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アメリカの公共放送団体・NPRがラジオの収録でこだわっている音響の設定とは?


ラジオやテレビに関するニュースメディア・Currentが、アメリカの公共放送を配信する非営利団体・NPRの音響エンジニアリングシニアディレクターであるショーン・フォックス氏に対して、「なぜNPRの配信するラジオの音は他の公共ラジオ局のものよりもクリアで明るい音質なのか」という質問をぶつけています。

A top audio engineer explains NPR’s signature sound - Current
https://current.org/2015/06/a-top-audio-engineer-explains-nprs-signature-sound/

NPRのスタジオの前に座るショーン・フォックス氏


フォックス氏:
NPRのサウンドは非常に多くの要素で構成されています。スタジオ側に焦点を当てると、実は一番シンプルなことなのですが、すべてはマイクから始まります。私たちはスタンダードマイクとしてシンプルなNeumann U87を使用しています。高価なマイクですが、長年使ってきたものです。古いマイクがあることは分かっていましたし、マイクは誰かがよっぽど頑張らない限り壊れないし、新社屋では設備も増えたので、もう少し買い足しました。でも、結局はU87の低音をロールオフしたものを使っています。


Current:
低音をロールオフした?それはどういう意味か説明してもらえますか?

フォックス氏:
もちろんです。Neumann U87をはじめ、ほとんどの高級マイクロホンは背面に2つのスイッチがあります。1つは極性と呼ばれるマイクの指向性切り替えを、もう1つは低音域ロールオフのためのものです。低音がロールオフされると、私の声の低域が聞こえなくなります。マイクそのものが低周波の音を消してしまうのです。

Current:
何Hz以下の周波数を除去するんですか。150Hzや200Hzといった超低周波の話ですよね。

フォックス氏:
本当に低いものだと250Hz以下とかですね。もしスタジオでマイクから聞こえる低音やブーンといった音に不満を感じているのに技術スタッフに何もしてもらえない場合、自分にできることの1つがこのマイクにある低音域ロールオフのスイッチを入れることですね。

スタジオの音響はまったく別の要素なので、スタジオ環境を修正することにリソースを割こうとは思っていません。NPRが低音域ロールオフを行っているのは何十年も前のことですが、リスナーの多くが自動車の運転中や通勤中に放送を聞いているから始めた設定なんです。昔も今も、車や電車の窓を開けると低い音が響きます。私たちは声をクリアでオープンにして聞こえやすくするために、低音部をカットしているのです。


フォックス氏:
さらに今はより多くのコンテンツがiPhoneなどのデジタルオーディオデバイスからヘッドホンで聴かれていますが、外からの低音はヘッドホンを超えて耳に少し届くため、やはり低音域ロールオフの設定を維持することが有益だとわかりました。

そしてもうひとつの要素は、私がマイクに近づくのが好きだということです。ゲストがいる収録だとマイクから1フィート(約30cm)ほど、通常の収録だとマイクから6インチ(約15cm)まで近づくようにしています。

Current:
マイクに近づくと、より低音が響きますよね。なぜあなたの放送ではそれが起きないのでしょうか。

フォックス氏:
低音域ロールオフがここでも機能しているんです。それと、マイクに直接正面から声をぶつけないようにしています。もっと横から話しています。

Current:
口から出てくる空気がマイクに直接入るのではなく、斜めからマイクの側面に向かうようにしているのですか。

フォックス氏:
そうです。私たちはそうしています。

Current:
なるほど。そういえばあなたはNeumann U87を使っていると言いましたね。私の経験上、放送局で最も一般的なスタジオマイクはElectro-Voice RE20でした。


フォックス氏:
そうですね、昔のRE20です。

Current:
RE20は低音でこもってゴワゴワした音になりがちで、個人的な意見を言えば、ラジオ向きではありません。そのため、マイクのロールオフスイッチで低音域をロールオフしたりマイクに近づいたり少し斜めから話しかけたりするようなことも重要ですし、ポップノイズを防ぐためのポップガードも重要ですね。

フォックス氏:
RE20について簡単にフォローをすると、私はRE20の大ファンです。使っている放送局をよく見かけますし、RE20を使っている人がいても私は否定しません。素晴らしいマイクです。コストを抑えたいのであれば、Neumann U87と同等の性能を持つRE20を使うこともあります。しかし、放送局ではRE20の低音域の減衰が問題になることが多いため、RE20を音質フラッットで使っているケースをよく見ます。

私がデトロイトで働いていた頃はRE20を使っていました。NPRでもたまにRE20を使うことがありますが、もっと権威的なサウンドを好むため、低音を響かせるためにマイクの音質をフラットにするそうです。あとで録音を聴くと低音が響いているように思えて、スタジオに駆け付けると、誰かがスイッチを入れ替えていたこともありました。デトロイトではそういうことが起こらないように、すべてのスイッチをエポキシ樹脂で固定していました。


Current:
マイク以外に重要な要素はなんですか。

フォックス氏:
スタジオの構造ですね。私たちは非常に残響の少ないスタジオを使って射て、壁が固くないのが特徴です。外にある報道室の音を消したいのです。スタジオは報道室のほぼ中央に配置されているので、スタジオの話し声以外は何も聞こえないように隔離されています。

Current:
スタジオを外部の騒音から遮断するように防音性能を高めるためには、スタジオ内で話している人の声が部屋の中で反響しないように音を拡散させることも必要です。

フォックス氏:
過去10年間で、スタジオ内でコンピューターの画面をよく見かけるようになりました。マイクのすぐ近くにコンピューターの画面があることもよくあります。距離によってはコンピューターからの電子干渉がノイズとして載ってしまうこともありますし、コンピューターの画面に声が反射してしまう可能性もあります。

Current:
そうですね。コンピューターの画面はなめらかで固く、音を反射しやすいですからね。

フォックス氏:
そのため、私はスタジオに入ってやるのは、「マイクの電源を入れて、入力ボリュームを最大にすること」です。ここで声を出してはいけません。耳が吹き飛んでしまいます。一言もしゃべらず、部屋にあるファンの音に耳を傾けて調節するのです。この時、完全に無音になることはありません。そして、PCがマイクのすぐ隣、あるいは少し近くにある場合は2フィート(約60cm)離れた場所に移動し、キャビネットの下に隠します。


Current:
他にも秘密がありますか?

フォックス氏:
公共ラジオのコミュニティで言えば、私たちは放送局に向かう信号を加工することはせず、可能な限り純粋な信号を配信しています。これは長い間議論されてきたことですが、今のところ私たちは圧縮もしていませんし、スタジオから衛星に乗って放送局に届くまでの信号を変化させることもしていません。600を超える放送局とそのリスナーには、それぞれ異なるニーズがあることを私たちは知っています。ですから、私たちは放送局に最も純粋な音を提供し、放送局が自分たちの市場に合わせて操作できるように努めていますが、成功の度合いはさまざまです。特にニュースキャストユニットでは、圧縮を少し取り入れるという話もあります。まだやっていませんし、今後やるかどうかも分かりませんが、衛星を通じて純粋な信号を放送局に送ることは、おそらくソースの最後の要素になると思います。

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in メモ, Posted by log1i_yk

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