物語において「部屋」を重要視して活用すべきというアドバイス
物語において「舞台設定」は重要で、キャラクターたちがどのような設定のどのような場所で活躍するのか、というアイデアは作品の面白さを大きく左右します。しかし同時に、活動の出発点となる「部屋」をしっかり設定して上手に使うことが舞台設定と同じくらい重要であるというアドバイスを、英語学の准教授で作家のミーガン・フェルナンデス氏が語っています。
Megan Fernandes on the Literary Uses of a Room ‹ Literary Hub
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フェルナンデス氏は「部屋は時間の出発点であり、時間は詩人にとっての出発点です」と述べています。例えば部屋でパーティを行うような特別な時間でも、バルコニーに立っている自分と、ドアを通ってこちらに向かってくる人の位置、それ以外の人が集まっている場所について、部屋という限られた空間によってそれぞれの位置関係と距離が明確になります。それをフェルナンデス氏は「部屋は有用な制約」と表現しています。
フェルナンデス氏が発表した「Reunion(再会)」という詩では、飛行機の中という舞台から、ヴェネツィアの大聖堂へと移動し、最後には自室のキッチンでトマトを洗いながら蛇口の水を眺めています。ヴェネツィアの運河を流れる水と蛇口の水とを重ね合わせることで、部屋の中にスケールダウンした世界を閉じ込めるように表現し、閉塞(へいそく)感や外の世界への憧れを表しています。
その他、フェルナンデス氏はいくつか「部屋」を巧みに活用した作品を例に挙げています。コルソン・ホワイトヘッド氏の「地下鉄道」では、逃亡者の女性が小さな屋根裏部屋に数カ月間隠れるストーリーが描かれます。読者は主人公と一緒に狭い空間で窮屈な思いをしながら、外の世界への憧れと同時に残酷な広い世界への恐怖を感じ、部屋に対して安全圏への親密さと恐怖への緊密さを感じさせます。
また、ソフィア・コッポラ監督の映画「ヴァージン・スーサイズ」では、近所の憧れの的となっていた5人の美人姉妹が、それぞれ家の中の異なる部屋で自殺を試みる様子が描かれます。フェルナンデス氏によると、5人の姉妹が選んだ場所に彼女たちの個性や意図が表れていると同時に、それらすべてが場所は違うものの「部屋」であることで、家の外から見た時に同時破滅的な感覚を与える効果があるとのこと。このような、「内から見ると個別的だが外から見ると包括的」という点も、「部屋」という閉鎖的な空間の持つ効果だと考えられます。「ヴァージン・スーサイズ」のラストでは彼女たちの行動が家の中から飛び出し、家の外からのぞき見るような構図は崩れ、「部屋」は破壊されます。
またフェルナンデス氏は、部屋は「エピファニー」を起こす空間でもあると述べています。エピファニーとは、風呂につかった時のあふれるお湯を見て体積の測り方を思いついたアルキメデスや、アイザック・ニュートンが木から落ちるりんごを見て万有引力を発見したとされる際などの、「突然の目覚ましい理解の感覚」を指します。転じて、文学では「平凡な出来事の中に、その状況や人物などの『本質』が現れる瞬間を、象徴的に描写すること」を表現したワードです。キャサリン・マンスフィールド氏の短編小説「ミス・ブリル」では、部屋から部屋へと移動する神経質ではじけるようなエネルギーは、キャラクターの落ち着きのなさや世界に対する不定型な状態の認識を示しています。部屋とはプライベートな空間であり、他人に配慮せず自身の意のままに動くことができるため、キャラクターの本質的な内面が見えやすくなります。
「部屋は収束し、破壊し、投獄し、解放します」とフェルナンデス氏は表現しています。なぜ家の中で展開するのか、自分一人の部屋の中で何を語るのか、部屋の家具や小物について何をどのように配置するのかといった情報は、雰囲気やキャラクターの性質を設定し、キャラクターがどのように生きているのか、そして他の人がその空間に侵入したときにどのような混乱が起きるのか、という形で物語に重要な意味を与えます。
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