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障害のある人々のウェブサイトでのアクセシビリティ向上をうたうアクセシビリティ・オーバーレイの問題点とは?


ウェブサイトの構造や文字の色、場合によってはソースコードなどをAIにより自動で修正・変更し、読み上げ機能の提供などを行うことでユーザーのアクセシビリティを向上させようとする「アクセシビリティ・オーバーレイ」が近年いくつかのサイトで導入され始めています。しかし、実際には導入することでパフォーマンスが低下したり、導入前のサイトに慣れていたユーザーのアクセシビリティをかえって低下させたりと、さまざまな問題が報告されています。

For Blind Internet Users, the Fix Can Be Worse Than the Flaws - The New York Times
https://www.nytimes.com/2022/07/13/technology/ai-web-accessibility.html

Should I Use An Accessibility Overlay?
https://shouldiuseanaccessibilityoverlay.com/

アクセシビリティ・オーバーレイには画像やボタン、フォームのラベル付けが不十分なことに加え、ページ上の見出しが適切に表示されなかったり、ページの特定の部分を検索したり選択したりできないために、キーボードを使ってウェブページを操作できないといったオーバーレイに関する問題も指摘されています。また、自動化されたツールがページ上のあらゆるテキストを見出しにしてしまい、ユーザーが読みたい部分に簡単にアクセスできないこともあるとのこと。


こうしたツールを提供している企業は十数社にのぼり、中でもAudioEyeとUserWayの2社は上場し、近年の財務諸表では数百万ドル(数億円)の収益が計上されているなど、市場のシェアを拡大しているとのこと。これらの企業は、Hulu、eBay、ユニクロなどの大手企業や、病院、地方自治体などを顧客に持っています。企業の売り込みには、そのサービスが目の不自由な人でもより簡単にインターネットを利用できるようにするだけでなく、企業がサイトをアクセシブルにしなかった場合に起こりうる訴訟に直面しないようにするという安心感が込められていることが多いそうです。

アメリカでは障害のある人がすべての公的機関を利用できるように、各機関が従うべきガイドライン「Americans with Disabilities Act(ADA)コンプライアンス」が制定されており、州および地方政府組織、15人以上の従業員を抱える民間団体、公共の利益のために働く組織(学校や公共交通機関、レストラン、銀行、食料品店など)といった事実上すべての企業および組織に適用されています。

近年このADAコンプライアンスに関する訴訟が増加しており、法的な圧力を受けてアクセシビリティ・オーバーレイの人気が急激に高まっているとのこと。しかし調査会社のデジタル・アクセシビリティ・プロバイダーが収集したデータによると、アクセシビリティ・ウィジェットやオーバーレイを設置しているにもかかわらず、アクセシビリティを巡って訴えられた企業は2021年だけで400社以上あるそうです。


全盲の無線愛好家、パトリック・パデュー氏は、アクセシビリティ・オーバーレイにいくつかの不満を漏らしています。パデュー氏はスクリーンリーダーを使用してウェブサイトに書かれた内容を音声で聞き取り、キーボードを駆使して機器の買い物を楽しんでいたとのことですが、いつも使うサイトがアクセシビリティ・オーバーレイを導入したせいで、購入ボタンや検索ボックスがスクリーンリーダーで読み取れなくなってしまったとのこと。

パデュー氏はアクセシビリティ・オーバーレイについて「私の生活を向上させるものは1つもなく、ウェブサイトを操作するよりも、これらのオーバーレイを回避することに多くの時間を費やしています」と述べました。

2021年には700人以上のアクセシビリティ擁護者とウェブ開発者がこれらのツールの使用をやめるよう組織に呼びかける公開書簡に署名し、「新機能の実用的価値が大きく誇張されている」「オーバーレイ自体にアクセシビリティ上の問題があるおそれがある」と主張。多くの視覚障害者はアクセシビリティ・オーバーレイに頼らず、すでにスクリーンリーダーや他のソフトウェアを使ってインターネットを利用していることも指摘されており、アクセシビリティ・オーバーレイ導入によりむしろアクセシビリティが低下する可能性が懸念されています。

非営利擁護・教育団体であるLightHouse for the Blind and Visually Impairedのブライアン・バシン最高責任者は、アクセシビリティ・オーバーレイの導入が目の見えない従業員の仕事を奪った件について訴訟を起こし、導入企業側の譲歩で和解に至ったとのこと。ただ、バシン氏はアクセシビリティ・オーバーレイの問題を指摘しつつ、ツールによって品質が大きく異なる可能性があることを考慮し、「自動化されたソフトウェアが、視覚障害者のオンライン体験を劇的に向上させるという未来は想像できます。AIがいずれ自動運転車を実現するように、今はまだ混迷していても、いずれ正しく実行されるようになると思います」と意見しました。

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in ネットサービス,   デザイン, Posted by log1p_kr

You can read the machine translated English article What are the problems with accessibility….