「知的文明を持った宇宙人が発する信号」を検出するためにAIが役立つという研究結果
この宇宙において高度な知的文明を築いているのは地球人だけではなく、地球以外の惑星にも高度な文明を持った宇宙人が存在している可能性は十分にあると考えられており、研究者らは観測データを分析して知的生命体の兆候を探っています。新たにオーストラリア・カーティン大学の国際電波天文学研究センターで主任研究員を務めるダニー・プライス氏らの研究チームは、「宇宙人が発する信号をAIを用いて検出する試み」についての研究結果を発表しました。
A deep-learning search for technosignatures from 820 nearby stars | Nature Astronomy
https://doi.org/10.1038/s41550-022-01872-z
AI is helping us search for intelligent alien life – and we’ve found 8 strange new signals
https://theconversation.com/ai-is-helping-us-search-for-intelligent-alien-life-and-weve-found-8-strange-new-signals-198754
プライス氏は過去数年間でAI分野が飛躍的な進歩を遂げており、画像生成AIのMidjourneyやStable Diffusion、文章生成AIのChatGPTなど、信じられないほどの能力を持ったAIが登場していると指摘。「AIは現在、研究者の日常的な分類タスクを支援するため、ほぼすべての科学分野で使用されています。また、AIは私たちの電波天文学者チームが地球外生命体の探索範囲を広げる上でも役立っており、これまでのところ有望な結果が得られています」と述べています。
地球外知的生命体の兆候を探している電波天文学者らは、天体が発する微弱な電波を観測する電波望遠鏡のデータを利用して、自然の天体物理的プロセスでは生成できない信号(テクノシグネチャー)を検出しています。しかし、電波望遠鏡が生成する膨大なデータには電話やWi-Fi、人工衛星などから発せられる電波干渉が大量に含まれており、テクノシグネチャーの検出は宇宙規模の干し草の山から針を探し出すようなものだとのこと。
この問題を解決するため、カナダ・トロント大学の学生であり論文の筆頭著者であるPeter Ma氏は、AIを用いて迅速にテクノシグネチャーを検出する手法を考案しました。最初のステップでは、Ma氏はシミュレートしたテクノシグネチャーを実際のデータに挿入し、このデータセットを用いてAIがテクノシグネチャーの特徴を識別できるようトレーニングしました。
2番目のステップでは、機械学習アルゴリズムの一種であるランダムフォレスト分類器を使用し、特定の信号が注目に値するものなのか、それとも電波干渉によるものなのかを決定できるようにしたとのこと。
AIアルゴリズムをトレーニングした後、アメリカのグリーンバンク望遠鏡が観測した150テラバイト(480観測時間に相当)以上のデータをAIに入力したところ、AIは2万515件の注目に値する信号を検出しました。この結果は、同じデータセットを用いた以前の分析と比較して、候補となる信号の数を2桁削減するものだそうです。
さらに手作業による分類を行った結果、8件の信号は電波干渉ではなくテクノシグネチャーの特徴を備えていたことが判明しました。しかし、これらの信号を検証するために電波望遠鏡で再観測したものの、追跡観測ではいずれの信号も再観測できなかったとのこと。プライス氏は、「最も可能性の高い説明は、これらの信号は電波干渉の異常な兆候であり、エイリアンではなかったということです」と述べています。
残念ながら電波干渉の問題は根強く存在していますが、天文学者らは電波干渉を軽減するための努力を進めています。南アフリカ共和国の電波望遠鏡「MeerKAT 」は口径13.5mのパラボラアンテナ64台で1つの電波望遠鏡として機能しており、信号が空のどこから飛んで来たものかをより正確に特定することで、電波干渉による誤検知を大幅に軽減できるとのこと。プライス氏らの研究チームは最近、MeerKATに強力な信号プロセッサを配備したそうです。
プライス氏は、「もし、天文学者が電波干渉で説明できないテクノシグネチャーを検出することに成功すれば、人類が銀河系内で唯一のテクノロジーの創造者ではないことを強く示唆するでしょう」「同時に、もし何も検出されなかったとしても、私たちが技術を有する『知的』な唯一の種であるとは限りません。検出されないということは、私たちが適切な種類の信号を探していない、あるいは私たちの望遠鏡が遠くの太陽系外惑星からの微弱な通信を検出できるほど感度が高くないということもあり得ます」と述べています。
なお、プライス氏はAIについて、「AIアルゴリズムは『理解』も『思考』もしません。AIはパターン認識に優れており、分類などのタスクにおいて非常に役立つことが証明されていますが、問題を解決する能力はありません。AIは実行するように訓練された特定のタスクだけを行います」「私たちの研究では、AIを使用して信号を無線干渉または本物のテクノシグネチャー候補のいずれかに分類するアルゴリズムを作成しました。そして、私たちのアルゴリズムは期待していたよりも優れたパフォーマンスを発揮しています」と述べました。
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