SWTの主催者が発表した声明文によると、中止の影には任天堂からのライセンス供与の問題があったといいます。
Smash World Tourは2021年にもオンライン形式のトーナメントを非公式で開催していたのですが、その期間中にeスポーツチームの「Panda」が任天堂からトーナメントの公式ライセンスを取得したため、競合するSWTはトーナメントの閉鎖が危ぶまれました。しかし、SWTの予想とは裏腹に任天堂から電話会議を持ちかけられたSWTは、任天堂と一緒に仕事をすることに興味があるかどうか、ライセンス取得を目指したいかどうかを尋ねられたそうです。
任天堂は著作権を侵害するコンテンツに対しては厳しく対応する姿勢を見せていますが、SWTの活動はそのようなものではなく、むしろ任天堂の価値観をうまく表現していると告げられたとのこと。SWTは任天堂の複数の上級チームメンバーと話した結果、任天堂がコミュニティとの関係やポジティブな関わり方をしっかりと見直してくれているだろうと考えたと話しています。
任天堂と前向きな話し合いを終えたSWTは「2021年のチャンピオンシップを自信を持って運営した」と話しましたが、任天堂とコミュニティの歴史を考えると、任天堂の言うことを額面通りに受け取るのはまだ懐疑的だったそう。特に2022年の開催については、任天堂からの要請もあり、2021年のチャンピオンシップで発表するのを控えていました。そのため、SWTは2022年3月の予選開始前にライセンスを取得し、2022年度のトーナメント開催を発表することを目指していたそうです。
3月までの間に任天堂と話し合いを続けたSWTは、任天堂が一貫して透明性を持って質問に答えてくれていると初めて感じたそうです。そのため、2022年のトーナメントの詳細について、世界中の様々な大会主催者と最終確認を行い、これまで以上に自信を持って臨むことができたとのこと。
しかし、大会に向けて前述のPandaからさまざまな妨害工作があったとSWTは話しています。SWTによると、多くの関係者がPandaから「SWTは2022年には開催されない」「もし戻ってきたとしても、発表後すぐに打ち切られるだろう」と告げられていたそうで、これは任天堂との会話とは真っ向から矛盾するものでした。SWTはこの問題を直接任天堂に訴え、妨害工作が行われていること、自由に発言できないことを説明することにしたそう。
それに対する任天堂の答えはSWTに対して非常に同情的で、安心させてくれるものだったとのこと。任天堂は、任天堂のライセンスガイドラインにアクセス可能であること、Pandaは任天堂の代表ではなく、Pandaの言動について話をする必要があることなどを話してくれたそうです。これにより、任天堂が長期的にコミュニティと協力していく姿勢や可能性についても、改めて自信を深めることができたとSWTは話しました。2022年のライセンス申請も同じ時期に、任天堂の予定に最も合うよう協力し、提出したとのこと。
しかしながら、SWTは世界規模であり、Nintendo of Americaが他の任天堂チームと調整しなければならないことから、正式なライセンスを取得するための時間が足りなくなったそうです。それでも、任天堂との他の会議を頼りにSWTは2022年のツアーを推し進めました。その間もPandaは自社トーナメントに参加する関係者はSWTに参加できないようにするという排他的な要項を設けるなど、妨害工作を続けたとのこと。
2022年4月9日に12月のチャンピオンシップイベント向けの新しいライセンス申請書を提出したSWTに残された仕事は、2023年のSWT開催に向けての協議だけでした。しかしながら、この頃から任天堂とのコミュニケーションは劇的に遅くなり、当初7月に予定していたチャンピオンシップの発表は延期を余儀なくされ、最終的にライセンスを得ないまま8月に発表を行うことに。9月に行われた任天堂との話し合いで任天堂はこのプロセスに時間がかかっていることを謝罪したそうですが、話は決着せず、再び話し合いができたのは申請から7カ月近く経った11月だったとのこと。
チャンピオンシップの開催から1カ月を切っていたため、進捗状況を確認したSWTは、「任天堂は多くの意思決定者が関わっており、その中にはコミュニティやSWTとの関係の重要性を懸命に訴えている人たちがいる」と教えてくれたといいます。SWTは任天堂の関係者がPandaによる妨害工作などを把握していないのではと心配し、「他の意思決定者の方々とお会いする機会を設けたい」と改めてお願いしたそうです。
しかし、2022年11月23日に行われた電話会議の中で任天堂は「今後、任天堂はSWTが商業ライセンスのみで活動することを期待しており、今度のチャンピオンシップや2023年の活動にはライセンスを与えないというニュースを伝えるよう要請されている」と伝えてきたそうです。SWTはその理由を尋ねていますが、任天堂からの返答は「具体的な説明はできないので、今後は一般論で話さなければならない」というものだったそう。この時点で任天堂がトーナメントの存続を望んでいないかのように感じられたため、SWTは「ずっと騙されていた」と感じたそうです。
SWTは最後の手段として「2023年はライセンスなしでチャンピオンシップとツアーを継続し、2024年からは任天堂との協力にシフトできないか」とお願いしたところ、「そのような時代はもう終わったのだ」と返されたとのこと。この言葉が決め手となり、SWTはチャンピオンシップの中止に踏み切りました。
また、文書でも「任天堂のIPを使用した商業活動を行うには、認可されたライセンスを確保することが期待されています。検討した結果、SWTは安全衛生ガイドラインに関する期待に応えておらず、社内パートナーガイドラインを順守していないことが判明しました。任天堂は、2022年のSWTチャンピオンシップ、および2023年のSWTの活動に対するライセンスを付与することができません」と告げられたとのこと。
この件を報じたゲーム系メディアのKotakuは任天堂からの声明を得ており、それによると任天堂は「SWTと話し合いを続け、深く検討した結果、残念ながら2023年のイベント開催について合意に至ることはできませんでした。任天堂は、すでに参加を予定していたプレイヤーへの影響を考慮し、2022年のチャンピオンシップイベントを含む残りのイベントの変更および中止は要請しませんでした」と述べ、ライセンス供与については合意に至らなかったもののチャンピオンシップの中止は要請していないと主張しています。
これはSWTの発表とは矛盾していますが、この声明を確認したSWTは「我々はまだ2023年の申請も出しておらず、ライセンス申請は2022年のチャンピオンシップに対するものだけでした。任天堂が『2023年の活動をすべて含む』というのは、私たちも想定していなかった追加事項でした。私たちは何度も、過去数年間と同じように、任天堂との非公式な了解のもとライセンスなしで活動を続けることができるのかと尋ねましたが、『そのような時代は終わった』とはっきり言われました」と任天堂の声明に異を唱えています。
SWTは「私たちはこのような事態に大変なショックを受けており、任天堂の軌跡を考えると、重要で前向きな変化がもたらされることを心から期待していました。任天堂が草の根コミュニティへのアプローチを考え直してくれることを望んでいます。任天堂が大乱闘スマッシュブラザーズのコミュニティやパートナーとの関係をどのように進めているのか、再考していただくようお願いします。私たちはいつでも対話を続け、解決の一助となることを望んでいます」と述べました。