ストレスで免疫の老化が加速してしまうことが判明、ストレスの影響を軽減させる方法とは？

ストレスで免疫が低下し、体調が崩れやすくなることはよく知られています。さらに、ストレスと血液中の免疫細胞の割合を調べた新たな研究により、ストレスが多い人は若い免疫細胞が少なく、古くなった免疫細胞が多いことが判明しました。

Social stressors associated with age-related T lymphocyte percentages in older US adults: Evidence from the US Health and Retirement Study | PNAS
https://doi.org/10.1073/pnas.2202780119

Social stress can speed up immune system aging – new research
https://theconversation.com/social-stress-can-speed-up-immune-system-aging-new-research-184905

年を取るにつれて自然に免疫が低下する「免疫老化」と呼ばれる現象は、がんや心血管疾患などの加齢に伴う健康問題や、高齢者のワクチンに対する反応が鈍くなる問題などの一因だと考えられています。

by Maryland GovPics

アメリカ・南カリフォルニア州で老年学を研究しているEric Klopack氏によると、年齢が同じ人でも免疫年齢が違うというケースがしばしば見られるとのこと。そこで、Klopack氏らの研究チームは、50歳以上のアメリカ人を対象とした大規模研究であるHealth and Retirement Study(HRS)のデータを分析する研究を行いました。

HRSは、参加者に対して失業などのライフイベントや、不当な扱いを受けるなどの差別的経験、家族が命にかかわる病気にかかるといったトラウマ、経済的な負担のような慢性的ストレスなど、さまざまなストレス要因について質問する研究です。HRSでは参加者から集めた血液サンプルから、白血球を含むさまざまな免疫細胞の数を計測していて、これほどまで大規模にデータが集まっている例は他にないとのこと。

研究チームが、HRSの参加者5744人を対象に免疫細胞の数とストレス経験の関係について分析したところ、ストレスが多い人は抗原にさらされたことがまだない若い免疫細胞である「ナイーブT細胞」が少ないことが判明。さらに、ストレスが多い人では、抗原と戦う能力を使い果たして炎症の原因になってしまう「後期分化型T細胞」が多いということも分かりました。

この結果について、 Klopack氏は「新しい免疫細胞が少く古い免疫細胞が多いということは、免疫システムが老化していることです」と述べています。

Klopack氏によると、食生活の乱れや運動不足の影響を補正して分析をすると、免疫の老化とストレスとの関連性が弱くなったとのこと。このことは、生活習慣を改善することで、ストレスが免疫に及ぼす影響をある程度相殺できる可能性を示唆しています。

同様に、免疫の老化を加速させてしまうことが知られているサイトメガロウイルスへの感染を考慮した場合でも、ストレスと免疫の老化の関係は薄くなりました。サイトメガロウイルスは、通常は休眠状態なので人体にとってそれほど脅威ではありません。しかし、ストレスによってウイルスが再活性化すると、免疫システムはウイルスを抑制すべくナイーブT細胞を多く投入しなければならなくなるので、これが疲弊した免疫細胞の増加や免疫の老化の原因になってしまうのではないかと、研究者らは考えています。

今回の研究では、ストレスと免疫の老化の間に関係があることが分かったほか、生活習慣の改善やサイトメガロウイルスワクチン開発により老化を軽減させることができる可能性が示されました。ただし、因果関係が完全に立証されたわけではないため、本当にそうなのかを解明するにはさらなる研究が必要とのこと。

Klopack氏の研究チームは目下、HRSのデータをさらに深く分析して、幼少期に経験した逆境などの要因が年を取ってからの免疫老化にどのような影響を及ぼすのかについての調査を進めているとのことです。