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Googleが「カースト差別」に関する講演をキャンセル、「私たちの職場にカースト差別は存在しない」と広報担当者は主張


インドにはヒンドゥー教の教えに基づくカーストと呼ばれる身分制度が存在しており、中でも不可触民(ダリット)と呼ばれるカースト制度の外側に置かれる人々は厳しい差別に直面しています。そんなカースト制度は海外へ移住したインド人コミュニティにも受け継がれ、シリコンバレーのテクノロジー企業でもカースト差別が問題となっています。そんな中、Googleが人権活動家によるカースト差別の講演を土壇場でキャンセルしたと、アメリカの日刊紙であるワシントン・ポストが報じています。

Google cancelled a talk on caste bias by Thenmozhi Soundararajan after some employees revolted - The Washington Post
https://www.washingtonpost.com/technology/2022/06/02/google-caste-equality-labs-tanuja-gupta/

Googleにより講演がキャンセルされてしまったのは、ダリットや下位カーストの人権を擁護する非営利団体・Equality Labsの創設者であるThenmozhi Soundararajan氏です。Soundararajan氏はダリット出身の人権活動家であり、アメリカのカリフォルニア大学に進学したにもかかわらず、自分がダリットであることを公にするとキャンパス内のインド人教授たちから差別を受けたとのこと。カリフォルニア州オークランドに本拠を置くEquality Labsはダリットの公民権を保護することを提唱し、インド出身のエンジニアが多数在籍するシリコンバレーの企業に対しても、カースト差別の撤廃を訴えています。

Equality Labsに対する講演依頼は2020年に起きたジョージ・フロイド事件をきっかけに増加し、Soundararajan氏はMicrosoft・Airbnb・Netrflix・Adobe・Salesforceといった企業でカースト差別についての講演を行ってきたとのこと。そして2022年4月には、Googleニュースのシニアマネージャーを務めていたTanuja Gupta氏の招待により、Googleニュースの従業員向けに講演を行う予定でした。

Gupta氏はかつて、Google幹部によるセクハラ問題に対する会社の不適切な対応に抗議する「Google walkout」を主導した人物の1人です。2021年9月、Gupta氏は2人のGoogle従業員から社内で目撃したカースト差別について相談を受けたことで、Googleニュースのダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンに関する講演にSoundararajan氏を招待したとのこと。

ところが、Soundararajan氏が講演を行う2日前に、7人の従業員がGoogle上層部とGupta氏に対し「カースト公平性の議論によっていかに自分が傷つけられたか、いかに命の危険を感じたかを扇情的な言葉で訴えるメール」を送信しました。メールの中には、既知のフェイクニュースサイトからコピーしたSoundararajan氏の評判を傷つける情報も含まれていたそうです。

Soundararajan氏は、カースト問題になじみのない欧米諸国の機関はこうした内部からの反発に驚き、「自分たちのコミュニティ内に反発する人々がいるのか?もしかしたら、この問題に首を突っ込むべきではないのかもしれない」と考えてしまいがちだと指摘。結局、Googleにおける講演は一時延期された後、そのまま立ち消えになってしまいました。


そこでGupta氏は、Soundararajan氏の講演を復活させるために社内ウェブサイトを立ちあげ、約8000人規模の南アジア系社員に署名を呼びかけました。この署名には400人以上のGoogle従業員が参加したそうですが、一部の従業員からは「カースト差別は存在しない」「アメリカではカーストが問題にならない」「アメリカでカースト問題の意識を高める試みはさらなる分裂を招く」「カースト間格差を解消する試みは上位カーストへの逆差別だ」「下位カーストはヒンドゥー教の教典を解釈する教育を欠いている」といった反論も寄せられたとのこと。

そして5月12日、Googleの人事部はGupta氏に対して「行動規範に違反した」とする警告を受け、社内ウェブサイトの一部を削除するように指示されたほか、業績評価を下げることも伝えられたそうです。その後、Gupta氏はGoogleのヴァイス・プレジデントとSoundararajan氏も交えてミーティングを行いましたが、一体なぜSoundararajan氏の講演が拒否されているのか、どのように審査が行われたのかも明確にならなかったそうです。


Gupta氏が一連の出来事を同僚に話すと、その同僚は「上層部は何年も前(Google walkoutを主催した時)から、君にこんなことをする機会を待っていたんだよ」と言ったとのこと。結局、Gupta氏はGoogleを退職することに決め、一連の出来事について説明する(PDFファイル)文書をGoogle従業員に送ると共に、ワシントン・ポストと共有しました。

Gupta氏は文書の中で、「Googleにおいて『報復』は社内批判を処理するために常態化しており、女性がその被害を受けるのです」と述べ、今回の一件では自分やSoundararajan氏を含めて4人の有色人種の女性が嫌がらせや口止めを受けたと主張。また、Googleはインドのカースト上位家庭で生まれ育ち、カースト制度をよく知っているサンダー・ピチャイ氏がCEOであるにもかかわらず、カースト差別について黙認していると非難しています。なお、Soundararajan氏はピチャイCEOに講演に関する(PDFファイル)手紙を送りましたが、ピチャイCEOはこれに返信していないとのこと。

Soundararajan氏は、「ピチャイCEOはインド人かつバラモン(上位カースト)であり、インドのタミル・ナードゥ州で育ちました。タミル・ナードゥ州で育ってカースト制度について知らないということはありえません」「ジョージ・フロイド事件をきっかけにGoogleのダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンのコミットメントについて情熱的な発言ができるなら、彼は自分が特権的である文脈でも同じ約束をするべきです」と、ワシントン・ポストに語りました。

by FinnishGovernment

一連の問題について、Googleの広報担当者であるシャノン・ニューベリー氏は、「私たちの職場にカースト差別は存在しません。また、私たちの職場には報復や差別に対する非常に明確なポリシーがあり、公に共有されています。私たちはコミュニティをまとめて意識を高めるのではなく、分裂と怒りを生み出す講演を前に進めないという決断を下しました」と述べました。

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in メモ, Posted by log1h_ik

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