サイエンス

夜勤中の医師は「患者の痛みに対する共感」が鈍って鎮痛薬を処方する可能性が低くなるとの研究結果


「痛み」の管理は現代医療における重要な課題の1つであり、成人が医療機関の受診を決意する主な理由でもあります。ところが、米国科学アカデミー紀要に掲載された論文では、「長時間の夜勤の終わりにさしかかった医師は患者の痛みを低く評価し、鎮痛薬を処方する可能性が低い」という傾向があると報告されました。

Physicians prescribe fewer analgesics during night shifts than day shifts | PNAS
https://doi.org/10.1073/pnas.2200047119

New study finds doctors prescribe fewer paink | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/957137

Sleep deprivation influences physician percep | EurekAlert!
https://www.eurekalert.org/news-releases/957118

Night Shift Changes How Doctors Give Pain Relief, Study Reveals
https://www.sciencealert.com/night-shift-sleep-deprivation-makes-physicians-less-likely-to-prescribe-pain-meds

アメリカでは成人のほぼ60%が「過去3カ月間に肉体的な痛みを感じた」と報告しており、痛みを適切に和らげることは患者の健康と幸福にとって重要です。しかし、鎮痛剤の処方を判断する医師も人間である以上、何らかの外的要因で患者に鎮痛剤を処方する基準が変化することもあり得ます。

そこでイスラエルのヘブライ大学が率いる学際的な研究チームは、「長い夜勤の終わりにさしかかった医師とシフトが始まったばかりの医師で、鎮痛剤の処方に差がでるのか?」という疑問について研究しました。


まず研究チームは、シフトを始めたばかりのイスラエルの常勤医師31人と、26時間の夜勤込みのシフトを終えたばかりの常勤医師36人に対し、「頭痛を訴える女性患者」「腰痛を訴える男性患者」についての臨床的シナリオを読ませました。その後、医師は患者の痛みに関する質問に答えると共に、この患者に鎮痛剤を処方する可能性がどれほどかを回答しました。

実験の結果、1日を始めたばかりの医師と比較して、長い夜勤を終えたばかりの医師は患者の痛みに示す共感度が低いことが判明し、痛みを和らげるために鎮痛剤を処方する可能性も低いことがわかりました。


さらに研究チームは、2013年~2020年にかけてアメリカとイスラエルの病院を受診した、頭痛や腰痛を訴えた患者1万3482人分以上の電子カルテを分析しました。すべてのデータセットにおいて、夜勤中の医師は昼間のシフトと比較して鎮痛剤を処方する可能性が20~30%低く、鎮痛剤の処方量も世界保健機関(WHO)が一般的に推奨する量を下回っていたとのこと。ミズーリ大学医学部の小児科医であるDavid Gozal氏は、夜勤中の医師の鎮痛剤処方量がWHOのガイドラインよりも少ないという事実は、昼間の医師が過剰に処方しているのではなく、夜勤中の医師による鎮痛剤の処方が少ないことを示していると指摘しています。

ヘブライ大学のShoham Choshen-Hillel教授は、「夜勤中の医師は疲れているので、患者の痛みに共感しにくいのです」とコメント。また、同じくヘブライ大学の心理学者であるAnat Perry氏は、「夜勤は、患者の痛みの管理においてこれまで認識されていなかった重要な要因です」「患者に最高のケアを提供しようと努力している医療専門家でさえ、夜勤の影響を受けやすいのです」と述べました。


すでに人種や性別を含むさまざまな要因が鎮痛剤の処方に影響を及ぼしていることがわかっていますが、研究チームはそこに「夜勤」を追加することができると述べています。夜勤による鎮痛剤の処方への影響を軽減するため、より構造化された痛みの管理ガイドラインを整備するべきだと主張しました。

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in サイエンス, Posted by log1h_ik

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