まるで紙のように薄く壁に貼り付けられるスピーカーが開発される
マサチューセッツ工科大学のナノスケールエンジニアリング研究施設・MIT.nanoの研究チームが、紙のように薄く軽量でエネルギー効率も高く、自動車や部屋の壁に貼り付けられる薄型スピーカーを開発しました。
An Ultra-Thin Flexible Loudspeaker Based on a Piezoelectric Micro-Dome Array | IEEE Journals & Magazine | IEEE Xplore
https://ieeexplore.ieee.org/document/9714188
Researchers develop a paper-thin loudspeaker
https://techxplore.com/news/2022-04-paper-thin-loudspeaker.html
ヘッドフォンやオーディオシステムで一般的に使われているスピーカーは、音の信号を持つ電流をコイルに流して磁場を発生させ、この磁場がスピーカーの振動板を動かし、空気に振動が伝わって音が届くという仕組みです。一方、薄型スピーカーと呼ばれるタイプは、電圧を力に変換して空気を振動させる圧電素子を用いてこの構造を簡素化しています。しかし、ほとんどの薄型スピーカーは振動板が自由に動けないと音が出ないため、自立するように設計されており、壁などの表面に貼り付けると音が出なくなってしまうとのこと。
そこで、MIT.nanoのディレクターを務めるVladimir Bulović教授らの研究チームは薄型スピーカーの設計を再考し、全体を振動させるのではなく「圧電素子の薄い層状の小さなドーム」を複数振動させる構造を開発しました。研究チームはまず、薄いポリエチレンテレフタレート(PET)にレーザーで小さな穴を空け、PETの下面に圧電素子であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を積層し、積層したシートを真空で覆って下面に熱源を配置しました。PVDF層は非常に薄いため、電流が熱源を温めると真空との圧力差によって膨張し、PETの穴から小さな薄型ドームとして突き出ます。
PVDFのドームは高さわずか15ミクロン(0.015ミリメートル)ほどで、電気信号に応じて約0.5ミクロン(0.0005ミリメートル)ほどの幅で上下振動します。1つのドームが伝えられる音は非常に小さいものの、数千ものドームを配列することで人間の耳に聞こえる程度の音を生成することができます。また、ドームは空間を確保するスペーサー層で保護されており、取り付け面と関係なく自由に振動できるため、壁に張り付いた状態でも音を鳴らすことが可能です。
研究チームが開発した薄型スピーカーがどのようなものかは、以下のムービーを見るとわかります。
A paper-thin loudspeaker plays "We Are the Champions" by Queen - YouTube
男性が手に持っているのは、2つの電極がつながった薄いシート。
手を振るとひらひらと紙のように揺れます。
まるでスピーカーのようには思えない代物ですが、シートの面を画面方向に向けたところ、QUEENの「We Are The Champions」が聞こえ始めました。
電極を外すと音も聞こえなくなります。
電極を付けると、また音が聞こえるようになりました。
このスピーカーが1平方メートルの空間に音を鳴らす場合に必要な電力はわずか100ミリワット。平均的なホームスピーカーが同等の音を鳴らす際に必要な電力は1ワット以上とのことで、非常にエネルギー効率が高いことがわかります。
ググッと折り曲げても音が消えることはありません。この特性により、部屋や自動車の壁に貼り付けて音を鳴らしたり、劇場やテーマパークで立体音響を実現したりできるほか、バッテリ寿命が限られているスマートデバイスにも最適だとのこと。
論文の筆頭著者である博士研究員のJinchi Han氏は、薄型スピーカーの製造について「非常にシンプルで簡単なプロセスです」と述べており、将来的には大量生産も可能だとの見方を示しています。また、振動を生成する仕組みを応用することで、超音波を用いた人間の位置検出技術や液体中の化学物質をかき混ぜる化学処理技術、一定の光のパターンを生成するディスプレイ技術などに転用することも可能だとのこと。Bulović氏は、「私たちはスケーラブルな物理的表面を活性化させることで、空気の機械的な動きを精密に発生させることができるようになりました。この技術の使い道は無限大です」と述べました。
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