インタビュー

アニメ『TRIGUN STAMPEDE』について原作・内藤泰弘さんと武藤健司監督にインタビュー、『トライガン』を「ブーストしてリファインして濃縮したうえで還元しない」


内藤泰弘さんの漫画を原作としたアニメ『TRIGUN STAMPEDE』が2023年1月から絶賛放送中です。原作の連載は1995年から2007年で、1998年に1度アニメ化された作品が、原作者の内藤さんですら「ボーナストラックにしてはデカすぎる」と語ったこの新作はいかにして作られることになったのか、作品のこと以外で気になったことも含めて、内藤さんと武藤健司監督にお話をうかがってきました。

アニメ『TRIGUN STAMPEDE』
https://trigun-anime.com/

盛り上がりに合わせて、以下のクライマックスビジュアルが公開されています。


GIGAZINE(以下、G):
本日はよろしくお願いします。内藤さんに関してはネット含めてインタビューをたくさん受けておられて、もはや新たに聞くことはないのではないかというぐらい充実しているので、今回は「なんて重箱の隅をつつくんだ」というような質問になっている部分があるかもしれませんが、ご了承ください。

原作者・内藤泰弘さん(以下、内藤):
はい、よろしくお願いします。

G:
そして武藤監督なのですが、いろいろ探してもインタビューが見当たらなかったため、キャリアなどのわりと基本的な事項についても質問させていただくことになると思います。

内藤:
ないんですか?

武藤健司監督(以下、武藤):
こういった形のネット記事のインタビューは初だと思います。

G:
実はどこかに載っていて見つけられなかったのではなくてよかったです。では、よろしくお願いします。まずは内藤さんに、最初はちょっと作品から離れた話をうかがうのですが、「ジャンプSQ.若手作家が聞く『マンガの極意!』」というインタビュー企画で、川崎宙さんからの「『トライガン』シリーズは続きもののストーリーでした。現在の『血界戦線』を読切形式にした理由はありますか?」との質問に「物語を毎回ゼロベースでセッティングできる作品を描きたかったからです」と答えておられます。そのあと、「最初から結末まで描くと『漫画力』が上がると思っています」と続くのですが、どういったものを「漫画力」だと考えておられるのでしょうか。

内藤:
「漫画力」とは、要するに「安定して面白いものを作り続ける力」ですね。より完成度が高く、より面白いものが難なく描ける人間になりたいと思っておりましたし、今も思っています。

G:
『トライガン』は連載当時に読んでいて、安定して面白い作品だなと思っていたのですが、描いている側としては安定しているイメージはなかったということでしょうか。

内藤:
あれはもう、生きるか死ぬかみたいな作品との取っ組み合いでした。自分で物語をコントロールしきれているかどうかギリギリのところで格闘していたという印象が強くて、後半になればなるほど、「12年ぐらいやってきたことが、ここでコケたら全部無駄になってしまう」という強迫観念も襲ってきて……。一気になだれ込んでいったという感じなので、制御できていたという実感はないですね。

G:
なぜそのような思いに襲われるようになったのですか?

内藤:
やはり、12年間もやっていた連載というのは、描いていたその間の人生すべてですからね。それが「最悪の最終回だった」となってしまったら、作品自体、失敗作を12年もやっていたんだなとなってしまう恐怖です。これは、多くの連載作家が思うことなんじゃないでしょうか。

G:
なるほど、確かにそういった話は他の方からもうかがったことがあります。そういったプレッシャーは、どのあたりを描いているときに生まれてきたのですか?

内藤:
どうだっただろう……細かくは記憶にないですけれど、6巻ぐらいで「よし、終わりに向けて走りだそう」となって、そこから14巻までかかっているんですよね。一回、ウルフウッドの顛末で「ここはコケるわけにはいかない」、ウルフウッドは最大の力で送り出すんだという気持ちでいたのがあったので、あのあたりから常に追い込まれるような感じだったかもしれません。

G:
そうだったんですね……。同じインタビューで内藤さんがデジタル作画を開始した時期について「『トライガン・マキシマム』の終わり位から。カラーの塗りはもっと古くてトライガンの第一話の最初の数ページを除いてほぼ全て」と答えておられました。


G:
ファーストMacが1991年発売の「Macintosh Quadra 700」ということなので、かなり早いタイミングで導入されているのですが、なぜこんなに導入が早かったのですか?

内藤:
「やれる環境になったから」でしたね。当時、Macを使いたいなと思っていたら、だんだんと環境が整っていって、デジタルで出力できるようになったんです。それで……純粋に楽しかったんだと思います、Macで色を塗るのが(笑) パソコン仕事になると途端に集中できるということもあって、デジタルで塗り続けるようになりました。それでも、線画については、ペンの線をPCで描くというのはまだちょっとできない状態でした。ソフトがそこまでできあがっていなかったんです。

G:
ああー、なるほど。

内藤:
なので、最初のうち、線画はアナログで描いたものをスキャニングして、色を塗るという形でした。白黒でもコンピューターのモニター画面等に利用したり。そのあと、ペンの筆跡を高精度で再現できるソフトが出てきて、「これは漫画本編にも使えるな。変えても違和感なく行けそう」ということで、一気にフルデジタルに切り替えました。でもトライガンの連載があと1話か2話で終わるというタイミングで移行したのはさすがにどうかしていたと思います(笑)

G:
すごい(笑)

内藤:
最後まで描いてからゆっくりやれよと思うんですけど(笑)、でもどうにも面白くなっちゃって、やっちゃったんですね。

G:
今はどういった環境で描いているんですか?

内藤:
CLIP STUDIOというソフトを使っていて、Windowsに移りました。アシスタントさんはまだ全部リモートにはなっていないので仕事場に来てくれていますが、人数分PCを用意しています。

G:
PCは自分で組んだりするのですか?

内藤:
いやいやいや(笑)、BTOショップで、グラフィックに強いボードが積んであるやつを「これなら大丈夫かな?」と詳しいスタッフと相談しつつ導入しています。自分で組んだことはないですね。

G:
続いて武藤監督。調べると、デザイン情報サイト[JDN]に掲載された『宝石の国』関連のインタビューで、オレンジ和氣プロデューサーが「3、6、10話の絵コンテ、演出をしている武藤健司さんも元は漫画家のアシスタント経験があり、MVやCMなどのショートフィルム出身で、5年前から商業アニメを手がけています」と言及していました。これが武藤監督のことですよね?

武藤:
そうです。よくそんな情報を……まったく知りませんでした(笑) そうなんです、僕は高校時代「週刊少年ジャンプ」の新人賞から作品作りがスタートしていて、そこから映像の世界に入って、ショートフィルムの方へ行ったんですけれど、そこで当時マッドハウスのプロデューサーだった丸山正雄さん(現MAPPA代表取締役会長・スタジオM2代表取締役社長)にパーティーで声をかけていただいて、商業アニメのほうで演出デビューするという。

丸山正雄さんには以下のインタビューで話を詳しくうかがっています。

「アニメ版牙狼は50年のアニメ人生で一番やりたかった作品」、丸山正雄さんインタビュー - GIGAZINE


内藤:
ジャンプのときはアシスタントとかやっていたんすか?

武藤:
アイシールド21』のアシスタントをしていました。まだアニメ化する前で、六畳一間の仕事場に通っていました。まもり姉ちゃんみたいに、作家先生のお姉さんが料理を作りに来てくれて。


内藤:
ええー、知らなかった!急に人となりが伝わってきた!(笑)

武藤:
そのときの担当編集が浅田貴典さんで。

内藤:
えっ、浅田さん、アイシールドやってたの?

武藤:
はい、立ち上げを。

内藤:
浅田さんって、『血界戦線』の初代担当で僕をジャンプSQ.に引っ張ってくれた人なんです。それが当時、アイシールドを担当していたなんて。

G:
いやー、なんというつながり(笑)

武藤:
浅田さんが「ジャンプSQ.」立ち上げに合わせて出世しちゃって、担当が変わるというタイミングで僕はショートフィルムの方へ移ったという形です。

G:
それは、なぜショートフィルムを選ばれたのですか?

内藤:
ショートフィルムって、実写?

武藤:
いえ、アニメーションです。学生時代、映像ゼミに所属していて、普通に就職のタイミングだったというのもあります。ミュージックビデオを作ったり、ショートフィルムのフェス的なものに出したり。

内藤:
それは商売としてやっていたんですか?アマチュア的な活動?

武藤:
なんていうんですかね……あの世界は垣根があやふやで(笑)

(一同笑)

武藤:
NHKは子ども向けの番組がいっぱいあるんですけれど、その映像とかもやっていました。

G:
『みんなのうた』とか、多いですよね。

武藤:
そうですね、子ども向け番組を中心にカワイイ系のアニメーションを作ってました(笑)

G:
調べると、2009年の文化庁メディア芸術祭の審査委員会推薦作品で『虫歯鉄道 -Cavity Express-』というのが武藤さんの作品だと。


武藤:
はい、東京都から助成金が出るというので応募をして、2000万円だったか3000万円だったかもらえたので、それを使って作った作品です。その関連のパーティー会場で、丸山さんにつながるんです。

G:
そういうつながりなんですね。

内藤:
すげー、丸山さんすげー。丸山さんって、最初にマッドハウスで『トライガン』をアニメ化したときの社長で、当時から「あの深夜アニメの第何話にこういうのがあって、この作品にはその監督が合うんじゃないか」ぐらいまで様々な作品を押さえられていて「すごっ!」って思った人なんですよ。「なんでそこまで見てるんですか?」みたいな。


内藤:
それだけでもヤバいのに、ショートフィルムのパーティーで武藤さんに声をかけたって…改めて改めて、恐ろしい人だなと思いました(笑)

武藤:
声をかけてもらったというよりかは、文化庁の予算で作っていたので、その予算枠のプロデューサーみたいな方がいて、パーティーで後ろについて回ってあいさつしていたら、その中の一人が丸山さんだったという感じです。

G:
おおー、なるほど。

内藤:
そういうつながりだったんだ……。これは貴重なインタビューですよ……。

G:
そこからオレンジで作品を作るようになったのは、どういった経緯なのでしょうか?

武藤:
そのあとで、今のプロデューサーの和氣さんを紹介されたんです。僕は細田守さんのフィルムが好きだったので、「『サマーウォーズ』の助監督をやりたい」と言っていたんですがタイミングが合わなくて。


武藤:
それで、丸山さんがMAPPAを立ち上げた後、和氣さんとMVを作る仕事を丸山さんプロデュースでやりまして。

内藤:
それはどんなMVなのか言えるやつですか?

武藤:
T-ARAの楽曲ですね。「TARGET」って曲です。

T-ARA - 「TARGET」Music Video - YouTube


内藤:
あー、あれかー。

武藤:
その後、『はじめの一歩 Rising』のオープニングとエンディングはどう?と誘われて、また和氣さんと一緒にやらせていただいて。


内藤:
そのときはまだオレンジじゃない?

武藤:
MAPPAでした。丸山さんに「そこそこ使えるな」と思っていただいたのか(笑)、西村監督に引き合わせてもらって、『はじめの一歩』で演出の第一歩を踏み出しました。……演出じゃなくて、あのときは演出助手をと言われたんだったかな?

内藤:
演出助手というと、具体的にはどんな感じで?

武藤:
「戦後編」という番外編がありまして。手帳を渡されて「自分で作画さんを集めろ」と。それで電話をかけまくって、作画さんを口説いていくというのを2カ月ぐらいやりました。

内藤:
それって制作進行さんの役割じゃない?

武藤:
当時、現場が大変で(笑) それで、演出助手だった僕がタイムシートを見るようになったんですが、商業アニメ出身じゃないからシートの読み方を知らなかったんです。

G:
確かに、言われてみればそうですね。

武藤:
それで、西村監督がシートの読み方とかレイアウト指示のやり方を教えてくれて、なんとかこなしながら戦後編の第23話、それこそ「ウルフウッドみたいにやるんだよ!」って言われました。

(一同笑)

武藤:
大阪弁のキャラクターで猫田というのが出てくるんですが、その青年時代のデザインがウルフウッドと似ていて。その猫田がパンチドランカーになってしまうエピソードでした。それで演出デビューでした。

『TRIGUN STAMPEDE』のニコラス・D・ウルフウッド


G:
経歴、すさまじいですね……。

武藤:
意外とドラマチックです。その後、丸山さんの企画を何本かやらせていただいて、プロジェクトが終わった段階で丸山さんがMAPPAの社長を辞めるというタイミングがあって。

内藤:
M2立ち上げの?

武藤:
M2っていう新しい会社を立ち上げると。ちょうど次のステップに行く段階で、和氣さんがスタジオ地図からオレンジに行くと。『宝石の国』をフル3Dで企画しているということで、いろいろ悩みもあったんですけれど、オレンジに移籍することになりました。なので、修行期間は4年ちょっとという感じでしょうか。

G:
おお~、波瀾万丈ですね(笑)

内藤:
『宝石の国』で武井さんと会ったんですか?(※本作のプロデューサーである東宝・武井克弘さん)

武藤:
『宝石の国』を和氣さんと武井さんがやっていて、3話、6話、10話をやらせていただきました。武井さんはいろいろと僕が暴れているのを楽しんでくれて(笑)

G:
暴れる(笑)

武藤:
「暴れる」というのはなんというか、和氣さんもそうだと思うんですけれど、プロデューサーって何種類かいるような気がしていて。素直に言うことを聞く人をありがたがるタイプと、破壊者みたいなのを面白がるタイプがいるんじゃないかと。

G:
武藤監督は後者だった?

武藤:
後者だったのかもしれないです(笑) そういういきさつで『宝石の国』を無事に終えることができて、その後、武井さんの別プロジェクトの絵コンテとかをやったあと、この企画に入っていったという感じです。

G:
この『TRIGUN STAMPEDE』の話を武藤監督が聞いたのはいつごろだったんですか?

武藤:
……5年ぐらい前?

内藤:
僕は初手から武藤監督で行きたいと聞いていて、それが2018年だったと思います。一番最初は武藤監督はいらっしゃらなくて、『血界戦線』の上映イベントがあったとき、武井さんと、和氣さんと、『血界戦線』のプロデューサーだった岡村さんと4人で話をした気がするんだよなぁ。そのときはすでに「監督は武藤さんで考えています、才能あります」と。

G:
おお、「才能あります」と。

内藤:
岡村さんも断言してましたよ。だからもう5年ぐらい。すごく長いです。びっくりですよね。

G:
『トライガン』はテレビアニメ化、さらに劇場アニメ化があって、かなり時間をおいて本作と来ています。今回のアニメ化の話を最初に聞いたときの印象はどうでしたか?

内藤:
ボーナストラックにしてはデカすぎるな、と。

(一同笑)

内藤:
僕の中では『トライガン』はやりきったなぁという思いがあって、更に次作の『血界戦線』もこんな質のいいアニメにしてもらって、こらもう人生エンドロールだわと。心の中では白い文字が下から上にガーッて上がってて、「あとは余生を過ごすだけだな」と思っていたら急に暗転して、部屋の隅にアイパッチ着けた黒人が待ってて「S.H.I.E.L.Dに入らないか」と言われて「は、はい」って。そういうのをいきなり差し込まれた感じで「え……なに……?」って。

(一同笑)

内藤:
「リブート企画をやりたいんですけど」と言われて、なんだか大変なことになったなと。本当に、そういう印象です。包み隠さずそんな気持ちでした。そのときは「じゃあチャレンジですね」と。「CGアニメ、大丈夫ですか?」と聞かれたので「今かなり進化してるから面白いですね」なんて話をしました。「やります」という話になってから、どんなペースでいつやるかは全然決まらないまま、ひたすらプリプロを積み上げていく作業が始まったんです。監督と話し合って「トライガンってどんな話?」から始めていって、人の力を借りて積んでいく作業が延々と。

G:
おぉ……。

内藤:
「大丈夫なのか?」って。実は僕は、半分くらいの確率でこの企画頓挫するだろうなって思ってたんですよ。こんな結果に結びつかないことを、いつまでも続けられるわけがないと。それぐらいに先の見えないデッカい話でした。

G:
最初に発表されたビジュアルが、墜落した船をヴァッシュが見下ろしている絵でしたが、そういうものも最初から積み上げていたものの1つだったんですね。


内藤:
そうです。最初は毎回、僕と監督と武井さんと和氣さんでお会いするたび、クリアファイルにどっさりとああいうものが入っていて。表に出ていないキャラクターを含むコンセプトアートとか、SF設定とか、それこそハリウッドレベルでやっている人のものが届いて、文字設定もみっちりと詰まっていて……。設定の掘り下げが欲しいと、それを1年、2年とやったので、「どこからお金が出てるの!?」「東宝の体力すごいな!?」って思っていました。

G:
改めて、新たな『トライガン』に向けてのアートを見ての気持ちはどうでしたか?

内藤:
とにかく、かけられている労力のケタがちょっと違うんです。言いようが難しいですが、過去にいろいろな企画にかかわらせていただきましたが、そのどれよりも異常な量の手仕事が毎回ブチ込まれててくる。強い熱意で掘り下げられ、再構築される設定や物語。少なくとも、今、田島光二さんを連れてきてここまで描かせているアニメは他にはないでしょという分量でした。なんだろう……「俺よりもトライガンのことをたくさん考えているな」と思いました(笑) 本当に圧倒されますよ。エグいです。

G:
エグい!

内藤:
その裏打ちが、本当に大きかったです。あれを経てフィルムが成立しているというのは、僕の中では強い信頼の根拠になっています。これなら大丈夫だなと。

G:
武藤監督、なぜそんなにも積み上げをすることになったのでしょうか。

武藤:
……なぜなんでしょう?

内藤:
監督は「トライガンとは何だろう」から入っていましたね。

武藤:
そうですね……プロデューサーの好みの話にもつながるかもしれませんが、表面的にそれっぽく作ることはテクニックでできると思うんです。でも、今回の作品は原作漫画の最終巻付近からの逆算で考えていまして、そこで漫画に向き合うというか、内藤先生本人に向き合うというか、そういうことをしないとヴァッシュ・ザ・スタンピードというキャラクターが難しすぎるなと。


内藤:
難しいすよね……。

武藤:
本当に苦しみつつやらせてもらっています。イデオロギーが他のキャラクターとはだいぶ違ってて、あまり見たことがないキャラクターというか。行動原理が……内藤先生は自然に描いているということなんですけれど。

内藤:
僕からすると難しくはないんです。僕は、僕が苦しんで出した答えが最初のオリジナルだから、「それは違う」と言われても「知るかボケ」と言えちゃうんですが、それを第三者が描くとなった場合に、こんなにやりにくいことはないだろうなと思います。どう捉えたら正解なのかが、すごく難しいですよね。そこに挑戦するためにいろんな話をしましたし、一環として、外堀を埋めていくようなこともしました。

武藤:
まず、内藤先生を理解しないと描けないなと。なので、内藤先生が何を考えているのか、当時、どういう考えでヴァッシュと向き合っていたのか、そういうところから一回内藤先生をトレースするというか……そういう解体作業を頑張っていました。ナイヴズとかウルフウッドとか、そっちが主人公であればどれだけやりやすかったことか……。

(一同笑)

武藤:
僕も何度もPに泣きついて、「こっちを主人公にできないですか」と。

内藤:
本当に、ナイヴズに肩入れしているよなあ(笑)


武藤:
やっぱり、性善説か性悪説みたいなことなのかなって。内藤先生は性善説の方なのかなと思いつつ、僕はもっとひねくれちゃってるなと感じるところもあって……ヴァッシュはすごく難しいです。声優の松岡禎丞さんのアフレコで、第一声を聞いたときに救われた気がしたのを覚えています。

内藤:
オーディションの時に聞いてはいるけれど、実際に声を当ててもらうと、何か「OK」が強烈に出た?

武藤:
出たんだと思います。それで、すごく描きやすくなりました。

内藤:
いやー、めちゃめちゃいい話じゃないですか。

武藤:
なんなんでしょうね?演技しているときの声優さんに限らず、アニメーターも演出さんもみんなそうですけれど、いい質問を投げかけてくれる人ってすごく助かるんです。僕の中でも整理ができるし、ちゃんと言語化しつつ、演技の質を上げられるので。

内藤:
それが第1回のアフレコであったと。

武藤:
すごく思いました。「あっ、こういうことなのか」と。

G:
そういうのがあるんですね……

内藤:
それだけの説得力、納得力があったということですね。

武藤:
そうです。松岡さん本人が思っている以上に、僕の中のなにかが広がったのかもしれません

G:
ここで再び内藤さんにうかがいたいと思います。『S.Flight 内藤泰弘作品集』の発売に合わせて、コミックナタリーにインタビューが掲載されていました。


G:
その中で「サンディと迷いの森の仲間たち」で初めて即売会に参加したエピソードが語られていますが、初参加で500冊刷ったというのは本当なのですか?

内藤:
本当です。

G:
初で500部はかなり多いと思いますが、「500部いける」と思ったのは何か理由があったのでしょうか?

内藤:
えー……そう思ったから。買ってくれるんじゃないかなって(笑) もう、盛りも削りもなく(笑) 理由を聞かれると、そう思ったからですとしか言いようがないんです。

G:
何歳ぐらいのときのエピソードなのでしょうか?

内藤:
20歳ぐらいですね。今考えてもそこまで異常行動だとは思いません(笑)

G:
最初のイベントに持ち込んだ100部は完売したということですが、あっという間でしたか?イベント1日かけてじわじわでしたか?

内藤:
1日かけてでした。1時間残っていたかどうかぐらいですね。

G:
コンスタントに売れ続けたと。

内藤:
そうですそうです。話をしながら手にとって読んでもらって「じゃあ、これください」「ありがとうございまーす」とやるのに100部はちょうどいいですね。すごく人間的に売ることができる数でした。

G:
内藤さんのお父さんに「こんなにお前のマンガが売れるものか!」と言われたという前段がありますが、100部を売り切って報告はしましたか?

内藤:
報告はしなかったんじゃないかな。「別にいいや、特段ドヤることでもないし」と(笑) 僕が漫画家になるということも、漫画を描くということも肯定されていなかったので、そのへんを認めてもらおうというのは全然なくて。

G:
次の質問はもう完全に作品からは離れてしまうのですが、内藤さんは長くTwitterをやっておられて、その中で、椎名高志さんのツイートに返信する形で、平野耕太さんや六道神士さんとコスプレキャバクラに行ったというツイートがあって、なんかすごいエピソードだなと頭に残っているんですが、この突撃エピソードはどのように生まれたんですか?なぜみんなで行くことに?


内藤:
(笑) なんか、コスプレキャバクラというものがあって面白いらしいよという話が出て、編集長の筆谷さんに連れて行ってもらったのかな……いや、違うな。別の友達が付き合っていた彼女のお姉さんが仕事をしていると聞いて、行ってみようということになったんだ。それで、ツイートの通り、話は半笑いでスルーされてしまって。でもヒラコーはすごく話が盛り上がっていて、何でかと聞いてみたら「夏侯惇が大好きな女の子だったんですよ!!」と。全然色っぽい話じゃない(笑)

G:
(笑)

内藤:
出た後、もう1軒、別のコスプレキャバクラに行ったような気がします。でも、それからは行っていないですね。楽しかったけれど、ハマってしまうほどではなく、と。

G:
なるほど。今回、インタビューするにあたって内藤さんがこれまでに受けたインタビューをいろいろと読むと、内藤さんはだいたいの質問に真摯に答えておられるのですが、仕事のことでは口を濁されていたことがあって。2017年9月に「仕事が追い詰まると昔は他の職業に就いた自分の事を妄想しましたが、最近はすっかり老後の事を考える様になりました。」とツイートされていましたが、この、仕事が追い詰まったときというのがかなりきついという感じでしょうか。


内藤:
そうですね……ヤバいですね。時期にもよって、最近は自分のコントロールの仕方がわかってきたんですけれど、以前は転げ回って、頭を抱えて叫んだりもしていました。でも、あんまりそんな話を聞かされるのも嫌じゃないですか。それで回答を避けたんだと思います。

G:
かなり、苦しみを強く感じてしまうタイプなのですね。

内藤:
そうですね、かなり苦しいです。仕事を続けられないんじゃないかって状態が何度もありました。

G:
川崎宙さんとの対談で仕事の話題になったとき「趣味でやってきた人がプロになった場合、特に気を付けるべきことはありますか?」という質問があり、内藤さんは「絵を描く才能以外にも能力が要求されるんです」と答えておられて、必要な能力として、「他人と一緒に仕事ができる協調性があるか、コミュニケーションがしっかりとれるか、締切をきちんと守れるか、体調管理が普通にできるか、ストレスを逃がしてぶっ壊れる前に精神状態を平静に保つテクがあるか…とか」と挙げておられました。

内藤:
このインタビューで言っているのは、もっと手前の基本的なところですね。本当に「ただ上手い」という事だけに特化していて、それ以外はからきしみたいな人は、誰か強力にマネジメントしてくれる人と組まないと、十全な仕事をするのは難しいと、今も思っています。これはまさにそのままの意味です。僕が締め切り直前に追い詰められてしまうのはまた別でして、作品が要求してくる質に自家中毒のように潰されかけるという変な領域の話です。

G:
いろいろな方にも伺ってきたのですが、なにか、締め切りを守るために心がけていることとか、駆使しているテクニックはありますか?

内藤:
いやぁ……ダメだったことも多いですから。いまだにそこは制御しきれていないなと思います。もう、がんばるしかないですね。

G:
締め切りを守る技術について、武藤監督はいかがでしょうか。

武藤:
僕も締め切りは危ない人なので、あまり人のことは言えないですね……。

(一同笑)

武藤:
ただ、先ほど内藤先生がおっしゃったように、一人の力でできることには圧倒的に限界がありますから、それをマネジメントしてくれるプロデューサーやスタッフや制作陣、今回でいえば田島さんを連れてきてくれたりとかも含めて、共同作業というか、チームワークというか……。「結局、僕の力なんて」という思いは常にどこかにあって、弱いながらもがんばらなくちゃなと。

内藤:
アニメの現場は漫画よりも、人に仕事を振れる余地が多いんじゃないですか?

武藤:
ただ、それゆえに「薄く」なるという気もするんです。振ることはできるんですけれど、振っていいのだろうか、と。

内藤:
最悪、「この人がこの瞬間に失踪したとしてもカットは上がる、質はともかくとして」という、そういう底力が現場には備わっている気がします。

武藤:
が……それでよいのか、というところですね。

内藤:
「質の担保のためにはある程度は」という戦いはあるわけですね。

武藤:
それは表情、芝居1つ取っても。「間違ってはいないような気はする、が……」という。すみません、ちょっと話がずれちゃってますけれども、やっぱりいろんな人の支えがあって自分の作品がなんとか世に出るんだということに気がつくことが最近すごく多くて、そう考えると、あんまり自分勝手にするわけにはいかないなというところで、締め切りを守らないといけないという意識につながるのかなという気がしています。

G:
なるほど。今回、『TRIGUN STAMPEDE』をやってみて、ここはうまいことできたぞというところや、ここはピンチだったというところなど、思いつくところはありますか?

武藤:
基本的に、全部ピンチなんです。キャッチフレーズは「全部ピンチ」というぐらい(笑)

G:
全部ピンチ(笑)

武藤:
先ほど『宝石の国』の話が出ましたけれど、幸いにも『宝石の国』で自分の話数を担当し支えてくれたメインスタッフ、付き合いの長い仲間達が集まってます。東宝のプロデューサーも、和氣プロデューサーも、音楽プロデューサーも、チーフデザイナーたちも、メインどころのチーフアニメーターたちも、一時的に他の会社にいた人も含めて戻ってきてくれているんです。それがすごくアツいですね。

内藤:
「武藤組」ですね。それだと質も上がるし、やりやすいと。

武藤:
信頼できますし。

G:
なるほど。そして内藤さんは、久々に動いている『トライガン』を見て、どうでしたか?

内藤:
これはね、「すごくトライガン」だなと。

G:
ああー、「すごくトライガン」。

内藤:
僕の中では、始まりは田島さんのアートからで、積んで積んで積んで積んで、どこまで遠くまでかっ飛ばせるかな、だったんです。ギューッと凝縮して最後、フィルムになって眼前に現れたものは「すごくトライガン」でした。そういうことを一番に思いました。ご覧になってどうでした?

G:
ええ、本当にあれはトライガンだなと納得です。こんなにすさまじいシーンとして見せてくれて、と。


内藤:
このブーストしてリファインして濃縮したうえで還元しないトライガン感。この手触りが最後まで続くのか、さらに進化するのか、とても楽しみですよね……!!

G:
今、隣で監督が……。

武藤:
めっちゃ汗かいてます(笑)

G:
(笑) 本日は長時間、ありがとうございました。

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TVアニメ『TRIGUN STAMPEDE』PV第三弾/#TRIGUN - YouTube


◆「TRIGUN STAMPEDE」作品情報
・スタッフ
原作:内藤泰弘(少年画報社 ヤングキングコミックス刊)
監督:武藤健司
ストーリー原案:オキシタケヒコ
構成・脚本:稲本達郎、岡嶋心、上田よし久
コンセプトアート・キャラクター原案:田島光二
チーフデザイナー:大津直
キャラクターデザイン:渡邊巧大、諸貫哲朗、阿比留隆彦、佐藤秋子、二宮壮史、天野弓彦
メカ・プロップデザイン:片貝文洋、長谷川竹光
セットデザイン:青木智由紀、藤瀬智康、榊枝利行、上條安里
クリーチャーデザイン:山森英司
スペシャルエフェクトデザイン:押山清高
CGチーフディレクター:井野元英二
VFXアートディレクター:山本健介、早川大嗣
色彩設計:橋本賢
美術監督:金子雄司
画面設計:斉藤寛
撮影監督:青木隆 越田竜大
編集:今井大介
リレコーディングミキサー:藤島敬弘
サウンドエディター:勝俣まさとし
音楽:加藤達也
プロデューサー:武井克弘
制作統括・制作プロデューサー:和氣澄賢
制作:オレンジ

オープニング主題歌:Kvi Baba「TOMBI」
エンディング主題歌:Salyu × haruka Nakamura「星のクズ α」

・キャスト
ヴァッシュ・ザ・スタンピード:松岡禎丞
メリル・ストライフ:あんどうさくら
ロベルト・デニーロ:松田賢二
ニコラス・D・ウルフウッド:細谷佳正
ミリオンズ・ナイヴズ:池田純矢
ウィリアム・コンラッド:中尾隆聖
レガート・ブルーサマーズ:内山昂輝
ザジ・ザ・ビースト:TARAKO
ヴァッシュ・ザ・スタンピード(幼少期):黒沢ともよ
ミリオンズ・ナイヴズ(幼少期):花守ゆみり
レム・セイブレム:坂本真綾

・放送情報
テレビ東京系6局ネット:毎週土曜23時~
AT-X:毎週月曜22時~(リピート放送あり)
テレビ和歌山:毎週月曜17時~

・配信情報
毎週土曜23時30分~、各種配信プラットフォームで順次配信中
ABEMA プレミアム・Amazon Prime Video・DMM TV・dアニメストア・dアニメストア ニコニコ支店・dアニメストア for Prime Video・FOD・Hulu・J:COM オンデマンド・milplus・Paravi・TELASA・TELASA(au スマートパスプレミアム)・U-NEXT・アニメ放題・バンダイチャンネル ほか

公式サイト:https://trigun-anime.com/
公式Twitter:@trigun_anime
公式TikTok:https://tiktok.com/@trigun_anime
© 2023 内藤泰弘・少年画報社/「TRIGUN STAMPEDE」製作委員会

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