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「AIの発達によりアウトソーシングの労働者はプレッシャーが高まっている」という指摘、さまざまな業種のフリーランスが語る「AIが仕事に与える影響」とは?


自然な対話や高度な文章などを生成できるChatGPTや単語を入力するだけでクオリティの高い画像を生成できるStable DiffusionやMidjourneyなどの登場により、クオリティでは人間が勝っていても生産速度や無料には勝てないという指摘があり、AIがイラストレーターの仕事を奪う事例やゲーム開発のあり方が変わりつつある事例が報告されています。AIを導入したことでオンラインストレージサービスのDropboxが全従業員の約16%を解雇したり、AIにより問題解決にかかる時間が大幅に短縮されたことでスタッフの90%がクビになったりと実際に職業をAIに奪われたケースも発覚していますが、「最も企業によるAIの導入でリスクを抱えているのは、アウトソーシングに対応するフリーランスや契約労働者である」と、テクノロジーメディアのRest of Worldがさまざまな業種のフリーランスにインタビューしながら指摘しています。

The workers at the frontlines of the AI revolution - Rest of World
https://restofworld.org/2023/ai-revolution-outsourced-workers/


簡単な文章(プロンプト)を入力するだけで非常に高クオリティの文章やプログラム、イラストや写真などを生成できるジェネレーティブAIの急速な発達と普及により、AIが仕事に与える影響についてさまざまな事例や研究が報告されています。ChatGPTの開発を行っているOpenAIとペンシルバニア大学の研究では全職業の80%がAIの影響を受けるとの研究結果が示されており、またアメリカの金融グループであるゴールドマン・サックスの調査ではジェネレーティブAIが世界のGDPを7%増加させると同時に3億人の雇用に影響を与えると示唆しています。

「ChatGPT」などの自動生成AIは世界のGDPを7%増加させると同時に3億人の雇用に影響を与えるという調査報告、日本は世界で3番目に大きな影響を受けるとの指摘も - GIGAZINE


AIによって仕事の効率や生産量が上がった結果、社内で大規模な解雇が行われる事例も複数報告されていますが、Rest of Worldは「特に強い影響を受け、最もリスクにさらされているのはアウトソーシングで活躍する労働者」と指摘しており、「コストを削減するために物価や人件費の安い地域に外注していたオフショアのアウトソーシング労働者が、ジェネレーティブAIによる革命の最前線に立っています」と表現しています。

国際労働機関(ILO)とオックスフォード大学の共同研究で労働市場の調査を行うOnline Labor Observatoryによる2020年の調査では、インド、パキスタン、バングラデシュのフリーランス労働者がプラットフォーム上に多く、クライアントの大半はアメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスであることが示されました。ILOの上級エコノミストであるウマ・ラニ氏は「オフショアリングサービスは、賃金が安く済む地域の労働者に依頼するため、雇用主はオフショア用のプラットフォームで労働者を求めています。しかし、労働者が支払わなければならないプラットフォーム上の料金は、労働者が直面している搾取のほぼ2倍に相当します」と説明しています。このようなオフショアモデルには価格面やクオリティ面で不安定性が組み込まれているため、フリーランス労働者はジェネレーティブAIを活用した労働市場の変化の影響を特に受けやすくなっているとRest of Worldは述べています。


Rest of Worldはさまざまな国のさまざまな業種で活躍するアウトソーシング労働者に、ジェネレーティブAIによって仕事がどのような影響を受けているのか話を聞いています。

フリーランスのグラフィックデザイナープラットフォームの99designsで活躍するアファエル・ロドリゲス・デウストゥア氏は、サイト上でジェネレーティブAIとの競争に直面している実感を語っています。99designsにはクライアントが目的のデザインを作成してもらうために参照する「デザインコンテスト」がありますが、そこにジェネレーティブAIで生成した作品がここ数カ月で増えているそうです。デウストゥア氏は「そのような才能がない人、またはコンテストで『勝つ』スキルを身につけるために何年も練習をしていない人が、実際に描いたわけでもないイラストで参加してくることは、私を悩ませます」とジェネレーティブAIを使用することに拒否を示しています。


ナイジェリアのラゴス在住でコピーライターを務めるアビソエ・オトゥサンヤ・アッザン氏は、主に個人開発やフィットネスなどの分野でアメリカやイギリスを拠点とするクライアント向けにマーケティングコピーを執筆しています。アッザン氏はChatGPTの流行に素早く反応し、ガイドやコミュニティで知識を得てより良いプロンプトを与える方法を理解していったそうです。アッザン氏は「多くのクライアントはすでに、コピーライターを雇う代わりにAIツールを使用していると思います。ただし、このテクノロジーは別の機会をもたらす可能性があります。エンジニア兼ライターを雇おうとしている企業も見てたため、それが次の需要分野になるかもしれません。物事がどうなるか興味があります」と語っています。

メキシコ在住のイラストレーターであるサンティアゴ・バウティスタ・ゴンザレス氏は、マンガ風のイラストを販売することで良いときは約1500ドル(約20万円)の収入を得ていたものが、2023年初頭には3分の1まで減少したとのこと。ゴンザレス氏が利用しているオンラインマーケットプレイスのFiverrにはAIアーティスト用のセクションが追加されており、それが原因だと気づいたゴンザレス氏はAIツールの使い方を覚えて投稿を始めました。結果として、流行に乗れて売上を獲得できた上に、AIコンテンツで名前が売れたことで、従来通りの手描きの注文も高まったそうです。ゴンザレス氏は「私はジェネレーティブAIにより自分の仕事が奪われることは恐れていません。AIで画像を作成するには、依然としてある種の創造性が必要です。そして、もし仕事がAIに何でも任せられるようになったら、私の仕事が減って自分のプロジェクトにより多くの時間を使えるようになり、より多くの収入が得られることを意味するだけです」と前向きに述べています。

以下の画像は、Rest of Worldがゴンザレス氏に依頼した「市内を走行中に荷物を紛失した配達ドライバーのイラスト」で、左がAIを使わない手描きイラスト、右がAIを用いたもの。手描きのイラストは参考資料を検索して線画を描き、そこからAdobe Illustratorで色を追加するというプロセスで、94分の時間と70ドル(約9600円)のコストがかかっています。AIイラストでは、Midjourneyにさまざまなイメージを作成させ、生成された画像をAdobe Photoshopで結合することで作成されており、かかった時間は32分、コストに換算すると50ドル(約6900円)となっています。


フィリピン在住でオンラインアシスタントを仕事とするジェシカ・タリエラ氏は、主にアメリカのコンテンツマーケティング企業をクライアントとして、メールを書いたり調査を行ったりしています。タリエラ氏は「私は優れたライターではありません。そこで、私はChatGP を使って物事を言い換えたり、書いたり、要約したりしています。クライアントも私がAIを使用することを知っており、推奨してもいます。私の仕事においては、AIツールは時間の節約にはなりませんが、仕事の質を向上することができています」と実体験を話しています。

一方で、同様のビジネスアウトソーシング業界で従業員ネットワークの会長を務めるミレーネ・カバロナ氏は、AIツールによって仕事が不要になるのではないかと多くのオンラインアシスタントが懸念していると語っています。カバロナ氏は「私たちはAIに反対しているわけではありませんし、いかなるソフトウェア開発にも反対しているわけではありません。しかし、AIは労働者を助ける仕組みであるべきで、労働者に対して使用されるべきではなく、AIが労働者に置き換わるために使用すべきではありません」と述べています。

中国の広東省在住のマーケティングデザイナーであるウー・ダユ氏は、オンラインファッションストア向けに6着の服について販促資料を作成する場合、モデルやメイクアップアーティスト、カメラマン、会場を用意した上で、1週間の労働と約3500ドル(約48万円)の費用が従来はかかっていたと語ります。しかし、2023年3月にジェネレーティブAIを導入して以来、同じ作業を2人で取り組んで1日で完了させ、コストも140ドル(約1900円)まで抑えられたとのこと。結果としてダユ氏は4月に従業員の60%を解雇したそうです。ダユ氏は「一部のハイエンドブランドは人間モデルを好むかもしれません。しかし、中小規模の販売業者にとって、AIモデルは多くのお金と時間を節約します」と話しています。


一方で、ファッション写真家のシェイマン・リュー氏は、AIコンテンツがすべての写真に取って代わることには疑問を抱いており、現実のモデルを使って宣伝された商品のほうが買い物客にとってより魅力的だと信じていると語りました。また、モデルのチャーリーン・シュー氏は、ジェネレーティブAIを使用するクライアントの影響で、時給や報酬額が下がるのではないかと懸念しています。

オフショアのアウトソーシング労働者の中には、AI関連の仕事に軸足を移している人もいる一方で、AIへの対抗に尽力している人もいます。メキシコのグアダラハラ出身のイラストレーターであるデウストゥア氏は、イラストレーターとしてのビジネスを存続させるために、「多くのクライアントは、何を依頼すべきか説明するのが難しい場合があります。私たちはクライアントが希望を伝えるところから手伝うことができます。より細部への配慮を求める顧客と、より強い関係を築いていけると期待しています」と語っています。実際に、ジェネレーティブAIで進めようとしてうまく形にならず、デウストゥア氏に依頼を回したクライアントがいたそうです。

デウストゥア氏は20年以上ジャーナリストとして働いた経験があり、2010年代にデジタルニュースサイトとソーシャルメディアが台頭した際に、印刷メディアの仕事が減っていると感じてフリーランスのイラストレーターに転職したとのこと。デウストゥア氏は「私は、テクノロジーのせいですでに一度避難させられた経験があります」と、社会の変化が仕事に与える影響を実体験として語っています。

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in ソフトウェア,   ネットサービス, Posted by log1e_dh

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