SNSの投稿にユーザーの位置情報を表示するインターネット検閲を「偽情報と戦うため」という大義名分のもと中国が拡大中
中国のインターネット検閲当局は長年にわたり、中国国内のインターネットを統制するためにさまざまな規制やツールを設けてきました。この中で、検閲当局は中国政府の意に沿わないSNSのアカウントや投稿を削除したり、特定のキーワードをブロックしたりしてきましたが、新たに「インターネット上に氾濫する偽情報と戦うため」という大義名分のもと、SNSの投稿にユーザーの位置情報をひもづけるという施策が展開されていると報じられています。
China’s Internet Censors Try a New Trick: Revealing Users’ Locations - The New York Times
https://www.nytimes.com/2022/05/18/business/china-internet-censors-ip-address.html
中国の検閲当局は、中国の国内情勢を不安定にすることを目的とした「海外発の偽情報キャンペーン」を特定するために、SNSの投稿にユーザーの位置情報をひもづけることを計画しています。これはロシアによるウクライナ侵攻がスタートしたのち、ロシアが展開した偽情報キャンペーンに対抗するための施策として展開されたもので、記事作成時点ではほとんどすべてのソーシャルメディアコンテンツに適用されているとのこと。
検閲当局はSNS上の投稿と位置情報をひもづける理由を「偽情報と戦うため」としていますが、海外メディアのThe New York Timesは「この施策は中国政府に批判的なSNSユーザーの所在地を特定するためのものである」と指摘。さらに、海外からSNSに投稿する中国人や、愛国心が少ないと判断された地方出身の中国人が、民族主義的なインフルエンサーの標的となり、そのファンから嫌がらせを受けたり、アカウントを通報されたりしていることも報告されています。
過去数カ月、中国では新型コロナウイルスのパンデミックに伴う厳しい都市封鎖措置が取られており、インターネット上には政府への批判の声が多数投稿されています。そのため、検閲当局はインターネット上の批判の声を制御するために四苦八苦しているとThe New York Times。
そんな中で施行されたのが、IPアドレスを用いてユーザーの位置情報を特定し、この位置情報をソーシャルメディア上の投稿とひもづけるという今回の施策です。この施策により、上海から政府の意にそぐわないようなコメントを投稿したユーザーは、ソーシャルメディア上で「利己的だ」と批判されるようになり、台湾や香港といった沿岸地域から政府を批判する人は「分離主義者」や「詐欺師」と呼ばれるようになり、VPNなどを使って位置情報を隠して投稿を行うユーザーは「外国の扇動者」や「スパイ」と呼ばれるようになったそうです。
ドイツ在住の中国人留学生のブラウ・ワン氏は、この施策が展開されてからインターネット上で中国政府を批判するような投稿を控えるようになったと語っています。その理由は、いわゆる荒らしに「このアカウントは外国のスパイのアカウントです」と通報され、中国で人気のソーシャルメディアであるWeiboをBANされることを恐れているためだそうです。
ワン氏は100万人以上のフォロワーを持つ民族主義的なグループのリーダーであるLi Yi Bar氏のような有名人に目を付けられることを恐れていると語っています。Bar氏らのグループは、中国が投稿と一情報をひもづける施策を実施して以降、中国政府に批判的な投稿をするSNSアカウントをリストアップするなどの活動を行っているそうです。
さらに、Bar氏らのグループがリストアップしたSNSアカウントには、荒らし軍団から誹謗中傷などの嫌がらせが殺到し、中にはアカウントを削除せざるを得ない状況にまで追い込まれたユーザーもいる模様。
香港中文大学のメディア学部で教授を務めるFang Kecheng氏も、「IPアドレスを手掛かりに、他人の動機を推測するようなユーザーが増えています」「中国ではインターネット上でもオープンな対話をすることが難しくなっています」と語り、中国政府によるインターネット検閲が新しい影響をおよぼし始めていると指摘しています。
なお、中国国内でもソーシャルメディアへの投稿と位置情報をひもづけるという新しい施策に対する批判の声は多く、2022年4月下旬に検閲されるまでに「施策の取り消しを求めるハッシュタグ」には8000件以上の投稿が集まり、閲覧総数は1億回を超えていたそうです。また、著名人のアカウントや政府関係者のアカウントは位置情報がひもづけられていないことが明らかになり、これに対しても批判の声が集まっています。
一方で、中国の国営メディアであるChina Commentはソーシャルメディアへの投稿に位置情報をひもづけることについて「インターネットの背後で物語を操作しようとする黒い影を断つために必要な施策」と主張しました。
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