AI学習データの開示を義務づける法案がEUで提出される
AIの学習データ開示を企業に義務づける法案がEUで提出され、成立に向けて一歩前進したことが明らかになりました。
EU proposes new copyright rules for generative AI | Reuters
https://www.reuters.com/technology/eu-lawmakers-committee-reaches-deal-artificial-intelligence-act-2023-04-27/
Europe to ChatGPT: Disclose Your Sources - WSJ
https://www.wsj.com/amp/articles/europe-to-chatgpt-disclose-your-sources-863ef330
新しい法案によると、文章生成AIのChatGPTや画像生成AIのStable Diffusion、Midjourneyなどを展開している企業に対し、システムの開発に使用した学習データをまとめ、データの詳細を開示する義務が課せられるとのこと。
AIは世間にあふれる何十億もの文章、画像、動画を学習することで高精度なコンテンツを生み出せているのですが、学習に使われたデータの中に著作権で保護されたコンテンツが含まれている可能性があることもたびたび指摘されています。
EUはこうした状況を鑑み、2021年に起草されたAI法案に学習データの開示を義務づける条項を盛り込みました。この法案が2023年4月に入り改めて検討され、成立に向けて次の段階へ進むことが決まりました。
この法案が可決されると、自分たちのコンテンツがどの程度学習されたのかを把握したいクリエイターにとって追い風になります。著作権で保護されたコンテンツが学習されたことが分かった場合、著作者が利益の分配を求めたり、訴訟を起こしたりできるようになる可能性もあります。
一般データ保護規則(GDPR)の下で企業のデータ収集が厳しく規制されているEUでは、イタリアがChatGPTの利用を禁止し、ドイツやフランスがイタリアに追随する動きを見せています。
GDPRの下では、技術系企業が個人のデータを使って製品を訓練する際はユーザーの同意を得なければなりません。また、EUで事業を展開する企業は、データの収集と共有をEUの人々が拒否できるよう選択肢を与える必要があります。
ChatGPTを禁止したイタリアのデータ保護機関は、開発元のOpenAIに対し、2023年4月30日までにイタリア及びEUの法律を順守するよう求めています。しかし、AIの専門家は「OpenAIのモデルはインターネットからかき集めた大量の情報を元にトレーニングされているため、開発者でさえ、どのようなデータが収集されているかを正確に把握することはできないだろう」と指摘。OpenAIが要求に応えるのは不可能に近いと述べています。
ユーザーの同意なしに訓練した可能性のあるChatGPTの「OpenAI」が厳格なプライバシー法を重視するEUで法的な問題に直面、「規則の準拠は不可能に近い」と専門家 - GIGAZINE
新しい法案では、ChatGPTを含むすべての生成AIを管理する組織が規制の対象となるため、こうした組織はAIの運用について高い透明性を確保する必要があります。
ロイターによると、一部の委員会メンバーは当初、著作権で保護されたコンテンツを学習に使用することを完全に禁止することを提案しましたが、これは透明性の要件が支持されたために断念されたとのこと。欧州議会の副議長であるスヴェンジャ・ハーン氏は、「議会は、AIを比例的に規制し、市民の権利を守るとともに、イノベーションを促進して経済を活性化するための確固たる妥協点を見つけました」と述べました。
・関連記事
画像生成AI「Stable Diffusion」と「Midjourney」に対して集団訴訟が提起される - GIGAZINE
「AI開発で企業は学会よりも先行」「AIは環境を助けると同時に害も」「世界最高の新人科学者はAI」「AIの悪用に関するインシデントの数は急速に増加」などAIの実態をレポートする「AI Index Report 2023」をスタンフォード大学が公開 - GIGAZINE
AI規制として「責任ある使用」を求める一方で技術革新を阻害する「強引な法律」の導入は避ける方針を明記した人工知能業界向けのAI白書をイギリス政府が発行 - GIGAZINE
「AIのトレーニングに楽曲が使用されるのを阻止してほしい」とユニバーサルミュージックグループがSpotifyやApple Musicに要求 - GIGAZINE
「AIは特許申請時の発明者として認められない」という判断をアメリカの最高裁判所が下す - GIGAZINE
ジェネレーティブAIの「Adobe Firefly」では「マリオ」「ピカチュウ」などの著作権で保護されたコンテンツが回避されるというのがよく分かる「Midjourney」との比較画像 - GIGAZINE
・関連コンテンツ