弁護士はDMCAを根拠に、Dolphin EmulatorのリリースをやめるようにValveに要請した。
3:Valveは任天堂の弁護士から送られた声明をそのままDolphin Emulatorの開発チームに転送し、「Steamでリリースするには任天堂から承認を得る必要がある」と開発チームに通達。

つまり、「Valveが任天堂に問い合わせた結果、任天堂の法務部門がValveにリリース取りやめを要請した」というのが本当の流れであり、実際は任天堂から法的な手続きは何一つ行われていなかったそうです。しかし、任天堂がエミュレーターに対する態度が非常に厳しいことから、開発チームは任天堂から承認を得ることは不可能だと判断し、「私たちはSteamでDolphin Emulatorをリリースする取り組みを放棄します」と述べました。

さらに、開発チームはSteamでリリースするよりももっと大きな問題に直面していると述べています。実はDolphin EmulatorでエミュレートされているWiiのゲームは暗号化されており、ゲーム機本体に搭載されているチップ内の共通キーを使って復号しています。開発チームはゲームの復号を実現するべく、ハードウェアエンジニア有志によって抽出された共通キーを15年以上前にDolphin Emulatorのコードに組み込みました。


開発チームは「Wiiの共通キーについては、これまで誰からもいかなる法的対応を引き起こしませんでした。これらのキーは何年もの間公開されてきましたが、誰も気にしていませんでした」と述べています。しかし、今回任天堂がValveに宛てた通知で、「Dolphin EmulatorはWiiゲームを復号しているため、DMCAの保護回避禁止条項に引っかかる」と指摘しました。つまり、Dolphin EmulatorにWiiの共通キーが含まれていることは、DMCAで保護されている「著作物へのアクセスを効果的に制御する技術的手段」を回避するものだと任天堂は主張しているわけです。

開発チームはこの任天堂の指摘に対し、「私たちは、Dolphin Emulatorが保護を回避する目的で設計あるいは製造されたものではないと主張しています」と述べ、Dolphin EmulatorはWiiだけではなくゲームキューブのソフトもプレイできるように設計されており、回避そのものを目的にしたソフトではないと主張。むしろ、Dolphin EmulatorはWiiソフトウェアとの相互運用性を実現するために暗号化を回避しており、法的に問題はないことは弁護士にも確認済みであり、任天堂の弁護士がWiiの共通キーに触れてきたのは「DMCAに基づいて苦情を入れた前例を作りたかったからだ」と述べました。


しかし、「任天堂からDMCAに基づいてクレームが来た」という情報が一人歩きした結果、Wii共通キーを削除すべきだという意見が大量に送られてきたとのこと。開発チームはこうした意見を送ってくる人たちを「安楽椅子型弁護士」と揶揄(やゆ)しながら、「Wiiの共通キー自体は重要ではなくささいな問題であり、法的にも問題ないと考えています。これはWiiの共通キーをコードに含める前から調査とリスク分析を行っていたのですが、YouTubeやSNSで多くの人が『指摘された』という事実だけで削除するのが当然だろうと考えていたことは残念に思います」とコメントしています。

開発チームは「最終的にSteamストアを運営しているのはValveであり、Valveは自分のストアで扱うものを許可あるいは禁止する権利を有します。任天堂に関していえば、今回の件はエミュレーションに対する従来の姿勢を継続しているだけです。私たちは今回の件で両社に対する見方が変わるべきではないと考えています」と述べており、Steamリリース中止とは関係なくDolphin Emulatorの開発を今後も続けていくことを明らかにしました。

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in ソフトウェア,   ハードウェア,   ゲーム, Posted by log1i_yk

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