サイエンス

チームのパフォーマンスを最高レベルにまで引き上げるため適度に力を抜かせる「85%ルール」とは?


最高のパフォーマンスを発揮するため考え方に「最大の成果を挙げるには最大の努力が必要である」というものがあります。しかし、最新の研究では最高のパフォーマンスを実現するのに必要な努力は「85%」程度であることが示唆されています。

To Build a Top Performing Team, Ask for 85% Effort | Hacker News
https://news.ycombinator.com/item?id=36254774

「痛みなくして利益なし」「根性なしに栄光なし」「110%の努力をすべき」など、成功には100%以上の努力が必要であるという主張は、日本だけでなくアメリカでも1980年代から長らく存在しているそうです。この思考はアメリカ企業の管理職の間でもいまだに存在しており、その影響で一部の企業では「ストレスに対処するためのヨガ」を企業が提供しながら、「週に80時間以上の労働」を求めるなどのダブルバインドが起きているとのこと。

従業員がバーンアウトシンドロームに陥ることを防ぐため、企業はウェルネスアプリを導入するなどさまざまな取り組みを行っていますが、最も重要なことは「最大の成果を挙げるには最大の努力が必要である」という考え方を改めることであることが、最新の研究により明らかになっています。


例えば陸上競技の短距離走の場合、100%の加速に到達するタイミングが早すぎると、100メートルを走りきるまでの時間が長くなってしまうことが判明しています。オリンピックで10のメダルを獲得したカール・ルイスも、「トレーニングは賢明であるべきです。多くの場合、痛みの限界まで自分を追い込むよりも、休むことの方が重要です」と述べ、適度に力を抜くことの重要性を説きました。

カール・ルイスのコーチを務めたトム・テレスも、短距離走の選手に対して顎(あご)・顔・目をリラックスさせることを推奨し、競技時には「歯を食いしばらないで」とアドバイスしています。これは全身に力を入れ過ぎると、その緊張が首から体幹、足にまで伝わり、パフォーマンスの悪化につながるためです。


一般的な企業の中でも「もっと業務を頑張らないと出世できないよ」と過剰な努力を求める上司はしばしばおり、中途採用の社員が異様に定時退社を嫌い、遅くまで仕事を続けるという「以前勤めていた会社の習慣」を新しい会社でも続けてしまうというケースもあります。これらの事例はどれも「最大の成果を挙げるには最大の努力が必要である」という考え方が根底にあるためです。

しかし、実際には最大の努力が最大の成果につながるとは限りません。チームを管理するマネージャーは「最大能力を少し下回る水準で働けるように予定を組む」ことで、チームの最大パフォーマンスを実現することができます。

以下は仕事時間(横軸)とパフォーマンス(縦軸)をベースに、努力(Exertion)と過剰な努力(過度な努力)の分岐点が休憩に適したタイミングであることを示したグラフ。身体的および精神的な疲労を防ぎ、最高のパフォーマンスを維持するには、適切なタイミングで休息をとる必要があることがわかります。


Yale Center for Emotional Intelligenceが1000人以上の労働者を対象に行った調査では、20%が「仕事に没頭している」と「バーンアウトシンドロームである」の両方を同時に報告しており、仕事にのめり込むこと、つまりは過剰な努力を続けることへの危険性を指摘しています。

また、「仕事に没頭して疲れ果てた人」は、仕事に情熱を抱えていたものの、同時に高いレベルのストレスやフラストレーションも抱えていたとも報告しています。つまり「仕事に没頭する人」は「仕事を辞めるリスクが最も高い従業員」になる可能性が高くなることも意味します。つまり、企業が有能な従業員を失うのは「従業員の努力の欠如」が理由ではなく、「努力のし過ぎによるバーンアウトシンドローム」が理由である可能性を、一連の調査は示唆しているとのこと。

そこで重要になってくるのが、「100%の完璧を求めるのではなく、85%正しい決定を受け入れる」という85%ルールです。完璧主義者には「自分自身にも他人に対しても高い基準を持つタイプ」と「自分の失敗を常に不安に思い、完璧に達成しなければ他人の評価が下がると考えてしまうタイプ」の2種類が存在します。85%ルールを求めることで、完璧主義者からの不必要なプレッシャーながくなり、100%正しい意思決定を待ってから行動を起こす必要がなくなり、チームを前進させやすくなるとのこと。


85%ルールを採用する上で重要になってくる要素のひとつが、「高圧的な言葉遣い」です。チームとコミュニケーションを取る際に、「できるだけ早く」や「緊急」などの高圧的な用語を使用すると、チームメンバーに過度のストレスやプレッシャーを与えてしまう可能性があります。

また、長時間の会議は参加者の集中力を低下させ、ストレスを与えることにつながります。そのため、会議を予定よりも10分早く終わらせたり、会議の合間に短い休憩をとったりすることで、ストレスの蓄積や集中力の低下を防ぐことが可能です。


チームのマネジメントを行う場合、85%ルールを意識して「常にストレスで頭が真っ白にならなくても大丈夫」ということをチームに明示することも重要です。特に、「深夜や週末に仕事をしてはいけないと言いながら、日曜日の午前2時にメールを送るようなマネジャーにはなってはいけない」と指摘されています。

この85%ルールについて、作家のグレッグ・マキューン氏は「85%ルールは直感に反するもののように思えるかもしれませんが、バーンアウトシンドロームが流行する現代では重要です」と述べています。

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in サイエンス, Posted by logu_ii

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