サイエンス

人間が耐えられる暑さは何度までなのか?


世界気象機関(WMO)は2023年6月が史上最も暑い6月だったことを発表し、さらに7月7日にも世界の平均気温が最高値を更新したことを発表しました。日本でも猛暑日が続きますが、そんな猛暑の中で人体が耐えられる暑さは何度までなのかを、サイエンス系メディアのThe Conversationがまとめています。

As heat records fall, how hot is too hot for the human body?
https://theconversation.com/as-heat-records-fall-how-hot-is-too-hot-for-the-human-body-210088


アメリカ・カリフォルニア州にあるデスヴァレーでは、2023年7月16日にセ氏53.3度を記録しました。アリゾナ州のフェニックスでは19日連続でセ氏43.3度以上を記録しており、セ氏32.2度を下回らない夜が連日続いています。そんな猛暑日が続く中で思い浮かぶ疑問が、「若くて健康な成人であっても通常の日常生活ができなくなるほど暑くなるのは、何度からなのか?」というもの。

その答えは温度だけでなく湿度も関係してきます。ペンシルベニア州立大学の生理学者であるW・ラリー・ケニー氏らは、湿度と温度の組み合わせが人間へ及ぼすリスクを測定する研究を行っており、湿度と温度の組み合わせは科学者がこれまで考えてきたよりも低いレベルであってもかなり危険なことが明らかになりつつあります。


2010年に発表された研究では、「湿球温度セ氏35度」が人間が耐えられる上限であると結論づけられていました。この湿球温度を超えると、人体は安定した深部体温を維持するために体の表面から汗を蒸発させて、体温を下げることができなくなるとされています。なお、湿球温度セ氏35度は「湿度100%でセ氏35度」あるいは「湿度50%でセ氏46度」に相当するそうで、同研究における「人体で耐えられる湿球温度はセ氏35度」という数値は、実験室の環境下で行われたテストで導き出されたものです。

ケニー氏らはこの先行研究の挙げる「人体で耐えられる湿球温度はセ氏35度」という数値を検証するために、若くて健康な男女を対象に、管理された環境下で熱ストレスを体験させるという実験を行いました。


実験では被験者の深部体温を継続的に測定するために、被験者に遠隔測定用の錠剤を飲み込んでもらい、テスト用の部屋の中でシャワーを浴びてもらったり料理をしてもらったり食事をしてもらったりと、日常生活の最小限の活動をシミュレーションしてもらいました。この実験の中で研究チームはテスト用の部屋の温度と湿度を徐々に上昇させ、被験者の深部体温が上昇し始める瞬間を監視しています。

人体の深部体温が継続的に上昇し始める温度と湿度の組み合わせは「臨界環境限界」と呼ばれており、これを下回る間、人体は長期間にわたって比較的安定した深部体温を維持することができます。しかし、臨界環境限界を超えると深部体温は継続的に上昇し、長時間にわたり臨界環境限界を超えていると熱関連の疾患を発症するリスクが高まるそうです。


人体が過熱すると、熱を体内から放出するために皮膚に血流を送り出そうとします。すると、心臓はより激しく動かなければならなくなります。また、放熱のために発汗すると体液が減少することとなる模様。このような状態が続くと熱中症になり、生命を脅かす危険性が生じます。

ケニー氏らによる実験では、この臨界環境限界が先行研究の「湿球温度セ氏35度」よりもさらに低いことが明らかになりました。研究チームによると、臨界環境限界は「湿球温度セ氏31度(湿度100%でセ氏31度)」であることが明らかになっています。

以下のグラフはケニー氏らの研究チームが割り出した臨界環境限界を示すグラフ。横軸が温度、縦軸が湿度で、緑色のエリアが臨界環境限界を下回る「安全な湿球温度」、赤色のエリアが熱中症などの危険性が高まる「危険な湿球温度」を表しています。


ただし、これはあくまで体温の過度の上昇を防ぐことだけに基づいた条件であることに注意が必要です。温度や湿度がさらに低くても、心臓やその他の体のシステムにストレスがかかる可能性は十分にあります。

別の研究では、皮膚に血液を送り出す時、深部体温が上昇するよりかなり前のタイミングで心拍数が上昇し始めることが明らかになっています。これらの制限を超えることが必ずしも最悪のケースにつながるわけではありませんが、長期にわたる曝露は高齢者や慢性疾患を持つ人などにとっては危険な結果につながる可能性があります。

なお、ケニー氏ら研究チームは「高温時にも人体を安全に保つ方法」として、「十分な水分補給を行うこと」および「少しでも涼しさを保てる場所を探すこと」を挙げています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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