多くのアメリカ人は「太りすぎ」で自分の死体を寄付したくても「要らない」と拒否されてしまう
死後に社会に貢献する方法の1つとして、調査研究や医療従事者の訓練のために体を提供する「献体」があります。しかし、肥満大国のアメリカでは、せっかく故人が献体をする意思を持っていても、太りすぎていて役に立てることができない問題があると、アメリカのニュースメディアのVICEが報告しています。
Most Americans Are Too Fat to Donate their Bodies to Science
https://www.vice.com/en/article/vvjz3d/most-americans-are-too-fat-to-donate-their-bodies-to-science
アメリカでは、金銭で遺体を購入することは違法であるため、大学が医療の研究や教育のために遺体を調達する場合は、一般に「全身提供プログラム」や「科学への体の寄付」と呼ばれる献体制度を利用する必要があります。
しかし、この問題をVICEが取り上げた2017年時点で、既に太り気味もしくは肥満の人が人口に占める割合が3分の2に達していたアメリカでは、太りすぎにより大学が遺体の引き取りを拒否するケースが相次いでいたとのこと。
メリーランド州解剖学委員会で健康および精神衛生部門の責任者を務めるロナルド・ウェイド氏は「病的な肥満の人の多くは、生前はさまざまな汚名を着せられてきました。そして、彼らが最後の最後に浴びせられるのが『誰もあなたの体なんて欲しがりません』という言葉なんです」とコメントしました。
本来は、大学にとって人の遺体は非常に貴重です。なぜなら、外科医志望の学生は死体を使って手術の技能を習得しなければならないし、それ以外の医学部の学生も解剖学の講義で人体の構造を学ぶからです。その重要性について、インディアナ大学医学部の教育担当アソシエイトディレクターであるアーネスト・タラリコ氏は「献体は文字通り何万人、何十万人もの人々を助けます。なぜなら、献体から学ぶ人がいるだけでなく、その人の研究から学ぶ人もたくさんいるからです」と話しています。
しかし、どんな遺体でも歓迎というわけではありません。具体的な条件は、地域ごとに規制されているので細かい違いがありますが、交通事故などで手足を欠損するといった大きな外傷がある場合や感染症で亡くなった場合は、通常はドナーの候補から外されます。これに加えてアメリカで特に問題になっているのが、ボディマス指数(BMI)や体重の制限です。
例えば、インディアナ大学では「体重は200ポンド(約90kg)を超えないこと」という制限がありますが、この基準は教育機関としてはかなり緩い方で、学校によっては「180ポンド(約81kg)」を上限にしているところも多くあります。これに対し、アメリカ疾病予防管理センターが2016年に発表したデータによると、平均的なアメリカ人男性の体重は195.7ポンド(約89kg)でした。つまり、平均的なアメリカ人男性は多くの大学で「太りすぎなので献体を受け付けられません」と言われてしまうことになります。
by Tony Alter
教育機関がこのような基準を設けているのは、あまりにも体が大きな人の遺体を収容できる設備がないという切実な理由によるものです。また、施設内で遺体を運搬するのは学生や研究者なので、重い遺体を運ぶのには事故のリスクが伴うほか、体が分厚い脂肪の層に覆われていると解剖しても臓器にたどり着けないといった問題もあります。
一方で、生前の願いをできるだけ尊重する動きもあります。例えば、メリーランド州では教育機関の代わりに州の保健所が直接献体の対応をするため、肥満を理由に献体を拒否されることは基本的にありません。引き取られた遺体は、できるだけ故人の遺志に応えられるように最善が尽くされるほか、もしどうしても献体に供せなかった場合でも一度引き取った遺体の処理に関する費用は州が負担します。
メリーランド州解剖学委員会のウェイド氏によると、ほとんどの教育機関で拒否されるような遺体にも必要とされる場所があるとのこと。例えば、多くのアメリカ人が太りすぎだということは、救急救命士や外傷外科医が遭遇する患者も太っている可能性が高いため、そうした分野での訓練には適しています。
ウェイド氏は「緊急治療室に運ばれてくる患者は、さまざまな姿や大きさをしています。大柄な人は心停止を起こしやすいですし、転倒でけがをすることもあります。また、気管挿管など痩せ細ったお年寄りの遺体では練習がやりづらいケースもあります」と話しました。
アメリカ人の体形に合わせて、教育現場における献体の対応にも変化が訪れつつあります。インディアナ大学医学部のように、大柄な遺体を載せることができる解剖台を導入している場所もあるほか、医学生が肥満の人に接する機会を設けることにメリットを感じている教育者もいます。ルイジアナ州立大学のスティーブン・ヘイムズフィールド教授は、「肥満の遺体で部屋をいっぱいにしようとは思えませんが、そのような献体が学生にとって有用なこともあると思います。本物に勝るものはありませんから」とコメントしました。
・関連記事
栄養士がヘルシーだと考える食べ物vsアメリカ人がヘルシーだと思い込んでいる食べ物 - GIGAZINE
アメリカ人が太る理由が分かった気がした巨大化した食料品たち - GIGAZINE
「肥満は神経発達症である」と科学者が提唱 - GIGAZINE
「炭水化物や脂質は肥満の直接の原因ではない」という肥満の新理論とは? - GIGAZINE
アメリカ人の死因として多いものはいったい何か - GIGAZINE
これだと太るのは当たり前、20年前と現在のアメリカとの摂取カロリー比較 - GIGAZINE
世界で29%の人が体重過多か肥満であることが判明、国別トップ10はこの国 - GIGAZINE
2008年度版アメリカの肥満人口を表した地図 - GIGAZINE
・関連コンテンツ