人間は「牛乳を飲むとお腹を下してしまう」時代から牛乳を愛していたという証拠が見つかる
by Couleur
牛乳が大好物で毎朝のように牛乳を飲んでいるという人がいる一方、「牛乳を飲むとお腹を下してしまう」という人も多いもの。実は、人間が動物の乳を飲んでも大丈夫になったのは比較的最近のことだと判明していますが、新石器時代の遺跡から発見された人骨を調査したところ、「動物の乳に耐性がない時代の人も牛乳由来の食物を摂取していた」ことがわかりました。
New insights into Neolithic milk consumption through proteomic analysis of dental calculus | SpringerLink
https://link.springer.com/article/10.1007/s12520-019-00911-7
Researchers find earliest evidence of milk consumption - News and events, The University of York
https://www.york.ac.uk/news-and-events/news/2019/research/earliest-evidence-milk-consumption/
Found: The Earliest Direct Evidence of Milk Consumption - Gastro Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/when-did-humans-start-drinking-milk
「牛乳を飲むとお腹を下してしまう」という現象は、牛乳に含まれる乳糖(ラクトース)を分解する能力が成長するにつれ低下することが原因で発生し、乳糖不耐症と呼ばれています。乳糖不耐症の人はヨーロッパ人に少なく、アジア人に多いことなどが知られていますが、人間の大人が乳糖を分解する能力は最初から備わっていたのではなく、進化の過程で得られたものだと判明しています。
ほとんどの哺乳類が子どものうちは親の乳を飲んで成長しますが、成長するにつれて乳糖を分解する消化酵素であるラクターゼの活性が失われ、動物の乳を飲めなくなります。一方、一部の人の体内では成体になってもラクターゼの活性が持続しているために動物の乳を飲むことができ、ラクターゼ活性持続症と名付けられています。近年の遺伝子分析により、ヨーロッパにおけるラクターゼ活性持続症は4000年前に出現し、それ以前の人々は動物の乳を飲むとお腹を下してしまう体質だったことが判明しています。
しかし、4000年前よりも昔に使用されていた石器から乳製品の痕跡が検出されたり、もっと早い時代から動物の酪農が行われていた証拠が見つかったりしており、人間が動物の乳に耐性を持ったのが4000年前だという発見は多くの知見に反するものです。そこでイギリス・ヨーク大学の考古学者であるソフィー・チャールトン氏が率いる研究チームは、約6000年前の新石器時代に生きていた人間の人骨を分析し、ほとんど全ての人々が乳糖不耐性だった時代から動物の乳が飲まれていたのかどうかを調べました。
by Engin Akyurt
イギリスにおける新石器時代は紀元前4000年~2400年ごろとみられています。この時期には小麦や大麦といった作物の栽培が始まり、ウシ・ヒツジ・ヤギ・ブタといった家畜が農業に利用されるようになったそうです。考古学者らは当時の遺跡から巨大な記念碑や埋葬地を発見しており、新石器時代の人々は複雑な文化慣習を持っていたと考えられています。
研究チームはイングランド南部のハンブルドン・ヒル、ヘールズトン・ノース、イースト・ミッドランズ(ミッドランド東部)のバンベリー・レーンという3つの遺跡から発見された10人の遺骨を調査しました。遺骨の食習慣を知るため、研究チームは遺骨の歯に付着しているミネラル化した歯垢に着目しました。歯垢の形成時には、その人が食べていた食物のタンパク質が内部に閉じ込められるため、歯垢を分析することで当時の食習慣がわかるとのこと。
分析の結果、10人中7人の歯垢からβ-ラクトグロブリンという、牛乳やヒツジの乳に含まれる乳清タンパク質の一種が発見されました。このタンパク質は人間の母乳には含まれていないため、当時の人々は動物の乳を摂取していたことになります。
また、ハンブルドン・ヒルの遺骨はヤギの乳を飲んでいたことが示唆されている一方、ヘールズトン・ノースの人々はウシやヒツジの乳を飲んでいたと思われるなど、飲まれる動物の乳は複数の種類にわたっていたそうです。
by Snapwire
チャールトン氏は今回の結果を受けて、「3つの異なる新石器時代の遺跡で発見された遺骨から、同様にβ-ラクトグロブリンの痕跡が発見されたことは、乳製品の消費が当時から広まっていたことを示唆しています」とコメント。遺伝学的研究から当時の人々は乳糖不耐性だった可能性が高いと判明しており、遺骨の人物らは非常に少量の乳を飲んでいたか、乳糖が除去されるチーズなどの食品に加工して動物の乳を摂取していたかもしれないとのこと。
今回の研究結果は人々が古くから動物の乳を摂取する文化を持っていたことを示しており、ラクターゼ活性持続症を引き起こした遺伝子変異のメカニズムを解き明かす鍵になるかもしれないそうです。また、チャールトン氏はより多くの遺骨を調べ、動物の乳を摂取した痕跡のある個人の性別や年齢、社会的階層などを分類することも、興味深い結果をもたらす可能性があると述べました。
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