結局「牛乳や乳製品」は健康にいいのか悪いのか?
牛乳はタンパク質やカルシウムが豊富なことから健康にいいとされることがある一方、「牛乳を飲む人はがんになりやすい」という研究結果が出ていることから体に悪いとする見方もあります。そんな牛乳や乳製品が健康にいいのかどうかについて、デンマーク・オランダ・イギリスの研究者らが肥満や2型糖尿病、がんなどの発症率の観点から総合的に論じました。
Milk and dairy products: good or bad for human health? An assessment of the totality of scientific evidence - PMC
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5122229/
当時コペンハーゲン大学理学部栄養・運動・スポーツ学部の研究者だったTanja Kongerslev Thorning氏らの研究チームは、2016年11月22日に発表した論文で、それまでに発表されていた114件の文献を元に、肥満・2型糖尿病・心血管疾患・骨粗しょう症・がん・全死因の死亡率と乳製品の摂取の関係を論じました。
・目次
◆:肥満と2型糖尿病
◆:循環器系疾患
◆:骨の健康と骨粗しょう症
◆:がん
◆:全死因死亡率
◆:牛乳と健康に関するFAQ
◆:肥満と2型糖尿病
牛乳や乳製品は、良質なタンパク質の優れた供給源です。また、タンパク質は満腹効果もあるため、エネルギーの過剰な摂取やそれによる体脂肪の蓄積を防ぎ、ダイエットや減量後の体重の維持に役立ちます。
しかし、肥満が原因であることが多い2型糖尿病の研究では、牛乳や乳製品は糖尿病リスクとは全く関係がないか、メリットがあるとしてもごくわずかだということが示されているとのこと。
この結果から研究チームは「牛乳や乳製品を多く含む食事は子どもの肥満リスクを減らし、大人の体組成も改善します。これはおそらく2型糖尿病の発症リスクの低減にも寄与するでしょう。さらに、摂取エネルギーを制限中の乳製品摂取は体重減少を促進しますが、エネルギーバランスの観点から見ると、乳製品の効果は不透明です」と結論付けました。なお、発酵食品であるチーズやヨーグルトについては、2型糖尿病のリスクを減少させるという証拠が増えつつあることも、研究チームは指摘しています。
◆:循環器系疾患
心臓や肺といった循環器系の病気で問題になりやすいのが、血圧やコレステロールです。まず血圧に目を向けると、低脂肪でカルシウムの豊富な乳製品は一般に血圧を下げると考えられていますが、高脂肪な乳製品では関連性が見つかっていません。
また高脂肪乳製品は、動脈硬化の原因となることから「悪玉コレステロール」と呼ばれることがあるLDLコレステロールと、逆に動脈硬化を抑制することから「善玉コレステロール」と呼ばれるHDLコレステロールの両方を増やしてしまうことが知られています。一方、高脂肪乳製品の中でもチーズは飽和脂肪が多いことから予想されるほどには、悪玉コレステロールを増加させないとの研究結果があります。
牛乳や乳製品の摂取量と心血管疾患のリスクを直接分析した研究では、牛乳を1日200ml摂取すると脳卒中リスクが7%低下することや、この効果は欧米よりアジアで特に顕著だったことなどが分かっているほか、乳製品をよく摂取している人は摂取量が少ないか摂取していない人に比べて、心血管疾患のリスクが12%、脳卒中のリスクが13%低かったことなども確かめられました。
こうした点から、比較的最近の研究では「低脂肪乳製品をよく消費することは高血圧と脳卒中のリスク低減と関連している」と結論付けられており、Thorning氏らの研究チームもこれを支持しています。
◆:骨の健康と骨粗しょう症
子どもの骨作りや大人の骨の維持にはタンパク質・カルシウム・リン・マグネシウム・マンガン・亜鉛・ビタミンKとDが必要であるとされており、牛乳や乳製品にはビタミンD以外の全てが豊富に含まれています。特に女性においては、小児期や思春期にミネラル不足だと骨粗しょう症による骨折リスクが著しく高いとされていることから、子どものミネラル不足は「お年寄りになってからの結果を伴う小児疾患」と呼ばれてきました。
ところが、「成人期に牛乳や乳製品の摂取が少ないと骨粗しょう症や骨折のリスクが高い」という仮説は立証されておらず、牛乳や乳製品が骨折などのリスクを和らげるということは裏付けられていません。
こうした議論を踏まえて、研究チームは「目下の所、牛乳や乳製品の摂取は小児期および思春期の骨の健康にはいい影響を与えるものの、成人期の骨の健康や高齢期の骨折リスクについては、限られたエビデンスしかないことが示唆されています」とコメントしました。
◆:がん
乳製品の摂取は一貫して大腸がんや結腸がんのリスク低下と関連しているとされており、これは牛乳に豊富なカルシウムにがんを抑制する効果があるのが理由だと考えられています。また乳がんでは、乳製品を1日400g以上摂取する人は摂取量が少ない人よりもリスクが低いことも示されています。
その一方で、膀胱(ぼうこう)がんでは牛乳の摂取量が多いほど膀胱がんのリスクが低下することを示すメタ分析もあれば、牛乳や乳製品の摂取量との関係はないとする研究もありました。さらに、前立腺がんでは大量摂取によりリスクが3~9%上昇するという研究結果があり、乳製品の効果はがんの種類によってまちまちだと考えられています。
大腸がんとの関係で気になるのが、牛乳を飲むと胃腸の調子が悪くなるなどの症状が出る乳糖不耐症です。これに着目した研究では、乳糖を分解する酵素であるラクターゼを合成する能力を持たない被験者は、そうでない被験者より大腸がんのリスクが増加することが示されました。これは、乳糖不耐症の人はそもそも牛乳を飲まないので、大腸がんを抑制するメリットも得られなかったことを意味していると研究チームは指摘しています。一方、乳糖不耐症の人と前立腺がんのリスクとの間に有意な関連性は見られませんでした。
それ以外の種類のがんでは、乳糖不耐症の被験者は肺がん・乳がん・卵巣がんのリスクが低いことを示した研究がありますが、残念ながらこの研究はライフスタイルや民族などの要因の影響を排除できていないため、乳糖不耐症の人と乳製品との関係を考察する上ではあまり参考にならなかったとのこと。
こうした数々の文献から、研究チームは「牛乳や乳製品の摂取は、おそらく大腸がん・膀胱がん・胃がん・乳がんを予防するとされています。すい臓がん・卵巣がん・肺がんのリスクとは関係がないようですが、前立腺がんのリスクに関するエビデンスは一貫していません。特に女性では、乳製品は重篤な大腸がんのリスクを低減させるほか、おそらく乳がんのリスクも低減させるなど、重要かつ強力な健康メリットが得られます。また男性でも、牛乳により大腸がんを予防できる点は、前立腺がんのリスク増加のデメリットを上回ると判断できるでしょう」と結論しました。
◆:全死因死亡率
あらゆる死亡リスクと牛乳や乳製品との関係を調べた研究では、死亡率が低下するというものもあれば、変化がないとするもの、逆に死亡率が上昇するというものがあり、一貫性はありません。また、このような研究12件をまとめて分析したメタ分析の研究でも、牛乳の摂取と死亡率との間に一貫した関連性はみられませんでした。従って、研究チームは牛乳や乳製品の消費と全死因死亡率との間に関連はないことが確認済みであるとしています。
◆:牛乳と健康に関するFAQ
よくある質問の1つ目は、「一般的な消費者にとって、牛乳や乳製品が多い食事はそうでない食事より、健康にいいのか悪いのか?」というもの。これに対して研究チームは、「乳製品の摂取は、心血管代謝疾患や一部のがんの全体的なリスク低減と関連している一方で、副作用はごくわずかしか報告されていません。従って、乳製品は国民に最も多くみられる慢性疾患を軽減し、社会の医療費を大幅に削減する可能性を持っていると考えられます」と答えました。
また、2つ目の「乳糖不耐症の人ではどうですか?」という質問には、「乳糖不耐症の人でもコップ1杯の牛乳やアイスクリームひとすくい程度なら許容できるほか、チーズには乳糖がごくわずかしか含まれていません。また、ヨーグルトの乳糖も乳酸菌の働きにより効率的に消化されるので、チーズやヨーグルトといった発酵乳製品は乳糖不耐症の人が摂取しても症状が出ません」と述べて、乳糖不耐症の人でも乳製品の種類や量に気を配れば問題ないとの見方を示しました。
そして、最後の「牛乳や乳製品を豆乳のような植物性飲料に置き換えると健康が改善されますか?」という質問には、「牛乳と植物性飲料は栄養的には別物なので、比較はできません。タンパク質が少ない植物性飲料を飲んだ子どもの疾病について報告する研究はありますが、エビデンスに基づく最終的な評価を出すには、さらなる研究が必要でしょう」と回答しました。
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