なぜ放射性廃棄物を宇宙に捨ててはいけないのか?
放射性廃棄物とは、廃棄される使用済みの放射性物質や放射性物質で汚染されたものです。一般的に放射性廃棄物の取り扱いや処理には注意が求められます。そんな放射性廃棄物を宇宙に投棄したらどうなるのかについて、科学系YouTubeチャンネルのKurzgesagtがアニメーションで解説しています。
Why Don't We Shoot Nuclear Waste Into Space? - YouTube
放射性廃棄物の全体の90%は核施設で使用された道具や手袋などの低レベル放射性廃棄物で、7%は原子炉の炉心に長期間置かれている中レベル放射性廃棄物です。
これらの放射性廃棄物は適切な処理を行うことで安全に廃棄することができます。
一方で残りの3%である使用済み核燃料は高レベル放射性廃棄物とされ、放射線量が高いため取り扱いが容易ではなく、危険なものとされています。
今回はこの高レベル放射性廃棄物を宇宙に投棄することについて解説するとのこと。
現代では世界で稼働中の約440基の原子炉から毎年約11000トンの高レベル放射性廃棄物が排出されています。
1954年からこれまで世界で約40万トンもの高レベル放射性廃棄物を蓄積してきました。
しかし多くの国は将来に後回しにすることでこの問題に対処しているとのこと。
そこで、これらの高レベル放射性廃棄物を宇宙に投棄しようとの考えが生じます。ですが、さまざまな問題も生じるとのこと。
1つ目は高価な打ち上げ費用です。
地球の低軌道に投入するだけでも1キログラムあたり約4000ドルもの費用が発生します。
また、1基の原子炉に相当する高レベル放射性廃棄物を打ち上げるには、年間1億ドルもの費用が必要になり、発電コストが増大するとのこと。
2021年には135機のロケットが打ち上げられました。
これらを再利用し、放射性廃棄物を地球の低軌道に投入したとしても800トン分しか投棄できません。
全ての高レベル放射性廃棄物を打ち上げるには少なくとも14倍ものロケットが必要になるとのこと。
2つ目は技術的な難しさです。
地球の低軌道に高レベル放射性廃棄物を投棄した場合、人工衛星との衝突や、放射性廃棄物が地球に落下する可能性があり、大きな問題とされています。
そのため月やそれ以上に遠くまで放射性廃棄物を運搬する場合、より多数のロケットか巨大なロケットを開発する必要があるとのこと。
また、ランダムな方向に放射性廃棄物を投棄することも悪い考えとされ、たとえ遠方に投棄しても周回軌道を描いて地球に落下する危険性があるとされています。
太陽に向けて放射性廃棄物を投棄することは技術的に難しく、太陽系の外にロケットを打ち上げることの方が簡単だとされています。
ですがそのためにはこれまでに製造されたあらゆるロケットよりも巨大なロケットの開発が必要になるとのこと。
3つ目はロケットの危険性です。
ロケット工学はアポロ計画以来大きく進歩しています。
例えば発がん性のある燃料を液体酸素と水素や灯油の混合物に置き換えています。
また、最新の技術ではロケットを再利用するために着陸させることがあります。
それでも2021年の146回の打ち上げでは11回の打ち上げ失敗があったそう。
このような状況で高レベル放射性廃棄物を搭載したロケットを打ち上げた場合、爆発や空中分解、もしくは墜落の危険性があります。
打ち上げに失敗すると、広範囲にまき散らされた放射性物質により放射能汚染が拡大します。
高レベル放射性廃棄物の処理は現実的な問題ですが、地下深くに埋めたり、一部を再処理して新しい燃料にしたりすることで対処しています。
そのため、放射性廃棄物を宇宙に投棄することは史上最悪のアイデアの一つだとKurzgesagtは述べています。
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