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いかにしてインドは電子決済大国へと変身を遂げたのか?

by Atul Loke for The New York Times

インドでは、2016年に統合決済インターフェース(UPI)が導入されて以来、QRコードをスキャンするだけで支払いができる電子決済システムが急速に普及しています。一体何がインド政府のデジタル金融政策を成功に導き、電子決済がいかにインド人の生活に浸透しているのかについて報告するレポートを、The New York Timesが公開しました。

India Embraces Digital Payments Over Cash, Even for a 10-Cent Chai - The New York Times
https://www.nytimes.com/2023/03/01/business/india-digital-payments-upi.html

レポートによると、電子決済用のQRコードがプリントされた板や紙は今やインドのありとあらゆるところで目にするようになっているとのこと。例えば、道ばたで散髪している床屋の横の木に貼ってあったり、スナック販売用のカートに積まれたローストピーナッツの山から板が突き出ていたり、大道芸をするパフォーマーの前の募金箱に板が立てかけてあったりしています。さらに、往来の車に近づいてお金を求める物乞いでさえ、QRコードを持っているそうです。

by Atul Loke for The New York Times

このQRコードは、インドの商業に革命をもたらした即時決済システムのものです。この国産のデジタルネットワークにより、インドでの事業は飛躍的に容易になり、非正規の経済圏で暮らしていた多くのインド人が正規の経済活動に参加するようになりました。

デジタル公共インフラの提唱者であるナレンドラ・モディ首相は、インドが議長国となった2023年のG20の会合で世界各国の財務大臣たちに向けて、「私たちのデジタル決済エコシステムは、無料の公共財として発展してきました。これによりインドのガバナンス、金融包摂、暮らしやすさは根本的に変わりました」と話しました。

インドのデジタルインフラの根幹には、アーダールと呼ばれる国民識別番号制度があります。前任者であるマンモハン・シン元首相が2009年に始めたこの取り組みは、モディ首相へと引き継がれ、プライバシーへの懸念から何年も取り組みを停滞させていた法的課題を乗り越えて一気に前進しました。

政府の発表によると、2023年時点でインドの成人の99%が生体認証に基づく識別番号を保有しており、これまでに13億件以上のIDが発効されているとのこと。インドのIT大手であるInfosys Technologiesの創業者で、初期からインドのデジタルID制度に携わってきたナンダン・ニレカニ氏は、「インドはまっさらな状態だったからこそ、新たな発展を遂げることができました」と述べて、過去の遺物となる古いデジタルインフラがなかったことが成功の要因であるとの見方を示しました。

by Atul Loke for The New York Times

アーダールにより誰もが簡単に銀行口座を持てるようになったことで、リアルタイム決済システムであるUPIも普及していきました。インド決済公社(NPCI)の発表によると、2023年1月だけで約80億件、金額にすると約2000億ドル(約27兆3250億円)の取引がUPI上で行われたとのこと。決済システムは急激に成長しており、すでに3億人近い個人と5000万件近い加盟店がシステムを活用していると、NPCIは述べています。

電子決済普及の恩恵を最も強く肌で感じているのが、日常生活の中で繰り返し少額決済を行っているインドの一般市民たちです。インドではこれまで現金中心の経済が長く続いていましたが、モディ首相はアングラマネーや偽札撲滅を理由として、2016年に突然高額紙幣の廃止を発表しました。この政策は、現金で成り立っていたビジネスに大きな打撃を与えた一方、一気にキャッシュレス化を進める荒療治にもなりました。

さらに、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが到来すると、政府はID番号を用いてワクチン接種を実施し、経済的困窮者への経済的支援などを行ったため、国民たちの間でデジタルインフラへの信頼感が高まっていきました。また、決済が完了するとすぐにSiriのような音声でいくら入金されたのか教えてくれるわかりやすさも、現金での取引に慣れ親しんだ商人たちの不信感の解消に一役買っているといいます。

by Atul Loke for The New York Times

インドの首都・デリーでオートリキシャのドライバーをしているラジェッシュ・クマール・スリバストバ氏はThe New York Timesに、「前は現金が好きでしたが、2020年に行われた都市封鎖で手持ちの現金が尽きた時、電子決済の便利さに気づいたんです」と話しました。

もちろん、プライバシーへの懸念がなくなったわけではありません。インドの最高裁判所は、2018年にアーダールの使用は合憲であるとの判決を出していますが、「モディ首相による強権的な支配により権力に対するチェック機能が急激に低下し、IDデータベースが悪用されるようになってしまう」と心配する声は根強く残っています。

G20の調整役を務めたアミタブ・カント氏は、「データは個人に帰属しており、個人が行うすべての取引に同意する権利も個人が所有しています」と述べて、政府はプライバシーとイノベーションの間でうまくバランスを取っているとの見方を示しました。

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in ネットサービス, Posted by log1l_ks

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