サイエンス

カロリー制限は細胞の老化に伴う悪影響を防ぐことが研究によって明らかに


「1日の摂取カロリーを制限することによって長生きできる」ということは古くから知られており、アカゲザルを用いて行われた実験でもカロリー制限を行うことで寿命が長くなることが確かめられています。新たにアメリカと中国の研究チームが行った実験により、「カロリー制限は細胞の老化に伴うさまざまな悪影響を防ぐため、動物が長生きする」ということが判明しました。

Caloric Restriction Reprograms the Single-Cell Transcriptional Landscape of Rattus Norvegicus Aging: Cell
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)30152-5

Eat less, live longer - Salk Institute for Biological Studies
https://www.salk.edu/news-release/eat-less-live-longer/

Caloric restriction study suggests aging could be “reversible” in the future
https://www.inverse.com/mind-body/rat-study-shows-careful-caloric-restriction-could-lead-to-a-longer-life


カロリーを制限することで寿命が延びる現象はミジンコやハエ、ネズミなどの小動物に加え、アカゲザルなどの人間に近い動物でも確かめられていますが、この現象の背後にあるメカニズムについては不明な点が多いそうです。今回の論文で責任著者を務めているJuan Carlos Izpisua Belmonte氏は、「以前からカロリー制限が寿命を延ばすことはわかっていましたが、私たちは新たに単一の細胞レベルでカロリー制限が引き起こす変化について示しました」と述べています。

老化はがん・認知症・糖尿病など、人間が発症する多くの病気に関する最も危険な因子の一つです。動物実験では、カロリー制限がこれらの加齢に伴って増加する疾患に介入する上で効果的な方法であると示されており、人間においてもカロリー制限が効果的なアプローチである期待が高まっているとのこと。

研究チームはラットを「普通の食事を摂るグループ」と「カロリーを30%カットした食事を摂るグループ」の2つに分けて、生後18カ月~27カ月の期間にわたって食事制限を行いました。この生後18カ月~27カ月という期間は、人間に換算するとおよそ50歳~70歳に該当するとのことで、加齢に伴う疾患が増え始める時期におけるカロリー制限の効果について検証されたそうです。


研究チームは食事制限を開始した時点と食事制限が終了した時点で、合計で56匹のラットからそれぞれ40種類の細胞群を分離し、遺伝子の活性レベルや特定の組織内における細胞の全体的な構成などについて分析を行いました。採取された細胞は合計で16万8703個に上ったとのことで、細胞群は脂肪・肝臓・腎臓・大動脈・皮膚・骨髄・脳・筋肉など、さまざまな組織から採取されたとのこと。

分析の結果、通常の食事を摂ったグループで老化に伴って発生したさまざまな変化が、カロリー制限を行ったグループではみられなかったことが判明。カロリー制限を行った生後27カ月のラットは、組織の構成や細胞そのものが、生後18カ月時点のラットとよく似ていたそうです。全体として、通常の食事を摂ったラットでみられた老化に関連した細胞組成の変化のうち57%が、カロリー制限を行ったラットではみられなかったと研究チームは報告しています。

加齢に伴う多くの慢性疾患は、体内で発生する炎症の増加に関連していることがわかっています。通常の食事を摂ったラットでは加齢に伴って、炎症に反応する免疫細胞の数が劇的に増加していました。ところが、カロリー制限を行ったラットでは免疫細胞の数が老化の影響を受けず、脂肪組織における多くの抗炎症遺伝子の発現レベルが若い頃と変わらなかったそうです。


「私たちのアプローチは、カロリー制限が細胞の組成に与える効果だけでなく、加齢中に単一の細胞レベルで何が起きているのかについて、最も完全かつ詳細な研究結果も提供しました」と、研究チームのGuang-Hui Liu氏は述べています。また、同じく研究チームのJing Qu氏は、「今回の研究における主な発見は、加齢中に起きる炎症反応がカロリー制限によって体系的に抑制される点です」と指摘しました。

また、研究チームがY box binding protein 1(YBX1)という転写因子に目を向けたところ、通常の食事を摂ったラットとカロリー制限を行ったラットでは、YBX1のレベルが23種類の細胞で大きく異なることも判明。研究チームはYBX1を加齢に関連した転写因子である可能性が高いと考えており、YBX1がもたらす影響についてさらなる研究を行う計画です。

「人々は、『あなたは自分が食べたもので作られている』と言いますが、これは多くの点で真実だとわかっています」と研究チームのConcepcion Rodriguez Esteban氏はコメントし、加齢に伴う細胞の状態は食事を含めた環境との相互作用に依存していると指摘。研究チームは新たに判明した情報が、老化を食い止める薬の開発に役立てられると考えています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
カロリー摂取量を減らすと体の酸化的ストレスが低下して老化スピードが遅くなる可能性が判明 - GIGAZINE

食事のカロリー制限をした方が好きなだけ食べるよりも健康で長生きできるという研究結果が発表される - GIGAZINE

周期的な低カロリー食の摂取で「老い」を遅らせることが可能なことが判明 - GIGAZINE

低炭水化物の食事は通常の食事よりも多くのカロリーを消費させるかもしれない - GIGAZINE

間もなく手が届くかもしれない「老化」を治療するための手法 - GIGAZINE

老化をコントロール可能な未来が来たとして私たちは寿命を延ばすべきなのか? - GIGAZINE

世界で初めて「生物学的年齢」を若返らせる可能性が示される - GIGAZINE

「ブルーライト」は目で見なくても老化が加速し脳が損傷するかもしれない - GIGAZINE

in サイエンス,   , Posted by log1h_ik

You can read the machine translated English article here.