人がマイクロプラスチック粒子を吸い込むメカニズムが判明
流体力学を応用して人間が吸い込む空気の流れをシミュレーションする研究により、健康被害が懸念されるマイクロプラスチック粒子がどのようにして人の呼吸器に入り込むのかが確かめられました。
How microplastics are transported and deposited in realistic upper airways? | Physics of Fluids | AIP Publishing
https://doi.org/10.1063/5.0150703
Microplastics Stick Around in Human Airways - AIP Publishing LLC
https://publishing.aip.org/publications/latest-content/microplastics-stick-around-in-human-airways/
これまでの研究や調査により飲料や食料には大量のマイクロプラスチックが含まれていることがわかっているほか、空気中にもおびただしい数のマイクロプラスチック粒子がただよっており、2023年5月に発表された試算では、都市に降下するプラスチックは1日数十kgにも及ぶことが示されました。
「今日のパリの天気は雨ときどきプラスチック汚染」、初のプラスチック予報でパリには1日50kgのマイクロプラスチックが降下するとの予測 - GIGAZINE
有毒な汚染物質や化学物質を含むマイクロプラスチックを吸い込むと、深刻な健康被害がもたらされるおそれがあるため、呼吸器疾患の予防や治療にはマイクロプラスチックの動きを理解することが欠かせません。オーストラリアやイランの大学の研究チームは、2023年6月に流体力学を専門とする査読付き科学誌・Physics of Fluidsで発表した研究で、上気道におけるマイクロプラスチックの移動と沈着を解析するための計算流体力学モデルを開発しました。
研究の経緯について、論文の筆頭著者であるニューサウスウェールズ大学シドニー校のモハマド・S・イスラム氏は「何百万トンものマイクロプラスチック粒子が、水や空気、土壌で見つかっています。世界で生産されるのマイクロプラスチックの量は急増しており、空気中のマイクロプラスチックの密度も著しく増加しています。さらに、2022年に初めて、人の気道の奥でマイクロプラスチックが見つかったことで、呼吸器系への重大な健康被害が危惧されるようになりました」と話しています。
イスラム氏らは研究で、異なる形状(球形/4面体/円筒形)と大きさ(1.6/2.56/5.56マイクロメートル)のマイクロプラスチックが、呼吸が速い条件と遅い条件でどのように振る舞うかを調べました。シミュレーションで設定されたこれらのサイズのマイクロプラスチックは、実際に解剖により人の肺組織から見つかったものだとのこと。
以下は、呼吸が遅めの場合におけるマイクロプラスチックの沈着パターンで、球形(左上)、4面体(右上)、円筒形(下)の形状をした直径1.6マイクロメートルの動きをシミュレーションしたもの。ゆっくり呼吸している場合、呼吸が速い場合に比べて呼吸器に付着する粒子が少ないことや、分布が均一になる傾向があることなどが確かめられました。
こうしたシミュレーションを重ねた結果、呼吸により吸い込まれたマイクロプラスチックは鼻腔(びくう)や咽頭(いんとう)、つまり喉の奥という特定の場所に集中して付着することが判明しました。また、サイズが大きい5.56マイクロメートルのマイクロプラスチック粒子は、小さいものより気道に蓄積する傾向が高いこともわかりました。
論文の著者らは、この研究がマイクロプラスチックへの暴露や粒子の吸入がもたらす懸念の深刻さ、特に産業活動が盛んでプラチック汚染が激しい地域におけるそれらの問題の大きさを明らかにしたと指摘しており、この知見が健康リスク評価の手法や、薬剤の投与方法の改善に役立つことを期待しています。
論文の共著者であるクイーンズランド工科大学のYuanTong Gu氏は、「本研究は私たちが呼吸する空気中にマイクロプラスチックが存在し、健康に影響を及ぼす可能性があることをより深く認識する必要性を強調するものです」と話しました。
・関連記事
初めて人間の血液中からマイクロプラスチックが発見される - GIGAZINE
「今日のパリの天気は雨ときどきプラスチック汚染」、初のプラスチック予報でパリには1日50kgのマイクロプラスチックが降下するとの予測 - GIGAZINE
生きた人間の肺から初めてマイクロプラスチックが見つかる - GIGAZINE
体内のマイクロプラスチックがおなかの中の胎児に達する可能性が浮上 - GIGAZINE
プラスチックによる海洋汚染がいかに激増したのかが60年分の海洋調査データから鮮明に - GIGAZINE
世界中の「食塩」ブランドの9割でマイクロプラスチックが発見される - GIGAZINE
人間が出した微小な「マイクロプラスチック」が魚の成長を妨げている可能性 - GIGAZINE
・関連コンテンツ