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「Twitterが科学を変えた」と題してNatureが研究と科学コミュニケーションにおけるTwitterの果たした功罪を特集


実生活ではほとんど接点がない学者と一般市民のコミュニケーションツールとして、あるいは陰謀論や疑似科学が拡散されるメディアとして、Twitterは科学にさまざまな影響を及ぼしてきました。そんなTwitterと科学の関係について、科学誌のNatureがまとめました。

Twitter changed science — what happens now it’s in turmoil?
https://doi.org/10.1038/d41586-022-04506-6

Just leave
https://jrhawley.ca/2022/12/10/just-leave

2014年にNatureが行った調査によると、英語圏中心の調査だったのでバイアスがかかっている可能性があるものの、調査に応じた研究者の13%がTwitterを定期的に利用していたとのこと。


Twitterを使っている研究者は割合の上では多くありませんが、Twitterは科学コミュニケーションに大きな影響を与えています。オランダ・ライデン大学の情報科学者であるロドリゴ・コスタス・コメサナ氏の研究では、全ての科学文献の約3分の1がツイートされていました。ツイートされる論文の数は増加傾向にあり、2012年から2018年にかけて倍増していたほか、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが猛威を振るった2021年4月までに発表されたCOVID-19関連の論文のうち、半分が少なくとも1回はTwitterで言及されていました。

ツイートされた論文が必ずしも読まれていたとは限りませんが、多くの科学者は「Twitterは共同研究や新しい発見に不可欠なツールとなっており、研究論文や学会での講演、学術界の幅広い話題に関するリアルタイムな会話の情報源となっている」と考えています。

イギリス・ランカスター大学の言語学者であるヨハン・ウンガー氏は、Twitterのおかげで論文が科学界を駆け巡るのが速くなったと指摘した上で、Twitterを通じてプライベートなメッセージで余計な情報が共有されることがあるとも述べました。また、ツイートの長さの制限のおかげで、学者たちがコメントを簡潔にまとめるようになったとも感じています。

その一方で、マサチューセッツ工科大学の研究チームが2018年に発表したTwitterの研究では、真実のツイートよりフェイクニュースのツイートの方が素早く拡散されることが分かりました。また、フェイクニュースは恐怖や嫌悪などの感情を呼び起こす傾向があったことも突き止められています。

フェイクニュースを拡散するのはTwitterボットではなく普通の人と判明 - GIGAZINE


Twitterが持つ両刃の剣の性質は、パンデミックの時期に一層顕著になりました。まず肯定的な側面として、Twitterでは多くの研究者がCOVID-19に関する専門的な議論を通じて多くのフォロワーを獲得し、同じくパンデミックの解明を急ぐ専門家らとつながることができた点が挙げられます。

ワシントン大学の進化生物学者であるカール・バーグストロム氏は、「Twitterは私たちが研究しているいくつかの分野で迅速な科学的活動を行う上で、実に強力な手段となりました」と述べました。事実、COVID-19のモデル化に挑戦したバーグストロム氏が得た初期の重要な協力者の中には、アイスホッケーの統計学者がいます。Twitterがなければ、生物学者とスポーツ科学者の出会いは難しかったかもしれません。

一方で、パンデミックの中でCOVID-19の研究者たちはしばしば侮辱や罵倒、殺害予告を経験しました。またバーグストロム氏によると、Twitterでは一部の研究者が情報を過度に単純化して危機感をあおるような分析を投稿したり、明らかな偽情報を拡散したりする姿も見られたとのこと。さらに、COVID-19はフィクションだという陰謀論を信じている人など、同じような意見を持つ人がお互いをフォローして固まってしまう現象も発生しました。

総合的に見て、バーグストロム氏は「Twitterのプラス面はマイナス面を上回っている」と考えています。パンデミックのさなか、Twitterはリアルタイムに進行する不確実な出来事に立ち向かう科学についての透明性を一般の人々に提供しました。また、Twitterには科学的ではないメッセージに飛びつく人がいるのも事実ですが、それはTwitterの責任ではないとバーグストロム氏は考えています。

by Kris Tsujikawa

時間と共に、科学者とTwitterの関係が変化してしまったと感じている人もいます。スイスの製薬会社であるRocheに勤める計算生物学のジェームズ・ホーリー氏は、Twitterで大きく分けて2つの変化を経験しました。1つ目は、より多くの科学者がTwitterで議論に参加するようになったことです。

1対1でディスカッションするのと、多くの聴衆に向けてスピーチをするのとは異なるように、Twitterに参加する科学者が増えるにつれて議論のダイナミクスも変化しました。具体的には、これまでなかったような議論が活発化した一方で、ニッチな分野を深掘りするような議論を見つけづらくなり、理解不足な人の意見や誤解への対処に追われるようになりました。

2つ目は、Twitterがどんなコンテンツを表示するのかを決める方法です。知的なコミュニケーションを犠牲にしてエンゲージメントを優先するかのようなTwitterの方針により、議論とは無関係なツイートや広告があふれかえるようになり、玉石混交のツイートの中から貴重な情報を見つけ出すのは次第に難しくなっていきました。

最終的に、ホーリー氏はTwitterを去ることを選択しました。また、Natureの取材に応えたバーグストロム氏も、イーロン・マスクCEOが「私の代名詞(ジェンダーを表明する呼び方のこと)は、訴訟/ファウチです」とツイートして、アメリカのパンデミック対策の陣頭指揮を執ってきたアンソニー・ファウチ氏を中傷したことを受けて、Twitterアカウントをロックしてしまいました。


バーグストロム氏はMastodonで「(気候変動を否定するなど保守的な見解で知られるシンクタンクの)Discovery Instituteの屋根の下で進化生物学を学ぶことはできませんし、自分にとって不都合な結果が出たら科学を否定し、単に聴衆にもてはやされたいだけの荒し右翼が運営するプラットフォームでは、有意義で生産的な科学的コラボレーションはできません」と述べています

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in ネットサービス,   サイエンス, Posted by log1l_ks

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