サイエンス

空気が汚染されているとチェスプレイヤーのミスが増えるという研究結果


大気汚染は人間の健康に対して大きなリスクをもたらしており、精子の減少暴力犯罪の増加などのさまざまな悪影響を及ぼすことが知られています。新たに、オランダ・マーストリヒト大学やアメリカ・マサチューセッツ工科大学(MIT)のチームが発表した論文では、「空気が汚いほどチェスプレイヤーのミスが増える」という結果が報告されました。

Indoor Air Quality and Strategic Decision Making | Management Science
https://doi.org/10.1287/mnsc.2022.4643

Chess players face a tough foe: air pollution | MIT News | Massachusetts Institute of Technology
https://news.mit.edu/2023/chess-players-tough-foe-air-pollution-0130

The Air Around You Affects How You Play Chess, Scientists Find : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/the-air-around-you-affects-how-you-play-chess-scientists-find

Air pollution causes chess players to make more mistakes, study finds | Air pollution | The Guardian
https://www.theguardian.com/environment/2023/feb/02/air-pollution-causes-chess-players-to-make-bigger-mistakes-study-finds

PM2.5(微小粒子状物質)は大気中を浮遊する直径2.5マイクロメートル以下の微粒子のことで、自動車のエンジンや石炭火力発電所、山火事、まきストーブなどの燃焼で排出されます。PM2.5は気道の奥深くまで侵入できるほど小さいため、人体に大きな悪影響を及ぼすとされています。

MITのSustainable Urbanization Lab(持続可能な都市化研究所)で主任研究員を務めるJuan Palacios氏らの研究チームは、2017年~2019年にドイツで開催された3つのチェストーナメントを対象に研究を行いました。研究では、合計121人のチェスプレイヤーが試合で指した3万以上の手についてStockfishというチェスエンジンで評価し、どれほど最適な手に近いのかを測定したとのこと。また、会場内の気温・二酸化炭素濃度・PM2.5濃度をセンサーで測定し、プレイヤーのエラー率と比較したそうです。


分析の結果、チェストーナメントの会場内におけるPM2.5濃度は1立方メートルあたり14~70マイクログラムの範囲であり、多くの都市部の空気に匹敵するほどの濃度であることがわかりました。また、気温・二酸化炭素濃度・騒音といった要因を考慮してもなお、PM2.5濃度の上昇がプレイヤーのエラー率上昇に関連していることも判明しました。

研究チームによると、1立方メートルあたりのPM2.5濃度が10マイクログラム上昇すると、プレイヤーがミスを犯す確率は2.1%ポイント上昇し、最適な手からの乖離(かいり)も10.8%上昇したとのことです。Palacious氏は、「個人がより高いレベルの大気汚染にさらされると、より多く、より大きな間違いを犯すことがわかりました」と述べています。


また、PM2.5濃度の上昇によるエラー率の上昇は、プレイヤーが時間に追われるほど悪化することも指摘されています。トーナメントのルールでは、プレイヤーは110分以内に約40回の手を指す必要がありました。試合の終盤である31手~40手目にさしかかると、1立方メートルあたりのPM2.5濃度が10マイクログラム上昇した場合のエラー率が3.2%ポイント増加し、最適手からの乖離も17.3%悪化したと報告されています。

Palacious氏は、「大気汚染によるミスが、特にプレイヤーが時間的プレッシャーに直面した段階で多く発生するのは興味深いことです」と述べ、認知能力の低下を補うために熟考する時間的余裕がないことが、試合終盤でのエラー率増加に関連している可能性があると示唆しました。


インターネットチェスフォーラムであるChess.comの広報担当を務めるLeon Watson氏によると、プロのチェスプレイヤーはすでに空気の質を監視しているとのこと。Watson氏は日刊紙のThe Guardianに対し、「チェスにおいては認知能力が非常に重要であり、すでにマグヌス・カールセンアニッシュ・ギリなどのトッププレイヤーは、空気の質がいかに重要であるかを理解しています」と述べています。

Palacious氏は、今回の研究ではチェスプレイヤーに焦点を当てたものの、PM2.5が他の状況でも同様に認知能力へ害を及ぼす場合、影響する範囲ははるかに広くなると指摘。「大気汚染が損失をもたらすことを示す論文はどんどん増えており、より多くの人々に損失をもたらしているのです」と述べました。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
チェス界に現れたサイコなネコ型ボット「ミトン」がチェスプレイヤーを苦しめている - GIGAZINE

AIが匿名のチェスプレーヤーの正体を特定してプライバシーリスクをもたらす可能性 - GIGAZINE

チェスのグランドマスターであるヒカル・ナカムラがストリーミングで得たものとは? - GIGAZINE

「チェスのAIチートに使える大人のおもちゃ」の作り方ガイドが公開される、動作を検証するムービーも - GIGAZINE

人間がコンピューターに勝てなくなってもチェスの人気は衰えていない - GIGAZINE

大気汚染は知能を低下させるという研究発表 - GIGAZINE

大気汚染の悪化は暴力犯罪の増加と相関しているとの研究結果 - GIGAZINE

大気汚染により「精子が減少」してしまうことが判明 - GIGAZINE

人間の健康に対する最大の脅威は「ウイルスではない」との主張、最も人間の寿命を縮めているものとは? - GIGAZINE

in サイエンス, Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.